中国の独占禁止法(反壟断法)は2008年8月1日に施行された。
2008/8/4 中国、独占禁止法施行
施行後3年強が経過した。その間、企業統合について500件程度の申請があったという。
その内、拒否は1件のみ、条件付き承認は7件で、うち日本企業は三菱レイヨンのLucite買収とパナソニックのサンヨー買収の2件である。
(2011年10月12日、公取委競争政策研究センターセミナー 時建中 中国政法大学教授の講演)
しかし、実際にはこの他に、承認を得られる可能性が少なく、統合を断念し、申請を取り下げたケースがある。
このほか、中国企業の反対を受け、不許可の仮決定を下したケース(後に承認)もある。
〔拒否ケース]Coca-Colaによる中国匯源果汁集団の買収
Coca-Colaによる中国最大の果汁メーカー、中国匯源果汁集団の買収に関しては、中国商務部は2009年3月にこれを不承認とした。
Coca-Colaが匯源社の「美汁源果粒橙」と「匯源果汁」という有名ブランドを押さえ、炭酸飲料での支配力と合わせ、潜在的競争者の参入を妨げるなどの理由をあげ、本取引が市場での競争を阻害するとした。
時教授によると、Coca-Colaは商務部の問題点指摘に対し、対応策などでの交渉を全く行わず、商務部としては不承認とするしかなかったという。
2009/3/24 中国、コカ・コーラの果汁大手買収を承認せず
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〔条件付き承認ケース]
① InBev のAnheuser Busch 買収
2008年11月にベルギーのビール会社 InBev が BudweiserのAnheuser Busch を買収したが、中国商務部は以下の条件を付けて承認した。
(1)青島ビールに対するAnheuserの株式保有率27%を増加してはならない。
(2)InBev の主要株主もしくは主要株主の株主に変化が発生した場合には、ただちに商務部に通告すること。
(3)珠江ビールに対するInBevの株式保有率28.56%を増加してはならない。
(4)華潤雪花ビールと北京燕京ビールの株式保有を求めてはならない。
華潤雪花は華潤創業と米Miller の合弁会社で中国販売量ナンバーワンビール(シェア15%)
2008/12/1 中国の独禁法、初の海外での合併ケース
② 三菱レイヨンのLucite International 買収
中国商務部は2009年4月、以下の条件付でこれを承認した。
1.能力除去
中国Luciteは5年間、生産能力の50%を第三者に原価(製造コスト+管理費、利益なし)で供給する。原価は独立した監査人の監査を受ける。(買収後6ヶ月以内に行う。正当な事情があれば、更に6ヶ月延長。)
Lucite中国は2009年11月に50%分の売却先を中国商務部に提案、2010年1月4日、商務部の承認を得た。
ルーサイト中国(上海市、MMAモノマー年産能力101千トン)の50%相当を中国国内外の企業4社に販売する。
売却価格は「製造コスト+管理コスト」で、売却契約締結日より5年間。
2.5年間の扱い
中国Luciteは三菱レイヨンからは独立した管理体制で運営する。
その間、両社は価格や顧客について情報交換しない。
この約束に反した場合、25万~50万元の罰金を課す。
3.5年間の新事業禁止
商務部の許可なしで次の行為を行わない。
1)中国でMMAモノマー、PMMAレジン・板のメーカーの買収
2)中国で新しくMMAモノマー、PMMAレジン・板の製造
③ Pfizer のWyeth買収
2009年1月にPfizer がWyeth を680億ドルで買収すると発表した。
2009/1/27 Pfizer、Wyeth を買収
中国商務部はこの買収の審査を行っていたが、2009年9月、Pfizerの豚マイコプラズマ性肺炎ワクチン(RespisureとRespisure One)の中国本土の事業の売却を条件に買収を承認した。
この分野でのシェアが49.4% (Pfizer 38%, Wyeth 11.4%)となり、2位のIntervet の18.35%をはるかに上回る。
その他は10%未満。また、新規参入も難しいとした。
④ GMによる自動車部品メーカーDelphiの買収(垂直型企業結合)
米国の自動車部品メーカーDelphi(1999年にGM社から分離・独立)は2005年10月にChapter 11を申請した。
再生計画の一部として、GMが米国の4工場と世界中のステアリング事業とを買収した。
(GMは10億ドル以上の債務を引き受けるとともに、20億ドルの債権を放棄し、17.5億ドルを投資)
中国商務部は、GMによるDelphiの中国のステアリング事業買収に関して審査をしていたが、2009年9月、以下の条件付でこれを承認した。
・GMとDelphiが、Delphiの他の中国の需要家に関する情報を交換しないこと。
(GMによる秘密情報取得の防止)・Delphiが他の中国の自動車メーカーに、差別なしに、部品を市価でタイムリーに供給を続けること。
商務部は競争上の懸念を2社と議論し、2社から解決案が出てきたとしている。
2009/10/15 中国独禁法による合併審査
⑤パナソニックの三洋電機買収
本件は1カ月の初期審査の結果、実質審査に入り、8月14日、商務部が競争上の問題がある旨指摘、双方は協議を持ったが合意に至らず、審査の60日の延長した。
(日本、米国、EUからも同様の問題点指摘を受けた。)
その後、三度の双方協議を経て、ようやく問題解消措置について合意、2009年11月5日、以下の条件付で承認を得た。
問題は下記の3つの電池市場で、いずれについても関連地理的市場は世界市場とされた。
中国域外の工場の売却を条件としたのは本件が初めて。
1) 自動車用ニッケル水素電池 (合併で中国市場で77%のシェア)
パナソニックの茅ケ崎市の湘南工場の第三者への売却
パナソニックは2011年2月1日、同工場のニッケル水素電池事業を中国の電池メーカー湖南科力遠新能源に売却すると発表した。特許を含む知的財産権を使用出来る契約。
