韓国の電力事情

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日本のハイテク企業が韓国に生産拠点や研究所を相次いで設置している。

地理的に日本と近く、人件費、電気料金、税金などのコストが日本より割安なことが理由だ。

東レは本年6月に、韓国・慶尚北道の亀尾国家産業団地で炭素繊維工場の起工式を行ったが、日覚昭広社長は「日本では電気料金がどれだけ上がるか分からないので、積極的に韓国への投資を増やすことにした」と説明した。

    エネ庁  電気料金 国際比較
      

朝鮮日報によると、2010年の韓国の家庭用電気料金は、kwh当たり0.083ドルで、OECD加盟国の平均0.156ドルのおよそ半分。商業用の電気料金は0.058ドルで、日本の0.154ドルに比べおよそ3分の1。

2001年以降、灯油価格は125.7%、軽油価格は172.2%上昇した。(都市ガスは52.5%)
しかし、電気代だけはわずか8.8%の上昇にとどまっている。(2011/6基準)

しかし、韓国の電力事情は複雑で、今後、停電の恐れ、電気料金値上げの可能性がある。

韓国の全国各地で9月15日午後3時ごろ、大規模な停電が相次ぎ発生した。首都ソウルや釜山、光州などの大都市、ソウル近郊の京畿道や仁川、全羅北道をはじめとする地方都市など約162万戸に影響が出た。

韓国知識経済省と韓国電力によると、停電の原因は想定外の残暑。南東部の大邱では34℃を超すなど、平年より5℃以上高い残暑に見舞われた。

この日の電力需要を6400万kwと想定していたが、気温が上がり需要は6726万kwに急上昇した。余裕電力が5%を下回ったため、全面停電を避ける措置として、地域ごとに循環する計画停電を実施したという。

当時の予備電力は韓国電力公社側が説明していた343万kwを大きく下回る24万kwにすぎなかったことが分かった。供給予備率でみると、わずか0.36%で、ブラックアウトになる寸前だったことを意味しており、ずさんな供給体制が改めて浮き彫りになった。

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韓国の電気代が安い第一の理由は、発電単価の安い石炭と原子力で発電電力量の約8割をまかない、かつ韓国の寒冷な気候のため日本と比べて原子力の設備利用率が高い(95%以上)ことである。

原子力発電所の発電容量は合計1.75ギガワットを超え、韓国の総電力消費量のうち45%を占める。

これに加えて、韓国の電気料金は「政策的料金」という位置づけのもと、料金をコスト以下に設定している。
電気料金が原価割れしている国は、OECD加盟国のうち韓国だけである。


 

韓国の新聞各紙は、このままでは誰もが油ではなく、電気を使うようになるのは当然のことだとし、以下のような状況を報告している。

・釜山市の子城台コンテナ埠頭は2008年、コンテナ運搬用クレーンの燃料を軽油から電気に変更した。

・忠清北道陰城のイチゴのハウス栽培業者は昨年春にハウスのボイラーを重油式から電気式に交換した。

・停電の翌日にソウル市内では、多くの店がエアコンの温度を下げ、ドアを開けたまま営業していた。

・昨年の冬、暖房用の電気温風器や電気ストーブは760万台売れた。
 新しい高級マンションでは最初からガスコンロではなく IHクッキングヒーターが設置されている。

・電気使用量 
  2001年 285,200GWh
  2010年 474,600GWh

韓国の電気料金は、家庭用・一般用(商業用)・産業用・教育用・農業用・街灯・深夜用という7つの料金体系に分けられている。家庭用・商業用に比べほかの分野の電気料金を安くして、恩恵を与える構造になっている。

韓国政府は1960‐70年代から、企業の原価負担を減らして国内の物価を安定させ、輸出競争力を強化する目的で、産業用電気料金をほかの用途(家庭用・商業用)に比べ安くしてきた。

