環境省は3月21日、国立・国定公園内での地熱発電の設置基準を緩和することを決めた。
これまで開発規制区域の外から斜めに掘る「傾斜掘削」のみを容認する方針を示していたが、自然環境への影響を最小限にとどめるなどの条件付きで、区域内で掘る「垂直掘削」も認めるとした。
国立・国定公園は自然景観や生物多様性の度合いで、特別保護地区、第1~3種特別地域などに分けて管理されているが、このうち規制が比較的緩い第2、3種特別地域で垂直掘削が容認される。
条件は以下の通り。
▽関係者間の合意形成
▽環境影響を最小限にとどめる技術の導入
▽周辺の荒廃地の緑化や温泉事業者への熱水供給など地域貢献
▽長期モニタリングと情報の開示
公園内での地熱発電をめぐって環境省は本年2月に環境保全に支障がない場合などに特別地域外から「斜め掘り」する工法を認めたが、斜め掘りはコストがかさむうえ、適当な場所が少なく、垂直掘りを求める声が出ていた。
規制緩和の理由について、環境省は「エネルギー供給状況の変化から、地熱資源利用に道を開くことを決断せざるを得なかった」と説明した。
政府のエネルギー・環境会議のコスト等検証委員会の報告書によると、地熱発電のコストは1キロワット時あたり 9~11円程度で、石炭火力とほぼ同水準となっている。
経済産業省は候補地として、阿寒国立公園阿寒地域(北海道)、大雪山国立公園白水沢地域(同)、十和田八幡平国立公園菰ノ森地域(秋田県)、栗駒国定公園木地山・下の岱地域(同)、同公園小安地域(同)、磐梯朝日国立公園磐梯地域(福島県)の6地域を挙げている。
日本自然保護協会は3月21日、「影響が未知数の発電施設を作ることは将来に大きな禍根を残す。環境行政の後退と言わざるを得ない」とするコメントを出した。
日本には世界有数の潜在的地熱発電能力があるが、開発候補地の約8割は公園内にあって開発が遅れている。
地熱資源量 (万kw) |
地熱発電 容量(万kw) | |
米国 | 3,000 | 253 |
インドネシア | 2,779 | 80 |
日本 | 2,347 | 54 |
フィリピン | 600 | 193 |
メキシコ | 600 | 95 |
アイスランド | 580 | 17 |
日本経済新聞によれば、出光興産、国際石油開発帝石、三菱マテリアル、石油資源開発、三井石油開発などは福島県内で国内最大の地熱発電所を建設する方針を固めた。
発電容量は27万キロワットになる見通しで、総事業費は1千億円規模になるとみられ、2020年ごろの稼働を目指す。
候補地は磐梯朝日国立公園の敷地内で、福島市、二本松市、猪苗代町など。
なお、地熱発電プラントでは東芝、三菱重工業、富士電機の3社で世界市場の7割を握っている。
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日本の地熱発電所は以下の通り。
(環境省 http://www.env.go.jp/nature/onsen/council/chinetu/03/mat_07.pdf )
蒸気供給 | 発電 | 認可出力 (千kW) | ||
森発電所 | 北海道森町 | 北海道電力 | 50 | |
澄川地熱発電所 | 秋田県鹿角市 | 三菱マテリアル | 東北電力 | 50 |
上の岱地熱発電所 | 秋田県湯沢市 |
秋田地熱 |
東北電力 |
28.8 |
松川地熱発電所 | 岩手県八幡平市 |
東北水力地熱 |
23.5 | |
葛根田地熱発電所 | 岩手県雫石町 | 東北水力地熱 | 東北電力 | 1号機 50 2号機 30 |
鬼首地熱発電所 | 宮城県大崎市 | 電源開発 | 15 | |
柳津西山地熱発電所 | 福島県柳津町 | 奥会津地熱 | 東北電力 | 65 |
八丈島地熱発電所 | 東京都八丈町 | 東京電力 | 3.3 | |
滝上発電所 | 大分県九重町 | 出光大分地熱 | 九州電力 | 27.5 |
大岳発電所 | 大分県九重町 | 九州電力 | 12.5 | |
八丁原発電所 | 大分県九重町 | 九州電力 | 1号機 55 2号機 55 * 2 | |
大霧発電所 | 鹿児島県霧島市 | 日鉄鹿児島 地熱 |
九州電力 | 30 |
山川発電所 | 鹿児島県指宿市 | 九州電力 | 30 | |
(以下、自家用) | ||||
大沼地熱発電所 | 秋田県鹿角市 | 三菱マテリアル | 9.5 | |
杉乃井地熱発電所 | 大分県別府市 | 杉乃井ホテル | 1.9 | |
九重地熱発電所 | 大分県九重町 | 九重観光ホテル | 0.99 | |
岳の湯 (休止中) | 熊本県小国町 | 廣瀬商事 | 0.05 | |
霧島国際ホテル地熱発電所 | 鹿児島県霧島市 | 霧島国際ホテル | 0.1 | |
合計 | 540.14 |
* バイナリー発電
温泉水などで、沸点の低いペンタン、アンモニア水などを加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回す方式
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下記の小説が地熱発電を取り上げている。問題点がよく分かる。
真山仁 「マグマ」(単行本は2006年2月出版) 外資系ファンドの野上妙子は、地熱発電を運営する会社の再建を任される。地熱発電に命をかける老研究者、それを政争に利用する政治家、欧米からの執拗な圧力など、さまざまな思惑が交錯する中で、地熱ビジネスは成功するのか──地球温暖化、石油価格の高騰、原発の安全性が叫ばれる今、地下エネルギーの可能性と未来を予感させる、ドラマ『ハゲタカ』の著者が描く大型経済情報小説。
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日本地熱学会が2006年11月にこの小説をめぐる真山仁との対話を行っている。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/grsj/guest/event/mayama06/mayama-taidan.html
その中の産業技術総合研究所の人の発言:
御存じだと思いますけれども,私ども地熱関係者はほとんど『マグマ』は読んでいると思います。というのは,ちょうど我々どん底におりまして, そのときに小説『マグマ』が現れて,我々の精神的な支えになったと思うんです。
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