イレッサ控訴審、東京高裁で遺族側が逆転敗訴

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肺がん治療薬「イレッサ」の副作用死を巡り、患者3人の遺族が輸入販売を承認した国と輸入販売元のAstraZenecaに賠償を求めた訴訟の15日の控訴審判決で、東京高裁は遺族側主張を全面的に退けた。

イレッサ(一般名はGefitinib)は英国のAstraZenecaが開発した肺がん治療薬

厚生労働省は2002年7月、世界に先駆けて、申請から半年で輸入承認した。
2002年8月に発売され、2カ月の間に、1万人以上の患者に投与された。

がんの増殖、転移に関係する分子を狙い撃ちにする「分子標的治療薬」で、正常細胞を傷つける抗がん剤より副作用が軽いと期待されたが、市販開始直後から間質性肺炎などによる副作用死が相次いだ。

販売を始めた2002年7月には添付文書の「重大な副作用」の4番目に致死性の肺炎が記されていたが、副作用死が相次いだため、厚労省は同年10月、全国の医療機関に緊急安全性情報を出し、肺炎の副作用を「警告欄」に記載するよう改めた。

これまでの多くの研究・調査の結果から、以下のことが明らかになっている。
・ゲフィチニブは上皮成長因子受容体に特定の遺伝子異常を有する人に対して高い有効性を示す。
・日本人肺癌患者の約30~40%程度にこの遺伝子異常が認められる。

2011年3月末時点での死亡者数は,報告されているだけでも825人にも上っている。

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これまでに大阪地裁と東京地裁で裁判があった。

両地裁は和解勧告を行ったが、原告・被告共に和解を拒否した。

両地裁は、厚生労働省がイレッサを承認し、同社が販売を始めた2002年7月から、同省が「緊急安全性情報」を出した同年10月15日にまでに服用し、副作用で間質性肺炎を発症した患者5人(うち4人死亡)について、国と同社には救済する責任があるとの見解を出し、原告らへの和解金支払いを提示した。和解金の額は示されていない。

2011/1/31 政府、イレッサ訴訟で和解勧告拒否

大阪地裁は2011年2月25日に以下の判決を下した。

アストラゼネカ:警告欄に記載するなどして注意喚起を図るべきだった。
    緊急安全性情報配布(2002/10)前は製造物責任法上の欠陥があり、賠償責任あり。
    原告9人に計6050万円の賠償。2002/10以降服用し死亡した男性の請求は棄却。

政府:添付文書に関する行政指導は必ずしも十分ではないが、当時の知見のもとでは一定の合理性がある。
    国家賠償法上の違法はない。

原告側は国の責任に関して控訴した。

東京地裁は2011年3月23日に以下の判決を下した。

患者2人について国とア社の責任を認め、計1760万円の支払いを命じる。
死亡患者3人のうち1人については、発売3カ月後に説明書の「警告」欄で副作用が注意喚起された後に服用しており、請求は退けられた。

裁判長は「国は承認前の時点で副作用による間質性肺炎で死に至る可能性があると認識していた」と指摘した。
そのうえで「安全性確保のための必要な記載がない場合、国は記載するよう行政指導する責務がある」との見解を示し、間質性肺炎の危険性を目立つように記載するよう指導しなかった国の対応を違法と結論付けた。

原告・被告ともに控訴した。

2011/3/26 イレッサ訴訟、東京地裁は国の責任も認める

今回は東京地裁の判決に関する控訴審の判決である。
高裁は、9月の第1回口頭弁論から計2回のスピード審理で判決を言い渡した。

判決骨子◆
日本人に間質性肺炎の発症率が高く、死亡もあり得るという副作用を考慮しても、イレッサには有用性があり、製造における設計上の欠陥はない
イレッサの初版添付文書に警告欄がなく、副作用が致死的になり得るとの記載がなくても、指示・警告上の欠陥ではない

・イレッサが治療困難な肺がん患者に専門医が処方する薬剤だった
・専門医であれば間質性肺炎による死亡の可能性を認識できた
・国内の治験で死亡例はなく、海外の死亡例も因果関係があるとまでは言えない
 (がんの進行による死亡の可能性もある)

アストラゼネカに欠陥ある薬を輸入販売した責任はなく、国の不作為責任は論じるまでもなく認められない

欠陥があるとの前提事実がない以上、規制権限の不行使が違法かどうか論じるまでもない

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今回の判決での国の責任に関しては「患者の保護」「予防原則」の観点から厳しい批判がある。

「予防原則」は、サリドマイドなどの薬害や水俣病などの公害を教訓に確立された。

薬の副作用や公害の健康被害は、因果関係が科学的に解明されるまで時間がかかる場合が多いため、因果関係がはっきりしない段階でも、行政や企業は予想される最悪のケースを念頭に対策を講じることが重要との考え方。

東京高裁の判決は、添付文書への副作用の記載が違法かどうかについては、臨床試験で起きた有害事象と薬の投与との間に「因果関係がある」のか、「疑いがある」というレベルなのかを厳密に区別して判断すべきだとした。

 

なお、大阪訴訟の控訴審は10月に第1回口頭弁論が開かれ、12月15日に第2回弁論がある。

 

 

 

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