EU首脳会議は12月9日、ユーロ圏の政府債務危機への総合対策を盛り込んだ議長総括を採択し閉幕した。
財政規律強化のための新条約の制定は英国の反対で決定できず、ユーロ圏を中心とした条約とする。
(EU条約改正には加盟27カ国の全会一致の批准が不可欠)
付記
EUは12月16日、新条約の原案をまとめ、加盟27か国に送付した。来年1月中の条約案合意を目指す。
ユーロ圏17か国のうち少なくとも9か国が批准した後で発効するという手順となっている。
参考 2011/11/7 EU 金融危機
EU首脳会議のポイントは以下の通り。
1) 財政規律強化のための新条約の制定(通貨統合から「財政統合」への一歩)
構造的な財政赤字の水準に新たな基準を導入、将来の財政赤字をゼロにする「均衡予算」の達成・維持を各国憲法や基本法などで義務づける。
一時的な景気悪化で税収が落ち込むなどの場合は、名目GDP比で0.5%の構造的財政赤字まで容認する。財政赤字がGDP比で3%を上回った国には自動的に制裁
(もともとユーロ圏諸国には財政赤字がGDP比3%以下など厳しい財政規律が義務付けられ、罰則もあるが、過去に違反した独仏両国を含む各国は制裁はされておらず、骨抜きになっていた。)ドイツは「EU司法裁判所による各国への執行の強要」案を取り下げ
フランスは欧州委員会に強大な権限を与えるドイツの案を拒否財政計画のEUへの事前提出
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英国が主権制限を懸念して拒否、孤立化。
英国の下記主張を独仏が拒否。
・欧州銀行監督機構(EBA)が英当局の権限を抑えるのをやめる
・EBAの本部の所在地をロンドンから別の場所に移さない
・各国で金融規制に関するEUルールの適用を柔軟に変えられるようにするユーロ圏17カ国に非ユーロではブルガリア、デンマーク、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、チェコ、スウェーデン、ハンガリーの9か国が参加の検討を表明 、最大26か国で制定。
2012年3月までの署名を目指す。キャメロン英首相は次のとおり述べた。
・条約改正は英国の利益にならないから賛成しなかった。
・単一通貨に入っていなくて良かった。
・ユーロ圏諸国が団結して問題を解決することを願う。
しかし、英国の利益に対する保護措置がなければ、条約改正ではなく、別の取り決めが望ましい。
・EUに加盟していることは英国の利益。英国のEUへの影響力は維持される。仏独が推進する金融取引税の導入に対する強い反対が背景とされる。
2) 欧州安定メカニズム(ESM)の稼働前倒し
欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の後継となる欧州安定メカニズム(ESM)を予定より1年前倒しし2012年7月に設立。
資金力の上限を5,000億ユーロに制限し、銀行免許を付与しない。欧州金融安定基金(EFSF)を2013年半ばまで存続させ、4400億ユーロ規模のEFSFとの併用で、イタリアやスペインなどの国債購入、欧州銀行への資本増強、資金繰り難に陥った国への緊急融資などに充てる財源を多めに確保。
但し、債務残高は以下の通りで、イタリアなどの危機打開には不足。
ポルトガル 1,613億ユーロ
ギリシャ 3,294億ユーロ
スペイン 6,418億ユーロ
イタリア 18,428億ユーロ
3) 国際通貨基金(IMF)を使った新安全網の整備
ユーロ圏各国などが、IMFに計2000億ユーロを融資
うち1500億ユーロはユーロ圏加盟国が拠出
IMFは、この資金で財政悪化国を金融支援日本など先進国や中国など新興国の協力による規模拡大を期待
付記 12月19日、各国財務相は電話会談を開いたが、英国が反対し、1500億ユーロの合意に止まった。
このため、G20などに資金要請を行った。
4) 財政悪化国の再建支援
民間金融機関に借金の棒引きを求める措置は、ギリシャ救済に限定する
5) 「ユーロ共同債」導入は検討継続
ドイツが強硬に反対
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クロアチア政府は2011年12月9日、EU加盟条約に調印した。28か国目の加盟で、2013年7月に加盟する。
クロアチアはEU加盟に向け、民主化・経済改革を進めてきた。観光業を中心に2000年以降は毎年4~5%の経済成長を遂げたが、2008年の世界的な金融危機で失速。景気回復に手間取る一方、政府債務が拡大しており、財政の健全化と景気対策の両立という難しいかじ取りを迫られる。
EU首脳会議はセルビアが目指しているEU加盟候補国入りについて来年3月まで決定を先送りすることを決めた。
セルビアがコソボとの関係正常化交渉を再三中断してきたことなどを受け、コソボとの協力協定を来年2月までに締結するようセルビアに求めた。
他に候補国となっているのは、マケドニア旧ユーゴスラビア、トルコ、アイスランド、モンテネグロ。
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