東電と政府は、福島第一原発で新たに事故が起きた場合の損害賠償に備え、東電が1200億円を供託する方向で検討している。
事故に備えた従来の損害保険の契約が来年1月15日で切れるが、損保各社が契約更新をしない可能性が高く、「無保険」状態では、廃炉に向けた作業もできなくなるため。
原子力損害の賠償に関する法律では、原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならないとなっている。
一般の原子力損害については損害保険会社の原子力損害賠償責任保険契約に入り、責任保険契約によつては埋めることができない原子力損害(=地震、噴火、津波の自然災害)は政府が補償する原子力損害賠償補償契約を締結し、1工場当たり1200億円を賠償に充てることとなっている。
原子力損害の賠償に関する法律
第三条 (無過失責任、責任の集中等)
原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。
ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。第六条(損害賠償措置を講ずべき義務)
原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。第七条(損害賠償措置の内容)
損害賠償措置は、・・・原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であつて、・・・1工場当たり1200億円を原子力損害の賠償に充てる第八条 (原子力損害賠償責任保険契約)
原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を損害保険会社がうめることを約し、・・・第十条 (原子力損害賠償補償契約)
責任保険契約によつてはうめることができない原子力損害を・・・政府が補償することを約し、・・・
今回の事故に関しては、地震や津波によるため原子力損害賠償責任保険契約の対象にはならず、原子力損害賠償補償契約により、11月21日付で文部科学省から東電に1200億円が支払われた。
東電の中間決算では特別損失に損害賠償として-8,909億円が計上されたが、これは賠償見込み額 10,100億円から賠償補償の1,200億円を控除したもの。
現在の原子力損害賠償責任保険契約は来年1月15日に期限が来るため、通常なら契約を更新する。
しかし、福島第一原発は事故で設備が大きく破壊されているため、損保23社でつくる「日本原子力保険プール」は、「原発事故後の契約はリスクが高い」として、民間保険契約を更新しない方向で検討している。
原子力損害の賠償に関する法律第六条では「原子力損害を賠償するための措置を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない」となっており、廃炉へ向けた核燃料の取り出し作業などが認められない可能性がある。
運転等とは、原子炉の運転、 加工、再処理、核燃料物質の使用、使用済燃料の貯蔵、 「核燃料物質等」の廃棄
このため、第七条で規定する損害賠償措置のうちの「供託」により、1工場当たり1200億円を原子力損害の賠償に充てるもの。
東電は1200億円の現金や有価証券を法務局に供託し、事故が起きた場合にはこれを賠償に充てることとなる。
東電は通常なら保険料を支払うだけで済むところを、1200億円全額の支出が必要となる。
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