米が反ダンピング課税で「ゼロイング」廃止

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米政府は2月6日、日本とEUの要求に応じ、反ダンピング(不当廉売)関税の計算法「ゼロイング (Zeroing)」を廃止することで日欧と合意したと発表した。7日以内にゼロイングを撤廃することを約束した。

米通商代表部(USTR)のRon Kirk 代表は声明で「厄介な、損害を与える可能性のある貿易問題とついに決別した」とし「貿易における報復の不確実性を伴うことなく、米国の農家、企業は雇用を創出する輸出市場に投資できる」との見解を示した。
米国の輸出業者に対する数億ドルもの報復措置を回避できるとしている。

一方で、Kirk代表は今後のWTOの交渉でZeroingがWTOのルールに合致するという主張を続けると述べた。

反ダンピング関税の計算で米国が用いてきた「ゼロイング」は世界貿易機関(WTO)が国際ルール違反と認定している。

ゼロイングとは以下の例のように、高値輸出を無視し、安値輸出のみで計算することにより、全体のアンチダンピング税率を不当に高くする計算方法。高値輸出のダンピングマージンをゼロとするもの。

正常価格 100
輸出価格がAが80(ダンピングマージン 20)、Bが125(同
-25)、Cが150(同 -50)の場合
(いずれも同数量とする)

通常の計算 〔(20)+(-25)+(-50)〕/(80+125+150) = -15.5% ダンピングなし
  

ゼロイング  〔20+0+0〕
/(80+125+150) = 5.6% ダンピングあり

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日本は、2004年11月、米国のゼロイングはWTO協定に違反すると主張し、WTOに対して協議を要請した。
2007年1月、WTOは日本の申立てを認め、米国にゼロイングの撤廃を勧告したが、米国は勧告履行期限である同年12月を経過してもこれを是正しなかった。

WTOの紛争処理上級委員会は2009年8月、日本の提訴に基づきWTO協定違反と認定されたゼロイングについて、日本の主張を認めた小委員会(第1審)の判断を支持し、米国がWTOの是正勧告に従っていないと認定した。日本の「勝訴」が確定し、米国は計算方法の見直しが義務付けられた。

2009/8/20  米の反ダンピング関税調査、WTO違反が確定

しかし、米国は依然としてゼロイングを適用し続けた。

国際社会においては、当事国の意思に反して国際法上の義務の履行を強制することは難しい。
ゼロイング案件において米国が紛争解決機関勧告を履行しない場合の対策としては、紛争解決機関の事前承認を受けた上で「譲許その他の義務の停止」をすることができる。
具体的には、WTO協定のその他の加盟国との間で約束した関税率を、勧告を履行しない国との関係においては引き上げることもできることになる。

このため日本は、米国に対してゼロイングを撤廃するよう繰り返し求めるとともに、2010年4月からは米国への対抗措置(関税引上げ)に着手するためのWTOの手続を進めてきた。

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日本の産業界は、ゼロイングにより米国から多額のアンチダンピング税を過剰徴収されてきた。
特にベアリング業界は同税の賦課が開始された1989年以降、22年間にわたって年間約10億円を過剰支払となっている。

ベアリングの関税は通常は2~9%だが、対米輸出ではこれに10%程度上乗せされてきた。
ゼロイングの撤廃で上乗せ関税がなくなるほか、米国からは2010年5月以降の上乗せ関税(計20億円程度)が還付される。

枝野経産大臣は、「世界経済が停滞し保護主義措置の蔓延が懸念される中で、多角的貿易体制の下でWTO加盟国によるルール遵守が徹底され、WTO紛争解決メカニズムが機能することを重視する」との立場を表明した。
その上で、「今後、米国の新規則がWTO勧告に沿って運用され、ゼロイングが確実に廃止されるよう引き続き注視していきたい」との考えを示した。

 

 

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