受け皿会社に移管し、全株式を4千万元(約5億円)で売却する。トヨタとの合弁のパナソニックEVエナジーへの出資比率を40%から19.5%に引き下げ、取締役指名権ほかの放棄、JVの社名からの「パナソニック」の除外
2010年6月にプライムアースEVエナジーと改称
2) コイン型リチウム二次電池(同上 62%のシェア)
三洋電機の鳥取県岩美町の鳥取工場の第三者への売却(FDKに譲渡)
3) ニッケル水素電池(同上 46%のシェア)
三洋電機の群馬県高崎市の高崎工場の第三者への売却(FDKに譲渡)
又は、三洋電機の蘇州市の工場か、パナソニックの無錫市の工場の売却
⑥ NovartisによるAlcon買収
Alconは1945年に米テキサス州で薬局として創業し、点眼薬やコンタクトレンズケア商品など眼科分野の最大手メーカー。
1978年にNestleが買収し、77%の株式を保有していた。
Novartisは2008年にNestleから25%を、2010年に残り52%を買収して77%の株主となった。
2011年4月、NovartisはAlconを統合した。(株式交換手続きのため新株発行)
商務部は2011年8月、条件付きでこれを承認した。
商務部の懸念する問題点と条件は以下の通り。
・眼科用抗感染、抗炎症化合物
中国での合計シェア60%超
Novartisシェアは1%未満で、中国及び全世界関連市場から戦略的撤退を商務部に言明条件:Novartisは中国で販売しない
・コンタクトレンズ・ケア製品
合計シェアが世界で50%となり、中国では約20%で英国Hydronの30%に次ぐ。
HydronがNovartis製品の独占的販売業者となっており、今後協調での競争排除、制限の可能性がある。条件:NovartisはHydronとの契約を打ち切る。
⑦ ロシアの肥料メーカーのOAO Silvinit とOAO Uralkali の合併
2010/12/25 ロシアの2大肥料会社が合併へ
商務部は2011年6月、価格および供給に関する条件付きで承認した。
中国国内への供給に影響を与える可能性から、中国当局が外国企業の合併承認に際して価格および供給に関する条件を設定した初めてのケース。
条件:
・塩化カリの中国需要家への供給で、直接販売や貨車・船での供給など、従来のやり方を踏襲する。
・塩化カリの中国需要家の要請(数量、グレードなど)に応じる。
・価格交渉では従来の慣行を踏襲し、過去の経緯や中国市場の特殊性を勘案する。
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〔不許可の仮決定→承認ケース]
Nokia Siemens NetworksによるMotorola通信機器部門の買収
フィンランドのNokiaとドイツのSiemensの合弁会社Nokia Siemensは2010年7月、米通信機器大手Motorolaの無線インフラ事業の大部分を12億ドルで買収することを発表した。
これに対し、中国の大手通信機器ベンダー、華為(Huawei Technologies)は自社の知的財産が不正にNokia Siemensに渡るとして、この買収の差し止めを求める訴えをシカゴの連邦裁判所に起こした。
華為とNokia Siemensは、世界の通信機器関連市場でスウェーデンのEricssonにつづく第2位の座を争っていた。
華為もMotorolaの通信機器部門買収に動いたが、米政府が安全保障上の懸念を示したことなどからNokia Siemensが買収することになったという経緯がある。Motorolaは過去10年にわたり、華為との製造する通信機器を自社ブランドで再販するなど、協力関係をつづけており、これらの機器に含まれる華為の知財や業務上の秘密などが、同社の了承なく第三者の手に渡ることが問題とした。「われわれの保有する知的財産をMotorolaが第三者に渡すことを認めるという合意はしていない」とした。
中国商務部は2011年3月に不許可の仮決定を下した。
しかし、4月に華為とNokia Siemensとの間で、係争中のすべての訴訟を解決するとの和解が成立し、商務部は同月、これを承認した。
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〔断念ケース]
①Arcelor Mittalによる中堅鉄鋼メーカーの莱蕪鋼鉄(山東省)買収 (独禁法施行以前)
合併前のArcelorは2006年2月に莱鋼の親会社との間で莱鋼株の38.41%取得に合意した。
その後、MittalがArcelorを買収してArcelor Mittalとなったが、Mittalは既に湖南省の湖南華菱鋼鉄集団の傘下企業に出資していた。
鉄鋼産業を基幹産業と位置づける中国政府はミタルの動きに警戒感を強め、買収価格の引き上げや、一層の技術移転を要求した。
Arcelor Mittalは認可取得の見込み薄と判断し、2007年12月に断念した。
②The Carlyle Groupによる建設機械メーカーの徐工集団工程機械の買収
Carlyleは2005年10月に徐工の株式の85%取得に合意した。
しかし、「国有資産の流出」などの批判が強まり、出資予定比率を2度引き下げたが、当局の審査が長期化し、結局は合意から2年9カ月で、出資断念となった。
③ Rio Tinto と BHP Billiton の鉄鉱石統合
Rio Tinto と BHP Billiton は2010年10月、 鉄鉱石統合の断念を発表した。
契約調印後、各国の独禁法当局に認可の申請をしていたが、認可を得るのが難しい状況となったため、断念した。
(公正取引委員会も両社に対し「独占禁止法に違反する恐れがある」と指摘している。)
2010/10/18 Rio Tinto と BHP Billiton、鉄鉱石の製造JVを断念
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