東京電力は5月21日、2種類の優先株を合計19億4000万株、金額換算で1兆円を発行すると発表した。
同社は原子力損害賠償支援機構から賠償に必要な資金の交付(3月末時点で、枠として2兆4,263億円)を受けているが、賠償費用以外の費用・損失が増大し、財務基盤は大きく毀損している。
債務超過リスクや資金繰り面でのリスクを回避し、事業の継続性を確実なものにするとともに、公募債市場への復帰等自律的な資金調達力の早期回復を図るためにも、資本を増強し、財務基盤を強化する。
6月27日の株主総会で承認を受ける。
政府の原子力損害賠償支援機構が全株引き受け、7月25日までに全額を払い込む。
これにより、東電の経営は実質公的管理下に置かれることになる。
東電は公的管理が終結した後、「経営改革及び株式市場に悪影響を与えない範囲で、適切な時期に当社による機構所有株式の取得、普通株式への転換による株式市場への売却等によって出資金の回収を目指す」としている。
今回の決定の概要は以下の通り。
1.発行可能株式総数の増加
現在 18億株
改正後 141億株
2.2種類の優先株の発行
A種優先株(議決権付種類株式) 1株 200円 16億株 合計 3,200億円 B種優先株(転換権付無議決権種類株式) 1株2,000円 3億4千万株 6,800億円 合計 10,000億円
A種、B種合わせて資本金が5,000億円、資本準備金が5,000億円それぞれ増加し、諸費用を除くと東電の手取り調達額は9,963億円となる。調達した資金は、素早く適切に損害賠償を進めるほか電力の安定供給に使い、「2015年3月末をめどに随時使用する」。
なお、優先株は他の株主に優先して配当を受け取れるが、賠償資金を返済することを優先することから、配当は考え難い。
3. A種は議決権付きのため、出資により原子力損害賠償支援機構は50.11%の議決権を取得する。
東電の現在の発行済株式総数 1,607,017,531株 (資本金 9009億75百万円) うち、議決権付き株式 1,593,149,800株 A種優先株 1,600,000,000株 50.11% 議決権付き株式合計 3,193,149,800株
4. 機構は「改革が不十分」と判断した場合はB種優先株を議決権のあるA種優先株に転換
株主総会で合併や定款の変更など、すべての議案を単独で可決できる3分の2以上に議決権を拡大 、
経営を完全に掌握する。
B種優先株が全てA種優先株に転換された場合、議決権は75.84%となる。
B種優先株がA種に転換 3,400,000,000株 発行価格10倍のため、B種1株がA種10株 転換後のA種合計 5,000,000,000株 75.84% 議決権付き株式合計 6,593,149,800株
5. A種株からB種株への転換も可能
東電の再建が順調に進めば、関与を弱める。
6. A種、B種優先株の普通株式への転換も可能
普通株への転換価格は30円~300円への範囲で、東電の時価に連動。(5月21日終値は162円)
優先株全てが普通株式に転換された場合の議決権は下記の通り。
1)発行可能株式総数141億株限度一杯(発行済 1,607,017,531株を控除)
転換株式数 12,492,982,469株 88.69% 議決権付き株式合計 14,086,132,269株
2)下限取得価額30円で転換(発行可能株式総数の引き上げが必要)
転換株式数 33,333,333,333株 95.44% 議決権付き株式合計 34,926,483,133株
現実にはこれらケースは、機構が出資金を回収する段階で一時的に行うケースなど。
付記
河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり 2012/5/26 「国民負担を増やす東電救済は駄目だ」
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なお、3月31日現在の株主は、
①東京都 出資比率は2.68%、②従業員持株会 2.41%、③三井住友銀行 2.26%、④第一生命 2.23%、⑤日本生命 2.21%。
A種優先株の発行で、東京都の出資比率は1.34%となる。
昨年9月末時点では、
①第一生命 3.42%、②日本生命 3.29%、③東京都 2.66%、④三井住友銀行 2.24%、⑤持株会 1.87%であった。
第一生命、日本生命は配当を期待できないため、一部を売却した。
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