EU27カ国は3月30日、コペンハーゲンでユーロ圏財務相会合を開き、債務危機に対応するための安全網全体の規模(2013年7月以降)を現在の案の5,000億ユーロから8,000億ユーロ(約88兆円)に拡大することで合意した。
但し、8,000億ユーロの内訳は今年7月に発足する欧州版IMFの欧州安定メカニズム(ESM)の5,000億ユーロに、既に実施済み又は実施予定のものを加えたもので、不十分との声も上がっている。
ESMは資本金を2014年上半期までに5回分割で払い込むため、ESMの融資能力はそれに合わせて増加、最終払込時点で5,000億ユーロとなる。
2013年6月末まではEFSFはESMと併存し、総額5,000億ユーロを確保する範囲でEFSFの未消化分も利用できる。
EUは当初、ESM/EFSFの融資能力を、合わせて 9,400億ユーロ(うちEFSFのコミット済みが約1,900億ユーロのため新規資金は7,500億ユーロ)に引き上げることを提案していたが、域内で最大の経済規模を持つドイツが反対した。
なお、ユーロ圏諸国はIMFに1,500億ユーロを拠出する。
2011年11月のG20首脳会合で、IMFが十分な資金を持つ必要で一致した。
IMFは欧州への支援を念頭に最大5000億ドルの財源調達を目指しており、このうちEUが2,600億ドル規模を拠出する方針であった。 英国など非ユーロ圏EUの拠出は未定。
EU議長国のデンマークのベステエア財務相は、会議後の記者会見で、「ヨーロッパは宿題を果たした。今度はIMFの基盤を拡充する時だ」と述べ、G20の対応を促した。
IMFは5000億ドル規模の追加融資財源の調達に向けて加盟国と本格協議に入る。4月下旬ワシントンで開く春季総会で資金増強策の大枠を決定する。
議会の反対が強い米国は支援を見送る構えで、日本や中国の協力が焦点となる。日本は「欧州の努力を前提に協力する準備はある」との姿勢を示していた。
付記
安住財務相は4月17日の閣議後記者会見で、日本政府として600億ドルをIMFに拠出する方針を表明した。
Lehmanショック直後の2009年にIMFに1000億ドルを拠出したが、500億ドルが年内にも返済される見込みで、これに外貨準備((2012年3月末 1兆2887億ドル)から100億ドルを上積みする。
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EU首脳会議は2012年3月2日、財政規律の強化に向けた新条約に各国が署名したが、欧州債務危機対策の一環としての金融安全網の再強化については、ドイツの慎重論に配慮し、3月末までに結論を出すことで合意した。
基本構想は以下の通りで、IMF資金枠を合わせ、1兆9000億ドルを準備する。
本来、この会議で決定する予定であったが、ドイツの慎重論に配慮し、決定を3月末まで延ばした。
2012年7月ESM発足以降 当初案 目標 欧州基金 ESM 5000億ユーロ 統合、上限撤廃
7500億ユーロ
(約1兆ドル)EFSFの残 打ち切り
(2500億ユーロ)IMF資金枠 現行 約 4000億ドル +5000億ドル
(うちEU 2600億ドル)合計 1兆9000億ドル
2012/3/7 欧州金融危機への今後の対応
今回の「8,000億ユーロ規模の安全網」は、実質的には当初案のままである。
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今回の8,000億ユーロ(2013年7月EFSF解散後)の内訳は以下の通り。
金額 (億ユーロ) |
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欧州安定メカニズム (ESM) |
新規 | 5,000 | ||||||||||||||||||||||
ギリシャ向け第一次支援
EU各国による支援で、
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実施済 | 529 |
調整: | |||||||||||||||||||||
欧州金融安定化ファシリティ (EFSF)
枠 4,400 残から下記が控除される |
既実施・ コミット |
ギリシャ二次 | 1,480 | ギリシャの銀行の資本再編 480 新規融資 1,000
IMFは280の融資実施承認 | ||||||||||||||||||||
アイルランド | 177 | 2010/11 総額 850 アイルランド年金基金 175 EFSF 177 EFSM 225 英、デンマーク、スウェーデン 48 IMF 225 | ||||||||||||||||||||||
ポルトガル | 260 | 2011/3 総額 780 EFSF 260 FEFM 260 IMF 260 | ||||||||||||||||||||||
合計 | 1,917 | |||||||||||||||||||||||
欧州金融安定化メカニズム (EFSM) 枠 600 |
既実施 | アイルランド | 225 | 上記参照 | ||||||||||||||||||||
ポルトガル | 260 | |||||||||||||||||||||||
合計 | 485 | |||||||||||||||||||||||
合計 | 7,931 |
参考
2010 年5 月、当面の危機への備えとして総額5,000 億ユーロの包括的支援策を発表した。
①全てのEU 加盟国が対象となる上限600 億ユーロの「欧州金融安定化メカニズム」(EFSM)
②ユーロ圏参加国が欧州中央銀行への出資率に応じた比例配分で拠出して特別目的会社を設立する「欧州金融安定化ファシリティ」(EFSF)
3年間の時限措置で、2013年6月末まで。
③EFSFを引き継ぐ恒久的支援組織の「欧州金融安定化メカニズム」(ESM) 当初は2013年7月設立予定。
2012年2月、ESM創設条約が署名された。1年繰り上げ、2012年7月発効を目指す。
当初の最大融資能力は、7,000億ユーロの応募資本(800億ユーロの資本金と6,200億ユーロの請求払資本)
によって得られる5,000億ユーロ (払込資本金/融資額は15%以上とする。)
EFSFの債権発行のための各国の保証負担額は当初合計4400億ユーロ。
但し、AAA格付けの債権の発行のために必要なAAA格付け国6か国の保証額は2554億ユーロしかない。
このため、保証負担額を7798億ユーロに増加した。(ギリシャ、アイルランド、ポルトガルを除くと7260億ユーロ)。
この場合の6か国の保証負担額は4515億ユーロとなるが、従来通り4400億ユーロと称されている。
2011/11/7 EU 金融危機
なお、ESMは7,000億ユーロの応募資本(800億ユーロの資本金と6,200億ユーロの請求払資本)をテコにESM債の発行などで金融市場から調達する5,000億ユーロが最大融資能力となるが、ユーロ圏17カ国は800億ユーロの資本金を分割払いにする。
2013年半ばに資本金の6割(480億ユーロ)を確保していても、その時点のESMの融資能力は3000億ユーロにとどまる。
当初は資本金を5年に分けて払い込む計画だったが、EU首脳はこれの加速方針でも合意した。
2回分は本年7月と10月に、2回分を2013年中に、最後を2014年上半期に行うことが決まった。
融資額と資本金の比率が15%を下回る場合は払い込みを早める。
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欧州委員会は3月29日、債務問題解決のためのユーロ圏サミットをローマ法王の臨席のもとに4月1日に開催すると発表した。
「今のユーロを救えるのは、明らかにローマ法王ベネディクト16世と聖なる介入のみだ。法王の臨席でユーロ救済のための神の介入を祈る機会をいただく。これが今や最も頼れる戦略である。」
エイプリルフールを前に、Herman Van Rompuy EU大統領の側近の内部用のE-Mailが外部に流出したもの。
英国の独立党の党首は、「神の介入は欧州中央銀行の介入よりは効果があるだろうが、 全知全能の神は賢明にもユーロには近づかないだろう」と述べた。
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