武田薬品の中間決算と移転価格税制問題

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武田薬品の中間決算は、売上高が円高の影響(-287億円)と米国での糖尿病治療薬、消化性潰瘍治療剤の減収などにより、全体として減収となり、これが影響して減益となった。

 

  売上高 営業損益 経常損益 当期損益 配当
中間 期末
10/9 714,025 221,619 225,473 144,211 90.0  
11/9中 702,502 211,046 209,551 135,660 90.0  
増減 -11,523 -10,573 -15,922 -8,551    
             
11/3 1,419,385 367,084 371,572 247,868 90.0 90.0
12/3(7/29) 1,450,000 390,000 395,000 250,000 90.0 90.0
12/3予(今回 1,540,000 270,000 270,000 170,000 90.0 90.0
同 増減 90,000 -120,000 -125,000 -80,000    

 

2012年3月期の損益予想については、今回、7月29日発表のものから大きく下方修正した。

武田薬品は本年9月末に、スイスのチューリッヒに本社を置く Nycomed96億ユーロでの買収を完了し、100%子会社とした。

2011/5/23 武田薬品、Nycomed社を買収

武田薬品「ナイコメッド社について」  http://www.takeda.co.jp/pdf/usr/default/j02_47220_3.pdf

同社では、米国での糖尿病治療薬の伸び悩みに加え、この買収の影響と為替レートの見直しを加味して、前回発表の予想から修正した。

営業損益の下方修正の内訳は以下の通り。(億円)

Nycomed 買収
   の影響
Nycomedの営業損益(下期)  120
無形資産、ノレンの償却 -200
棚卸資産の時価評価 -570
小計 -650
糖尿病治療薬等の販売減 -390
円高の影響 -160
合計    -1,200

Nycomed買収の会計処理については、買収後1年以内に会計監査人による監査を経て確定する。
このため、現時点での予想値は同社による見通しで、確定額ではない。

なお、米国での糖尿病治療薬、消化性潰瘍治療剤の販売状況は以下の通り。(億円)

  2007 2008 2009 2010 上期 2011
年間予想
前年比
2010 2011 増減
糖尿病治療薬
(ピオグリタゾン)
3,186 3,017 2,974  3,062 1,551 1,394 -157 2,610 -452
消化性潰瘍治療剤
(ランソプラゾール)
452  1,731 1,190 428 315 140 -175 235 -193

 ーーー

武田薬品は11月4日、移転価格税制の適用による二重課税の排除を求め、2008年7月に国税庁に対し米国との相互協議を申し立てたが、国税庁から、相互協議が合意に至らず終了した旨の通知を受領したと発表した。

2006年6月に、米国アボットとの50:50の合弁会社であったTAPファーマシューティカル・プロダクツ(TAP:その後会社分割)との間の2000年3月期から2005年3月期の6年間の製品供給取引等に関して、米国市場から得られる利益が武田に過少に配分されているとして、移転価格税制に基づき、大阪国税局より所得金額で6年間で1,223億円の所得の更正を受け、約570億円の追徴税額を課せられたと発表した。

これに対し、武田薬品は、
①TAPとの取引価格はアボットの合意なしには決められず、独立企業間価格であり、移転価格税制が適用されるべきものではない、
②価格を安くすればTAPの利益が増えて半分がアボットにいくため、武田にとってTAPに所得を移転する意図や動機はない、
として、徹底抗戦の構えで、追徴税額は返還されるものとみなし、業績は修正せず、追徴分は貸借対照表には固定資産の「長期仮払税金」として計上した。

2006/6/29 武田薬品、移転価格税制に基づく更正

米国側との相互協議は、日本で更正した額を輸出価格の値上げとして米国で追加でコスト算入して利益を減らし、米国での税金を減らすというもの。

武田の主張の通り、通常は50/50JVとの取引価格は独立企業間価格とみられ、移転価格税制は適用されないため、米国側が応じないのは当然である。

同社は相互協議の申請に伴って一旦中断していた異議申し立て手続きにつき大阪国税局へ再開を申し入れる。

 

移転価格税制では、信越化学が2008年に約110億円の追徴課税を受けていた問題で、還付加算金を含めて日米合計で約119億円が還付された。

2010/6/11 信越化学の移転価格課税、119億円還付へ 

この2件については、国税庁の認識が明らかにおかしい。

 

 

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