ギリシャ政府は3月8日夜、同国政府が提案した債務削減に対する民間投資家からの回答を締め切った。
ギリシャ政府は9日、債務交換に総額1,720億ユーロの応募があったと発表した。
国内法に準拠した国債(1,770億ユーロ)のうち、85.9%の1,520億ユーロが応募した。
これに加え、外国法の下のギリシャ債(290億ユーロ)のうち、200億ユーロを保有する投資家も交換に応じた。
これは全体の債務の85.8%となる。目標の90%には届かなかった。
ギリシャ政府は国際機関に対し、ギリシャ法準拠国債について、集団行動条項(CAC:collective-action clauses)を発動する意向を伝えたことを明らかにした。
集団行動条項を適用すれば、国内法準拠の全て1,770億ユーロと外国法下のギリシャ債の応募分200億ユーロを加え、全体の参加率は95.7%に達する。
この結果、EUとIMFがまとめたギリシャ向け第2次支援策(1300億ユーロ)の実行に道が開かれ、市場が恐れていた「無秩序なデフォルト」に陥る事態はひとまず回避された。
IMFのラガルド専務理事は9日、EUとIMFによる1,300億ユーロの追加支援のうちIMFの負担分の280億ユーロのギリシャへの融資を来週の理事会に融資を提案すると発表した。
付記
ユーロ圏財務相会合は3月12日、ギリシャに対する第2次支援策を最終的に承認した。
外国法準拠国債については、債務交換の受付期限を3月23日まで延長した。
金融派生商品(デリバティブ)の取引慣行などを決める国際スワップデリバティブズ協会(ISDA)は3月9日、ギリシャ政府の集団行動条項適用が「クレジット・イベント(清算事由)」に該当すると発表した。ギリシャが集団行動条項を発動できるのは国内法に準拠する国債(合計1,770億ユーロのうち不賛同の250億ユーロ)のみで、英国など外国の法律に準拠する国債(合計290億ユーロのうち不賛同の90億ユーロ)に対しては適用できない。
ギリシャ政府は外国法に基づくギリシャ債で参加を拒む投資家には、一切カネを払わない戦略を取り、参加しなければ、債券の元利払いを止めると脅している。
外国法に基づくギリシャ債の多くはヘッジファンドが保有しており、一部のファンドは法的措置を検討している。
この結果、実質デフォルトとみなされ、デフォルトのリスクに備えた保険商品である「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の支払いが発動される。
ギリシャ国債については、米格付け会社S&Pが2月27日に一部の債務が履行されない「SD(選択的債務不履行)」と認定、Moodysも3月2日にデフォルトに相当する「シングルC」に格下げしていた。
しかし、ISDAではこれまで、ギリシャの債務再編が投資家自身の判断を前提とした「自発的」なものとして、デフォルト認定を見合わせていた。集団行動条項適用により、デフォルトと認定した。
CDSの残高は2月末現在で3,250百万ドルで、CDSの売り手の金融機関は引当金を積んでいるため、直接の影響は少ない。
焦げ付く債務が元本で5割程度なので、保険金の支払いも一部にとどまる見通し。
しかし、今回のCDS発動で 「他国がいずれ強制発動に踏み切る」との思惑からポルトガルなど周辺国に危機が飛び火するとの懸念がある。
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経緯は以下の通り。
EUのユーロ圏17カ国は2月21日の財務相会合で、ギリシャへの総額1,300億ユーロの第2次支援を決めた。
2012/2/23 ギリシャ第二次支援決定
重要なポイントは民間債権者が保有するギリシャ国債の元本を53.5%削減することである。既発行のギリシャ国債2,060億ユーロのうち1,102億ユーロをカットし、残り958億ユーロを最長30年の新発国債などと交換するが、金利減を含めると実質74%もの債務削減となる。
銀行等保有の国債
2060億ユーロ1102億ユーロ(53.5%) 削減 958億ユーロ(46.5%) 31.5% 最長30年の複数の新規国債 利率2.0~4.3% 15.0% 短期の欧州金融安定化基金債
民間側の代表である国際金融協会(IIF)とは合意したが、債権者とは個別に文書にサインする必要があった。
EUとIMFは、民間債権者との債務交換成立を1,300億ユーロの第2次支援最終承認の条件としており、賛成が少なければ債務削減を実施できず、支援策そのものが白紙に戻る。
3月20日に145億ユーロの返済期限を迎えるため、それまでに新たな支援策がまとまらなければ、無秩序なデフォルトに陥る。
このため、ギリシャ政府は、対象投資家の3分の2以上の賛同で全ての国債交換を進められるようにする集団行動条項(CAC:collective-action clauses)を盛り込んだ法案を成立させた。逆に3分の2以上の賛成がなければ、集団行動条項も発動できないこととなる。
なお、ギリシャが日本で発行した円建て外国債券(サムライ債)は、元本削減の対象外となった。国内のサムライ債保有者は、これまで通り、元本と利息の支払いを受けられる。
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過去のデフォルトで大きいのは1998年のロシアが727億ドル、2001年のアルゼンチンが823億ドルで、今回のギリシャの1,102億ユーロはこれらを超え、過去最大となる。
ロシアの場合は石油と天然ガスの価格アップで、アルゼンチンの場合は穀物の価格アップで回復したが、ギリシャの場合は今後も困難が続くと思われる。
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