自動車部品など機械用のベアリング(軸受け)の販売を巡り、大手メーカー4社が事前の合意に基づいて一斉に値上げする価格カルテルを結んでいた疑いが強まったとして、東京地検特捜部は4月20日、関係先を独占禁止法違反容疑で家宅捜索した。
公正取引委員会が2011年7月に犯則調査権に基づいて、日本精工、NTN、ジェイテクト、不二越の4社の強制調査を実施し、刑事告発を視野に調査を進めてきた。
ベアリングは全体の市場規模が約4500億円と大きく、4社が8割以上のシェアを占める。カルテルが及ぼす社会的影響が大きいうえ、各社の役員クラスがカルテルに関与した疑いもあるとみており、行政調査では不十分と判断した。
公取委は、4社のうち不正を最初に申告したジェイテクトについては、課徴金減免制度を適用し、刑事告発を見送るとみられる。
ジェイテクトは、2005年5月に光洋精工と豊田工機が合併して出来た会社。
NTNは旧称 東洋ベアリング。
特捜部も刑事立件の可否を判断するため、任意での事情聴取を進めていた。
付記 公取委は6月14日、日本精工、NTN、不二越の3社と各社の担当役員ら7人を東京地検に告発、地検は3社を起訴し、担当役員ら7人を在宅起訴した。 ジェイテクトは自主申告したため告発対象から外れた。
1973年に、日本精工、光洋精工(現 ジェイテクト)、不二越と、エヌ・テー・エヌ東洋ベアリング(現 NTN)の販売会社「東洋ベアリング販売」の4社が「エー・エム会」と名付けたカルテルの会合を開いていたと認定され、公取委から排除命令を受けている。
原材料の鋼材価格が高騰した2004年ごろ、価格調整を目的としたカルテル組織を復活させた。
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独占禁止法違反被疑事件に関する調査には,行政調査と犯則調査がある。
行政調査は、独占禁止法に違反する事実があると判断した場合に行政処分を行うことを前提として行われる調査で、相手方が調査に応じない場合には刑罰が科せられる間接強制の方法により、営業所などへの立入検査を実施して関係書類の提出を命じ、また、関係者に出頭を命じて事情聴取するなどの調査を行うことができる。(独占禁止法第47条)
犯則調査は、公取委が刑事告発に相当する事案であると判断した犯則事件を調査するために行われる調査であり、関係者からの事情聴取、所持品の検査等の調査を行うことができる。
また、裁判官の発する許可状を得て、直接強制(相手方が調査等を拒む場合に、抵抗を排除して実力行使すること)の方法により、臨検(事件調査のため必要な場所に立ち入り、検査を行うこと)、捜索を行い、必要な物件を差し押えることができる。(独占禁止法第102条)
調査の結果、刑事告発が相当と認められたときは、検事総長に告発を行う。
公取委は下記の案件については積極的に告発する方針で、これらに該当すると疑うに足る相当の理由のある場合は、犯則調査の対象とする。
・ | 一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為で、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案 |
・ | 違反を反復して行う、排除措置に従わないなど、行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案 |
犯則調査の流れは下記の通り。
カルテルでの刑事告発のケースは少ない。
今回 公取委が告発に踏み切れば、2008年11月の亜鉛メッキ鋼板カルテル事件以来、約3年半ぶりとなる。
1974 | - | 石油ヤミカルテル事件 |
過去に行政指導で生産調整が行なわれてきた経緯もあり、 最終的に生産調整カルテルは無罪、価格協定カルテルも一審では有罪だが、最高裁で一部が無罪となった。 | ||
(この間、17年間 刑事告発なし) | ||
1991 | ラップフィルム(ストレッチフィルム)の価格カルテル | |
罰金600万~800万円、懲役6月~1年(執行猶予2年) | ||
1999 | ダクタイル鋳鉄管 シェアカルテル | |
罰金3000万~1億3000万円、懲役6月~10月(執行猶予2年) | ||
(以上2件の概要は、2007/7/16 塩ビ管カルテル調査) | ||
2000 | ポリプロカルテル 告発断念 | |
公取委は刑事告発しようとしたが、検察が告発を受けないことを決めた。*(村山治「市場検察」) | ||
2008 | 公取委、塩ビ管のカルテル疑惑 刑事告発を断念 | |
塩化ビニル管及び同継手で排除措置命令及び課徴金納付命令 | ||
2008 | 溶融亜鉛めっき鋼板カルテルに排除措置及び課徴金納付命令 | |
亜鉛メッキ鋼板の価格カルテルで刑事告発 | ||
2009/5 日新製鋼と淀川製鋼所、罰金1億8000万円、日鉄住金鋼板に1億6000万円 個人6被告について、1年~10月の懲役(執行猶予3年) | ||
* | 同書によると、当時の笠間治雄特捜部長は、談合について、従来 必要悪として黙認してきた商慣行であり、それを経済の外側にいる検察が悪と認定し、血刀を振るうことには抵抗があったという。 業績の上がらない業界の価格協定を摘発すること自体に違和感を持ち、暴利を貧ろうというのでなければ処罰価値がないと考えた。そして、価格協定とされるものが「拘束性」が証明されていないと受け止めていた。 公取委は、協定し、その実効性があったからこそPPが値上がりしたとの主張だったが、ポリエチレンも同様の値上がりをしていた。「それをどう説明するのか。協定と値上がりとの因果関係を証明できなければ、協定に拘束力があった証明にならない」とした。 |
なお、改正独禁法による課徴金減免制度で、刑事罰について刑事訴追を免ずる規定はない。
公取委は2005年10月の方針で、調査開始日前に最初に課徴金の免除に係る報告及び資料の提出を行った事業者(及び調査に協力した個人)については告発を行わないこととするとした。
2005年独禁法改正法の国会審議では、法務省刑事局長が質問に対し、「公取委に対しては専属告発制度が認められていることの趣旨を踏まえると、公取委が刑事告発しなかったという事実を検察官は十分考慮することになるので、課徴金減免制度は十分機能することになると思われる」旨の答弁を行っている。
なお、亜鉛めっき鋼板カルテル事件でJFE鋼板が刑事告発されなかったが、他社の弁護側が、カルテルに深く関与していた同社が刑事責任を追及されなかったことを強調して、刑の軽減を求めたのに対し、判決は「(JFE鋼板の告発免除は)課徴金減免制度を有効に機能させるための措置で、考慮する必要はない」と退けた。
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