米国務省は3月20日、核開発疑惑を強めるイランへの追加金融制裁の適用対象から日本と欧州10か国の合計11か国を除外する方針を決め、米議会に伝達した。除外期間は180日間。
追加制裁は昨年12月31日に成立した2012年度国防権限法(National Defense Authorization Act) 1245条に基づくもの。
イランの収入源となる原油輸出を封じるため、イラン中銀と決済関係を持つ大手外銀の米銀への口座開設やドル取引を制限することを明記しているが、他方、原油輸入を大幅に削減していれば例外とすることも盛り込んでいた。
イラン中央銀行との取引に関与する海外金融機関に制裁を科すかどうかの判断期限は3月1日。
これが適用されると、銀行はイラン中銀との決済が出来ないため、実質的に輸入が出来ないこととなる。
今回イランからの原油輸入を著しく減らしたとして適用除外したのは、日本、ベルギー、チェコ、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリー、オランダ、ポーランド、スペイン、英国。
クリントン国務長官は、これらの国の行動は決して容易なものではなかったとし、他国にもこれに従うよう求めた。
EUによる1月23日以降の新規購入禁止と7月1日以降の既存契約での購入禁止を高く評価し、日本については、日本が昨年直面したエネルギー危機を勘案すれば、日本のイラン原油輸入の著しい削減は特に注目すべきことだとした。
米国務省当局者は電話会見で、「日本は福島原発事故による困難にもかかわらず、2011年下半期にイランから輸入する原油量を15~22%減らした。これは画期的な規模で、他の国にも手本になるだろう」と話した。
米オバマ政権は6月11日、韓国やインド、台湾、南ア、マレーシア、スリランカ、トルコの7か国・地域について、イラン産原油の輸入を大幅に削減したとして、核開発を進めるイランへの圧力強化を目的としたイラン制裁法の適用対象から除外すると発表した。
日本政府はこれまで、日本がイラン原油輸入量の削減ペースをさらに引き上げることを条件に、邦銀を制裁対象から除外する方向で米国政府と協議を進めてきた。
クリントン米国務長官は2月28日の上院歳出委員会の公聴会で、「特筆すべき状況がある。日本をご覧なさい。福島原発事故で電力不足に陥りながら、イラン産原油の輸入を15~20%削減しようとしている」と述べ、日本の協力姿勢を高く評価した。
付記
中国外交部報道官は3月21日の定例記者会見で、以下の通り述べた。
「中国は自国の経済発展の必要に基づき、通常のルートでイラン産原油を輸入している。これは筋が通っており、合法的だ。国連安保理決議に違反しておらず、第三国や国際社会の利益も損なっていない。」
「中国は国内法を根拠に他国に一方的な制裁を課すことに一貫して反対しており、ましてや一方的制裁を第三国に強要するやり方は受け入れられない。」
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イラン原油輸入に関しては、もう一つの障害がある。
EUは今年1月に、イラン産原油の禁輸に加え、イランとの原油取引を対象にした保険や再保険をEU域内の保険会社が提供することを禁止した。7月から実施される。
日本の損害保険会社がイラン産の原油取引に関連して契約する再保険のうち、7~8割はEU域内の保険会社に再保険しており、これが適用されると、損害保険会社が原油輸入などに必要な保険を提供できず、結果的にイランからの原油輸入が滞る可能性がある。
日本の損害保険会社が提供できる保険金額は現在の10分の1程度に縮小するとの見方もある。
このため、政府は事態を重く見て、EUに制裁の適用除外を求めてきた。
EUは3月20日、イラン産原油の輸送に対する保険サービス提供の禁止について適用除外措置を設けるかどうかをめぐり協議を行ったが、合意には至らず、決定は先送りされた。
3月23日にEU外相会合が予定されており、制裁の詳細を決める。
付記
EU各国は3月22日の大使級協議で、保険・再保険の提供禁止を含む制裁により原油相場が高騰する事態への懸念で一致し、制裁を一部免除することで原則合意した。
23日の外相理事会での決定は以下の通り。
・賠償保険については6月末まで再保険を認める。
・貨物保険と船舶保険は1月23日以前に結んだ契約に限り6月末まで再保険を認める。
1月23日以降の契約はすべて再保険を認めない。
(1年契約が主流で、4月に契約を更新するものも多い)
・7月1日以降の対応については、5月半ばまでに決定する。
付記
この決定を受け、大手損保はイラン産原油の輸送の保険内容を変更する方針を固めた。
貨物保険については、補償額を5割超 減額する。
船舶保険については、免責条項を導入、戦争保険についてイラン関連は免責する条項を追加する。
付記
EUは6月25日の外相理事会で、7月1日から域内保険会社がイラン産原油輸送タンカーに損害保険を販売することを禁止することを決めた。日本では、「特定タンカーに係る特定賠償義務履行担保契約等に関する特別措置法」が6月20日の参議院本会議で全会一致で可決・成立した。
イラン産原油を運ぶ日本のタンカーに重大な事故が起きた場合、最大で76億ドルを国が補償する。
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