米上院は9月8日、特許法の包括的な改正法案を89対9で可決した。下院では6月23日に可決されており、オバマ大統領の承認後、公布される。
変更の中心は、先進国では米国のみが採用していた「先発明主義」から世界共通の「先願主義」への移行であるが、このほか、米国特許商標庁が新規特許出願に対し独自の料金を設定し徴収できること、特許付与後の異議申立て制度の導入などがある。
米国は2007年には先願主義への改正法案が下院で可決されたが、個人発明家や中小企業団体などの反対で、最終的に法律が成立しなかった。
付記 9月16日に大統領が署名、成立した。2013年春以降に申請する特許から適用される見通し。
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米国の特許が先発明主義であるため、長期間経ってから出現する「サブマリーン特許」がある。
モンテカチーニ技術を導入した日本のPPメーカーは二度にわたってこの被害を受けている。
モンテからの技術導入に際して、日本での製造販売のほかに、PPを使った製品の米国等への輸出について許可を得ているが、モンテへの特許料の支払い完了後に、米国への輸出製品について2社(そのうち1社はモンテ技術の承継社)に特許料を払わされた。
1)米国での物質特許
米国ではフィリップスが1953年に特許を出願したが、モンテが1955年に出願し、先発明であるとして1973年に特許を取得した。
しかし、フィリップスは自社の先発明を主張して争い、最終的に最高裁でフィリップスの特許が認められた。
このため1983年にモンテ特許は取り消され、フィリップスが特許を取得、それから17年間、2000年まで特許が生きることとなった。
この結果、日本の全PPメーカーはPPを使った製品の米国への輸出についてフィリップスに特許料を支払わざるを得なくなった。
(本来は自動車メーカー等に支払い義務があるが、日本ではPPメーカーは需要家に特許保証をしており、PPメーカーに支払い義務を振られた)
2)米国での Ziegler特許
当初、米国では以下の触媒使用特許が申請された。
①1953 Ziegler TiCl2/TEA
②1954 Ziegler/Natta TiCl2/(TEA or DEAC)
③1955 Ziegler TiCl2/DEAC
米国特許庁は③の審議に当たり、これが②の後願であるとして拒絶した。
これに対しDr.Ziegler及びその死後その権利を受け継いだMax Plancの特許管理会社 Studiengesellschaft Kohle (SGK)が先発明を理由に再申請し、23年かけて争い、1978年11月にこの特許が認められた。
この結果、②の特許が既にとっくの昔に期限切れになっているのに、③のTiCl2/DEAC は1995年11月14日まで米国で有効ということになった。
1986年11月、モンテから導入したZiegler特許のライセンス契約が全て(米国向け製品輸出の免責条項も含めて)終了した時点で、SGKは日本の自動車メ-カ-に対し、米国向け輸出自動車に使用されるPPに対してライセンスフィの支払いを要求した。
日本のPPメーカーは、この触媒を使用しているPPに関して、米国向け輸出自動車に使用されている分に相当するライセンスフィを支払わざるを得なかった。(三井石油化学や住友化学等の「担持型触媒」は対象外)
2006/4/20 ポリプロピレン特許係争
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米国の企業では、先発明を立証するための証拠として、毎日の研究結果を書類に残し、他の人が証明のため署名している。
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京都大学は2011年2月1日、米国のiPierian Inc.にiPS細胞関連特許のライセンスを許諾し、iPierian Inc.から同社保有のiPS細胞特許を譲り受けたと発表した。
米国では、米国特許庁がどちらが先に発明したかを選定する審判(Interference)の開始を宣言する可能性が高まったが、米国では先発明主義のため、係争になると、どちらが先に発明したかの調査などに膨大な時間と多額の費用がかかる。
このため、iPierianは、山中教授の発明を尊重し、将来想定される京大との特許係争を回避するため、同社保有特許を京大に譲渡したいと申し出た。
2011/8/15 京大のiPS細胞特許、米で成立
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