EUとウクライナは12月19日、キエフで首脳会議を開いたが、目指していた自由貿易協定を含む連携協定の調印を見送った。
EUとウクライナの自由貿易協定交渉は、2008年2月5日にウクライナのWTO加盟手続が終了したことを受け、同年2月18日に開始された。
「EUはウクライナの (他を遥かに凌ぐ)最大の輸出先であり、経済関係の緊密化を通じて通商と投資を増大させるにあたって、明白なパートナーである。」(EU発表)
2009年9月には協定名称を「連合協定 (Association Agreement)」とし、政治・経済面の協力強化を図るものとすることが決まった。
別途、2009年5月にはウクライナを含む旧ソ連6か国(他にアルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、モルドバ、ベラルーシ)とEUの間で「東方パートナーシップ」が発足した。関税や査証の撤廃など、協力関係の強化のために定期的に会合を開いている。
2010年3月、ヤヌコーヴィチ大統領はウクライナ外交にとって欧州統合が優先課題であることを改めて表明した。
ウクライナはFTA創設合意、連合協定、EU査証廃止の3つの目標を掲げ、2011年9月の東方パートナーシップ首脳会合において、包括的FTA創設交渉は2011年中の終了が可能と確認された。
(EU査証廃止についても、2012年の欧州サッカー選手権大会までに実現すべく、積極的に国内改革及び欧州側との交渉を進めている。)
今回のキエフで首脳会議で、自由貿易協定を含む連携協定の調印を行う予定であった。
EUのファンロンパイ大統領は、連携協定の交渉はほとんど終わっているとし、署名するかどうかはロシアとの天然ガス取引をめぐり職権乱用罪で禁錮7年の判決を受け控訴中のティモシェンコ前首相に対するウクライナ側の扱いにかかっていると指摘し、前首相の釈放がなければ署名は難しいとの認識を示した。
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ウクライナの首都キエフの地区裁判所は10月11日、ロシアとの天然ガス取引を巡り職権乱用罪を問われたティモシェンコ前首相に禁錮7年の有罪判決を言い渡した。
2009年1月1日、ロシアの独占天然ガス会社 Gazprom は、ウクライナへの天然ガス供給を完全に停止した。
両国は、20億ドル以上とする天然ガス供給の代金未払いや債務、滞納の罰金支払いの調整及び2009年からの価格について年末から協議していたが、31日までの交渉が不調に終わったため、強硬措置に訴えた。
2008年のウクライナ向け天然ガス価格は179$/1000m3 だが、ガスプロムは2009年の価格を一気に「国際価格」の418ドルに引き上げた。
背景には、グルジア紛争の際に、ウクライナのユーシェンコ大統領がグルジアに戦車やミサイルなどを提供したとの疑惑や、ウクライナのNATO加盟問題など、ウクライナとロシアの対立があるとみられる。ウクライナ向け天然ガス供給停止により、天然ガス需要の約25%をロシアに依存し、その7割をウクライナを経由する欧州にも混乱が拡大した。
2009/1/2 ロシア、ウクライナ向け天然ガス供給停止
1月18日、ロシアのプーチン首相とウクライナのティモシェンコ首相(女性)がガス価格の引き上げに大筋で合意、19日に今後10年間のヨーロッパ向けガス輸送と、ウクライナへのガス供給を確認する合意文書に調印した。
・2009年のガス料金は欧州向け価格より20%割り引く。
・2010年以降のガス料金は欧州並とする。(石油価格と連動)ーーー
2010年にティモシェンコ前首相の政敵のヤヌコビッチが前首相との決戦投票で大統領になると、当局はティモシェンコ前首相が2009年にロシアが求めるガス価格の引き上げに応じ、15億フリブナ(約140億円)の損害を国庫に与えたとして 職権乱用罪で起訴し、2011年8月には審理妨害で逮捕した。
ウクライナの裁判所は政権の強い影響下にあるとの指摘が多く、禁錮7年の判決も検察側の求刑通りとなった。
前首相は刑期終了後、3年間公職に就くことも禁じられた。15億フリブナ(約140億円)の賠償も命じられた。
ティモシェンコ前首相は法廷で「判決は裁判官ではなくヤヌコビッチ大統領が下している」と批判し、控訴した。
大統領による政敵排除のための政治的リンチだと述べている。
ウクライナでは2012年秋に議会選が予定されており、親欧米派のティモシェンコ前首相の参加を阻止したい現政権の思惑が働いているとされる。3年間公職禁止はこのためとみられている。
EUは有罪判決の背景にヤヌコビッチ現政権との政治対立があるとの見方を強め、判決を批判する声明を発表した。
ウクライナによる民主主義基準の遵守に一定の疑念が生じている旨懸念すると表明し、「司法システムの全面的な改革」や「政治的動機による裁判や恣意的な裁判への対策」が不可欠だと強調した。
米国や人権グループも批判している。
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一方でロシアは、ウクライナとEUとの連携協定交渉の進展に合わせ、ウクライナを自国の影響下に置くため、ウクライナにガス供給価格を一部引き下げる譲歩をした。ロシア・カザフスタン・ベラルーシで結んでいる関税同盟への参加も求めている。
上記の契約では2012年の天然ガス価格は原油価格に連動して416ドル(1000m3当たり)に上昇する見通しで、ウクライナは約224ドルへの値下げを要望している。
しかし、ガスプロムは条件としてウクライナ国内のガス輸送システムへの50%の出資受け入れを求めているとされる。ウクライナ側は出資比率を3分の1にとどめたい意向で、溝が残っている。
この交渉の最中に、2009年にティモシェンコ首相がロシアのプーチン首相と締結した天然ガス契約が違法と判断され、ロシア側は強く反発、プーチン首相も、「契約に異議を唱えるのは危険で逆効果」と指摘した。
ウクライナは今後、EUとロシアとの双方と厳しい交渉をもとめられる。
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なお、ウクライナはNATO参加を希望、1997年には「ウクライナ・NATO間の特別な関係に関する憲章」に署名し、NATOとの関係強化を明確にした。
2008年4月のNATOブカレスト・サミットにおいてウクライナの将来の加盟については合意された。
しかし、2010年2月に就任したヤヌコーヴィチ大統領は、ウクライナはNATOに加盟する計画を有していないと発言し、2010年7月には、ウクライナの地位を「非同盟」と規定し、あらゆる軍事政治ブロックへの参加を拒否する内容の「ウクライナの内外政方針に関する」法律が発効した。
これにより、ウクライナのNATO加盟は不可能となった。
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