昨年基準で見ると、産業用電気料金は1kw当たり4.99円で、家庭用は7.81円。

最近は、安い産業用電気料金の恩恵が少数の大企業に集中していると指摘されている。

サムスン電子や現代自動車など大企業30社が、電気の生産コスト相当の料金を払うとしたら、最近3年間で追加で支払うべき金額は1924億円にもなる。

ポスコが昨年納付した電気料金は168億円だったが、日本の電気料金制度なら447億円を支払わなければならない計算になる。

産業用電気料金を国際比較すると、韓国企業はかなり恩恵を受けており、電気を多く使う大企業ほどその恩恵が大きい。

付記 

9月30日付の朝鮮日報も「GDPを1ドル増やすのに日本の2倍電力を要する韓国・・・・電力の無駄遣いを減らせ」との記事を掲載した。

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韓国でも電力産業について2001年に「市場原理導入」「民営化」の方向がいったん決まり、国有の韓国電力公社の民営化が決まり、さらに同公社の発電部門が分社化された。

送電・配電・変電事業を担当して電力販売を事実上独占する韓国電力が、5つの火力発電会社と1つの原子力・水力発電会社から電力を購入して販売するようになっている。

しかし、合理化を恐れる電力関連企業の労組の反発を受け、民営化・自由化計画は、中途半端のまま、「先送り」の状態になっている。

韓国電力は政府が51%出資する半国営会社で、5つの火力発電会社と韓国水力原子力会社(KHNPはいずれも韓国電力の子会社のままである。

電気料金は事実上政府が決めており、産業用電気料金については、輸出の拡大という大義名分の下で低料金が容認されてきた。

この結果、韓国電力は2008年に2800億円の営業赤字を記録し、公的資金による約500億円の補填を受けた。
2009年には営業赤字は440億円にまで縮小したが、2010年は1375億円に再び急増した。

2007年末に2.9兆円だった負債額は、2010年末に4.5兆円に急増している。

2008年8月に韓国電力の社長として、LG電子のCEOであった金双秀氏が22人の公募候補の中から「韓国電力の改革をできる切り札」として起用されたが、赤字の責任を取り、わずか1期3年の任期満了に伴い退任した。

韓国の経済界では、「今の構造では誰がやっても巨額の赤字は避けられない」として、金社長の留任を求める根強い声があったという。

停電の際には社長が不在で、後任の金重謙氏(現代建設CEO)の就任は停電の翌日であった。

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電気料金が発電にかかる費用以下の低価格に抑えられているため、電気の無駄遣いをあおり、長期的には韓国のエネルギー需給に大きなひずみをもたらしている。

停電騒動も、低価格の電気料金が電気機器の急増をもたらし、それによって電力消費の急増と供給不足という悪循環によって発生したもので、上述の通り、本来なら軽油やガソリン、重油などを使用すべき状況でも、あえて電気を使うケースが相次いでいる。

さらに大きな問題は、軽油や石炭を利用して作られた電力の効率は、軽油や石炭を使用した場合のわずか半分にとどまっているという点で、安く電気を使うことで、電気以外のエネルギーが2倍以上も浪費されているわけだ。

また、韓国の大企業は、すでに安い電気料金に頼らなくてもよいほど成長している。

エネルギー経済研究院では、「メンテナンス費用まで考えると、電気料金を最低でも生産原価の105%までは引き上げなければならない。物価の問題を考慮しても、原価の100%ほどまではすぐにでも引き上げるべきだ」と主張する。

電気料金が10%上がれば、年間の電力消費は4%ほど減る。
年間190億kwで、金額では970億円の節約になり、100万kw規模の原発用原子炉2.5基分をストップさせることができる計算になる。

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電力の供給予備率は15‐17%が適正水準とされるが、韓国では2003年の18%をピークに低下を続け、昨年は6.7%、今年は 4.1%となった。
昨年末、知識経済部が発表した第5次長期電力需給計画案では、これまでの電力需要の伸びがこのまま続くと仮定した場合、供給予備率が2012年には 4.8%、13年には3.7%に低下する。

電力供給が不足するのは、電力需要の予測がでたらめだったことに加え、発電所の建設が計画通りに進まなかったり、計画が中止されたため。

2006年に韓国政府が発表した第3次電力需給基本計画(2006‐20年)は、今年の最大電力需要を6594万キロワットに設定した。しかし、今年の最大需要は7313万キロワットだった。これは、20年時点の需要予測(7180万キロワット)よりも多い。

第3次電力需給基本計画に盛り込まれた発電所建設事業のうち、建設が遅延しているか中止された事業は716万キロワット規模に上る。

このままでは、今後数年は大停電のリスクがあるとみられている。
発電所建設には時間がかかるため、電力料値上げによる需要抑制が行われる可能性が大きい。

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