国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会は2月15日、国会内で第4回委員会を開催し、参考人として、原子力安全委員会の班目春樹委員長と原子力安全・保安院の寺坂信昭前院長の2人を招致し、質疑が行われた。
国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会は次の目的で国会に設置された機関
①福島原発事故に係わる経緯・原因の究明
②今後の原発事故の防止及び被害の軽減のための施策又は措置の提言委員長は黒川清氏(東京大学名誉教授、元日本学術会議会長)で、委員には地震学者の石橋克彦氏(神戸大学名誉教授)や島津製作所の田中耕一氏などが入っている。
委員会終了後、黒川委員長は以下の通り述べた。
http://www.naiic.jp/wp-content/uploads/2012/02/ik04.pdf
1)原子力安全委員会の班目委員長自身が安全指針そのものに瑕疵があったことを認め、謝罪した。
・昭和39年の原子炉立地審査指針という、時代に沿わない指針をもとに設置が許可されていること
・現状の発電所の安全性に大きな問題がある
同指針の「仮想事故」(技術的には起こることは考えられない事故)よりも、はるかに多くの放射能が放出された。
・原子力発電所を建てられない日本に、建てられるように基準を作っており、全面的にその改訂が必要
2)原子力の安全を担う使命を持つそれぞれの組織に緊急時の備えが出来ていなかった。
また、そこには事故はないであろうという前提で推進されてきた原子力の根本的な問題を含んでいる。
それぞれの組織が住民あるいは国民の安全を守るという意識が欠如しているということも判明した。
3)組織としての専門性のなさ、組織の長としての専門性のなさによる問題も浮き彫りにされた。
独立性の高い、科学的根拠に基づいた勧告や提言の行える制度や組織の重要性が改めてクローズアップされた。
今後、原発事故を引き起こした日本としては国際的な信頼に足る安全基準をつくる責務がある。
斑目委員長と寺坂前院長の発言は以下の通り。両氏が平然と(時には笑いながら)問題点を挙げているのには愕然とする。http://www.shugiintv.go.jp/jp/wmpdyna.asx?deli_id=41555&media_type=wb&lang=j&spkid=&time=
1)斑目委員長
原発の安全対策を示した国の指針について、いろんな意味で瑕疵があった。原子力安全委員会を代表してお詫びする。
・津波に対する十分な記載がなかったり、すべての電源の喪失も「長時間考えなくてもいい」とされていた。
・アメリカでは全電源喪失への対応など安全基準を高める動きがあった。
これに対し、日本では、対策をやらなくてもいいという言い訳づくりばかりやっていた。
抵抗があってもやるという意思決定ができにくいシステムになっている。
・官僚制度の問題
任期(2年)の問題、減点主義から大きな改革が出来ない。やらない言い訳だけを考える。
・事業者の責任を強く求めるべき。事業者と規制当局の間にオープンなコミュニケーションが必要。
実際には護送船団方式で、低い安全基準を事業者が提案し、規制当局がのんでしまう。
国がお墨付きを与えたから安全だとなり、事業者が安全性を向上させる努力をしなくなる悪循環に陥っていた。
一義的には事業者に責任。指針を超えてでも安全性を求めるべし。
斑目委員長は、浜岡原発訴訟の中部電力側の証人として証言、複数の非常用発電機が起動しない可能性を問われ、以下の通り答えた。
「非常用ディーゼルが二台同時に壊れて、いろいろな問題が起こるためには、そのほかにもあれも起こる、これも起こる、あれも起こる、これも起こると、仮定の上に何個も重ねて初めて大事故に至るわけです。[・・・]何でもかんでも、これも可能性ちょっとある、これはちょっと可能性がある、そういうものを全部組み合わせていったら、ものなんて絶対造れません。だからどっかでは割り切るんです。」
事故後の3月22日の参院予算委員会で社民党の福島瑞穂党首がこの発言を追及したのに対し、班目氏は「割り切らなければ(原発の)設計ができないことは事実。割り切り方が正しくなかったことも、十分反省している」と述べた。今回、これについて質問を受けたが、記憶にないと述べた。
・津波が想定を超えても、それを超えた防御がなされているべきだった。
福島沖で大きな津波の可能性の知見があった。これへの対応がなかったのは残念。
・国際安全基準に全く追いついていない。30年前の技術で安全審査をしている。早急に直さないといけない。
IAEAでは五重の防御が必要とし、シビアアクシデント対策、防災対策も求めているが、日本にはない。
放射性物質の拡散を予測するSPEED1のデータのが迅速に公開されていたらもっとうまく避難できたというのは、全くの誤解だ。
SPEED1の予測結果に頼った避難計画にしていること自体が問題で、直ちに避難するようなルールにしておくべきだった。
2)原子力安全・保安院の寺坂前院長
2001年に発足以降、人材育成や能力向上をはかってきたが、欧米と比べると専門性や知見は十分なものでなく、弱い。
緊急事態に対応できる人材がいたかというと否定的にならざるを得ない。専門性、知見、習熟度は米国やフランスと比べて弱かった。
SPEED1は避難方向など何らかの形で有用な情報になったのではないかという思いはある。
原子力緊急事態宣言後に官邸をあとにしたが、「私は事務系なので、理系の次長が官邸に残った方がいいと判断した」。
付記
斑目委員長は2月20日、ストレステストについて、「欧米でもストレステストを稼働条件には使っていない。1次評価は安全評価としては不十分で、しっかり詰めないといけない」と語った。
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