カリフォルニア州のマウンテン・パス鉱山でレアアースの採掘・生産を行っているMolycorp, Inc. は3月8日、カナダのレアアース加工大手のNeo Material Technologies Inc.を買収すると発表した。買収金額は13億カナダドル。
Neo Material はレアアース鉱石を高純度に加工する技術を持つ。
買収によりMolycorpは世界最高のレアアース資源と世界最高のレアアース加工技術を統合、川上から川下までを垂直統合したレアアース会社となる。
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Mountain Pass鉱山は1949年に発見され、Molybdenum Corporation of Americaが1952年に小規模の生産を開始した。
1962年にカラーTVに使うユウロピウムの需要拡大に対応し、生産を拡大した。
1965年から1995年まで、大規模生産を続け、世界のレアアースの需要の大部分を賄った。
1977年にUnocal が同社を買収、2005年にChevron子会社となった。
1998年に排水問題で分離工程を停止、2002年に環境規制と中国品の低価格攻勢により採鉱を停止した。
2008年にこの鉱山の再開のためMolycorp Minerals LLCが設立され、Chevronから鉱山を買収した。2011年から生産を再開した。
2010/10/5 レアアース、米・豪・カザフなど生産拡大
Molycorpは同鉱山の拡張・近代化計画(Project Phoenix)をたてた。
2012年末の第一期完成時にはMountain Passの設備は世界初の統合レアアースサプライチェーンとなる。
新精製設備で年20,000トンのレアアース酸化物を生産、これに加え、レアアースメタルやサマリウム・コバルト合金、ネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB) 合金と永久磁石などを供給、'Mine-to-Magnets' 計画を達成するというもの。このための資金781百万ドルの一部として、住友商事が出資する予定であったが、これは製品の引取価格で折り合わず、中止となった。
同社は増資と転換社債の発行で資金を賄った。同社は又、日立金属との間でネオジム・鉄・ホウ素(NdFeB)合金や永久磁石を製造するJVの設立交渉をしていたが、これも取り止めとなった。
Molycorpは別途、2011年4月にエストニアのレアアース加工会社 Silmet の経営権を約89百万ドルで取得するとともに、日本の希土類合金大手、三徳の米国アリゾナ州の子会社Santoku America, Incを現金1750万ドルで買収した。
Silmet はレアアースを年最大で3000トン、レアメタルを同700トン加工している。
Santoku Americaは、高純度レアアース金属・合金を生産しており、買収によりMol.ycorpは原料鉱石から希土類合金まで一貫生産できる体制を整えた。
2011/9/22 住友商事の米国レアアース企業への出資取り止め、日立金属のJVも中止
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今回買収するNeo Material Technologies は、Performance Material部門ではレアアース類、ジルコニウム、レアメタル(ガリウム、インジウム、レニウム)を、子会社のMagnequench ではネオジム・鉄・ボロン希土類ボンド磁石用Nd粉末を生産している。
各製品の製造立地は以下の通りで、レアアースについては最大の生産国の中国2か所に子会社を持つ。
また、R&Dセンターを天津、江陰、淄博(Zibo)、シンガポール、英国Abingdon、カナダPeterboroughの6か所に持っている。
レアアース &
ジルコニウム江蘇省江陰市:Jiangyin Jiahua Advanced Material Resources
江陰市加華新材料資源山東省淄博市:Zibo Jiahua Advanced Material Resources
淄博加華新材料資源レアメタル ドイツ Stade ドイツ Sagard カナダ Napanee カナダ Peterborough 米国 Quapaw 米国 Blanding Nd粉末 天津市:Magnequench (Tianjin) タイ Korat:Magnequench (Korat)
レアアースとジルコニウムは、触媒コンバータ、コンピューター、テレビのディスプレイ・パネル、光学レンズ、携帯電話、電子部品などに使われている。
レアメタル製品は、主にワイヤレス、発光ダイオード (LED)、フラット・パネル、タービン、太陽熱、触媒分野で利用されている。
MagnequenchのNd粉末から製造されたボンド磁石は、マイクロ・モーター、精密モーター、センサー、その他、高いレベルの磁力、汎用性、小型化、軽量化が求められる磁気応用製品に幅広く用いられてい る。江陰市加華新材料資源では,重希土類から磁石,蛍光体,光学ガラス,電子部品といったハイテク製品の原料を製造。
淄博加華新材料資源では軽希土類の精鉱から自動車排ガス触媒や磁石を製造,北米で販売。
(加華の加はカナダ、華は中国)
同社の2010年の売上高は338百万米ドルで、うち51%が中国、17%が日本となっている。
また、中国子会社2社からのレアアースの輸出量は、全体の輸出枠の1割前後を占めている。
単位:トン
輸出枠 子会社 2011 30,184 2,596 2010 30,259 2,733 2009 50,145 6,290 2008 47,448 5,181 2007 59,643 6,479
なお、Neo Materialは中国以外にレアアースを確保する努力をしている。
2009年7月、三菱商事との間で、中国以外でのレアアース事業での戦略的パートナーシップをつくる覚書を締結した。
まず、三菱商事が最大250万ドルの調査費を負担し、ブラジルでMineracao Taboca社のPitingaスズ鉱山の残渣に含まれるゼノタイムからディスプロシウムなどの重希土類を回収するプロジェクトを開始した。
MolycorpはNeo Material 買収の意義を以下の通り述べている。
・ | MolycorpのProject Phoenixによる世界クラスのレアアース資源と低価格での生産体制に加え、世界市場をリードしている最高品質のレアアース製品を製造する能力を得る。 |
・ | 世界最大(世界の70%前後のレアアースを消費)かつ急成長を続けるレアアース消費国、中国への参入を果たす。 |
・ | Neo Material の既存インフラ活用で、Project Phoenixの第二期工事(生産能力 10,000トン増)をより早く着手することが可能に。 |
・ | Magnequenchの特許の磁性粉商品群を手に入れることによりネオジム・鉄・ボロン希土類ボンド磁石を製造することが可能に。 |
・ | ガリウム、レニウム、インジウムなどの新規のレアメタルの製造販売が可能に |
MolycorpはNeo Material買収により、米国と中国に拠点を持ち、加工技術を確保、磁石製造により'Mine-to-Magnets' を実現し、レアメタル事業にも参入することになり、Project Phoenix 第一期、第二期と合わせ、巨大レアアース企業となる。
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