武田薬品は4月6日、移転価格税制に基づく更生処分について大阪国税局に異議申し立てをしていたが、更生された所得金額1,223億円のうち977億円を取り消す異議決定書を受領したと発表した。
地方税を含めた追徴税額は571億円であったが、このうち455億円が還付され、還付加算金(金利:2010年以降は年4.3%)が116億円支払われる。合計の還付額はたまたま追徴額と同じとなった。
異議申し立ての全額は認められておらず、残りの246億円という巨大が金額の所得が日本と米国で二重課税の状態にある。
同社では今後の対応については異議決定書の内容について検討の上、決定するとしている。
付記
同社は5月7日、原処分の取り消しが認められなかった部分の全額の取り消しを求める審査請求書を、大阪国税不服審判所に提出した。
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武田薬品は2006年6月、米国アボットとの50:50の合弁会社(当時)のTAPファーマシューティカル・プロダクツ(TAP)との間の消化性潰瘍治療剤「プレバシド」の製品供給取引等に関して、米国市場から得られる利益が武田に過少に配分されているとして、移転価格税制に基づき、大阪国税局より所得金額で6年間で1,223億円の所得の更正を受け、約570億円の追徴税額を課せられたと発表した。
2006/6/29 武田薬品、移転価格税制に基づく更正
なお、TAPは2008年4月の会社分割により、武田アメリカの100%子会社となった。
2008/4/4 武田薬品工業、米国事業再編
武田薬品は、
①50/50JVのTAPとの取引価格はアボットの合意なしには決められず、独立企業間価格であり、移転価格税制が適用されるべきものではない、
②価格を安くすればTAPの利益が増えて半分がアボットにいくため、武田にとってTAPに所得を移転する意図や動機はない
として、徹底抗戦の構えをとった。
当初は追徴税額は返還されるものとみなし、業績は修正せず、追徴分は貸借対照表には固定資産の「長期仮払税金」として計上したが、監査法人の意見変更で2006年9月中間期に税金に計上した。
2007/5/14 注目会社、3月決算概要ー4
武田薬品は2006年8月に大阪国税局に異議申し立てをおこなったが、2008年7月にこれを中断し、二重課税の排除を求めて国税庁に対し米国との相互協議を申し立てた。
しかし、2011年11月に国税庁から、相互協議が合意に至らず終了した旨の通知を受領した。
米国側との相互協議は、日本で更正した額を輸出価格の値上げとして米国で追加でコスト算入して利益を減らし、米国での税金を減らすというもの。
米国との相互協議が成り立たなかったということは、国税局の主張を米国当局が全く受け入れなかったことを意味する。
武田の主張の通り、通常は50/50JVとの取引価格は独立企業間価格とみられ、移転価格税制は適用されないため、米国側が応じないのは当然である。
下記の信越化学のケースでは、米国当局は日本側の主張を一部受け入れ、その部分について信越の米子会社に税金の還付をしている。
同社は一旦中断していた異議申し立て手続きについて大阪国税局へ再開を申し入れていた。
なお、大阪国税局が残りの246億円分の異議を認めなかった理由が分からない。
おそらく、武田薬品は国税不服審判所に審査請求を行うものと思われる。
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移転価格税制を巡る問題で、異議申し立てを国税当局が認めるのは珍しいという。
TDKの場合は、東京国税局の移転価格税制に基づく更正処分について国税不服審判所に審査請求を行い、国税不服審判所長から約141億円の処分を取り消しの裁決書を受領、地方税や還付加算金を含め約94億円が還付された。
2010/2/5 国税不服審判所、TDKの移転価格課税取り消し
信越化学の場合は、約110億円の追徴課税を受けていた問題で、二重課税の排除を求め日米相互協議を申し立て、日米両国の当局の相互協議で、申告漏れと指摘された所得は当初の約233億円から約39億円に減額され、還付加算金を含めて日米合計で約119億円が還付された。
米子会社シンテックは米税務当局(IRS)が39億円相当の技術料追加を認めたため、相当する税金の還付を受けた。
2010/6/11 信越化学の移転価格課税、119億円還付へ
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