韓国の原子力安全委員会は3月13日、釜山市にある古里(コリ)原発1号機ですべての外部電源が12分間、喪失する事故が起きたことを明らかにした。
1号機の電源関連機器のテストを行っていたところ、外部電源の供給が止まり、非常用のディーゼル発電機も作動しなかった。
定期点検に合わせ運転停止中だったが、炉心の温度は高く、使用済み核燃料の貯蔵プールとともに冷却が必要な状態だった。
しかも事故は2月9日に発生したが、事業者の韓国水力原子力はこれを1カ月以上報告していなかった。
韓国メディアは「(事故の)隠蔽を図ろうとした」と報じた。
韓国の原子力安全法は、原発施設の故障などの事実は遅滞なく同委に報告するよう定めており、同法違反の可能性もある。
安全委員会は事態を重視して3月4日から定期検査が終わり再稼働していた同機の停止を緊急指示するとともに、原因究明のため、調査団を急きょ派遣した。
付記
韓国の原子力安全委員会は7月4日、停止中の古里1号機の再稼働を承認した。
周辺自治体から廃炉要求が相次いだため、運営会社の韓国水力原子力が、IAEAに同機の安全点検を依頼、IAEAは「設備の状態は良好」との結果を明らかにしていた。
古里原発1号機は韓国最初の商業用原発として1978年に運転を開始した。加圧水型軽水炉(PWR)で、出力は587千kw。
古里原発では1号機から4号機までが稼働中で、このほかに隣接する新古里原発で1基が稼働、3基が建設中。いずれもPWR。
1号機は2007年に30年の設計寿命を終え、翌年から10年の運転延長に入っていた。
周辺住民などから安全性を懸念する声が強まっている。
釜山では、福島第一原発事故の発生から1年に合わせ、古里1号機の危険性を訴え、廃炉を求める集会やデモも開かれた。
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2011年6月21日、古里2号機(出力605千kw、1983年発電開始)の稼働が中断した
古里原発と新蔚山発電所の間の送電線3線のうち1線に農作業用ビニルがくっついて0.05秒ほど電気の供給が中断し、2号機の保護継電器が作動して2号機の稼働が中断した。
継電器は5-10秒程度の電気供給中断や20%以上の過負荷がかかれば作動するよう設計されているが、今回の場合、許容範囲内であるにもかかわらず作動した。
この原因は継電器の設計ミスのためであることが分かった。
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2011年12月14日には古里原発3号機(出力895千kw、1985年発電開始)が突然停止した。タービン発電機に過電圧がかかり、発電機を保護するための保護リレーが作動した。
この前日には、蔚珍1号機(出力950千kw)も稼動を停止した。蒸気を冷却して水に変換させる復水器の異常によるもの。
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韓国水力原子力関係者は2011年11月、古里第2発電所にタービンバルブ作動機を納品する業者と原子力発電所職員が互いに組んで中古部品を納品し、この内の一部が使われたことを明らかにした。
付記
古里原発の幹部職員が、原発の中古部品を無断で持ち出して業者に組み立て直させ、新品機器として同原発に納入させたとして、3月20日、詐欺罪で懲役3年の実刑判決を受けた。
同原発を運営する公営企業「韓国水力原子力」でタービン部品の購入を担当する課長が2008~10年、受注業者と共謀し、保管中の中古部品を無断で持ち出した。そのうえで、さびを塗装するなどして組み立て直させ、新品として同原発に納入させて、総額約32億ウォンをだまし取ったとされる。裁判長は「国民の安全に直結する原発の安全性に深刻な疑いを持たせる重大犯罪だ」と指摘し、実刑が相当とした。
付記
古里原発1号機で全電源喪失事故が起き、1カ月以上も国や本社に報告されなかった問題で、所長ら現場幹部が発生直後に組織的隠蔽を決めていたと複数の韓国メディアが報じた。
「福島事故から1年が近づく時期で、老朽化した1号機の事故事実が伝われば、波紋が大きく、負担になると考えた」という。
たまたま噂を聞いた市会議員が会社に問い合わせ、発覚した。
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停電事故当時、作動しなかった非常ディーゼル発電機が現在も作動不能状態であることが3月16日に確認された。
性能試験を行った結果、非常ディーゼル発電機を動かすために空気を供給するバルブのソレノイドバルブの故障で作動しなかった。
調査チームは古里原発の稼動を中断させたあと、報告隠ぺいの経緯と非常ディーゼル発電機を含む電力供給系統の問題点などを調査しており、今後、残り一台の非常ディーゼル発電機に対する性能確認などを行う。
参考 2012/5現在
運転開始 | 原子炉形式 | 容量(kW) | |||
蔚珍 | 蔚珍1号機 | 1988年9月10日 | 加圧軽水炉 (PWR) | 95万 | |
2号機 | 1989年9月30日 | 加圧軽水炉 (PWR) | 95万 | ||
3号機 | 1998年8月11日 | 加圧軽水炉 (PWR) | 100万 | ||
4号機 | 1999年12月31日 | 加圧軽水炉 (PWR) | 100万 | ||
5号機 | 2004年7月29日 | 加圧軽水炉 (PWR) | 100万 | ||
6号機 | 2005年4月22日 | 加圧軽水炉 (PWR) | 100万 | ||
新蔚珍1号機 | KSNP (APR-1400) | 140万 | 2012/5 着工 | ||
2号機 | KSNP (APR-1400) | 140万 | 2012/5 着工 | ||
(3号機) | KSNP (APR-1400) | 140万 | 計画 | ||
(4号機) | KSNP (APR-1400) | 140万 | 計画 | ||
霊光 | 霊光1号機 | 1986年8月25日 | 加圧軽水炉(PWR) | 95万 | |
2号機 | 1987年6月10日 | 加圧軽水炉(PWR) | 95万 | ||
3号機 | 1995年3月31日 | 加圧軽水炉(SYSTEM80) | 100万 | ||
4号機 | 1996年1月1日 | 加圧軽水炉(SYSTEM80) | 100万 | ||
5号機 | 2002年5月21日 | KSNP(OPR-1000) | 100万 | ||
6号機 | 2002年12月24日 | KSNP(OPR-1000) | 100万 | ||
月城 | 月城1号機 | 1983年 4月 22日 | CANDU | 67.8万 | |
2号機 | 1997年 7月 1日 | CANDU | 70万 | ||
3号機 | 1998年 7月 1日 | CANDU | 70万 | ||
4号機 | 1999年10月 1日 | CANDU | 70万 | ||
新月城1号機 | KSNP(OPR-1000) | 100万 | 試運転中 | ||
2号機 | KSNP(OPR-1000) | 100万 | 建設中 | ||
古里 | 古里1号機 | 1978年4月 | 加圧水型(PWR) | 55.6万 | |
2号機 | 1983年7月 | 加圧水型(PWR) | 60.5万 | ||
3号機 | 1985年9月 | 加圧水型(PWR) | 89.5万 | ||
4号機 | 1986年4月 | 加圧水型(PWR) | 89.5万 | ||
新古里1号機 | 2011年2月 | 加圧水型(PWR) | 96万 | ||
(2号機) | 加圧水型(PWR) | 96万 | 計画 | ||
(3号機) | 加圧水型(PWR) | 134万 | 計画 | ||
(4号機) | 加圧水型(PWR) | 134万 | 計画 |
KSNP:韓国標準型原子炉(韓国電力公社設計、加圧水型原子炉)。
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