米連邦地裁の裁判で7月3日、陪審から東芝に対し、87百万ドルの損害を認定する評決が出された。
東芝が1999~2006年にかけて液晶パネルの価格を決める際、ほかの企業と話し合い、違法な協定を結んだとして、米国の消費者が集団で損害賠償を求めていた。
10人の陪審員は、東芝が液晶パネルの価格を決めるため、他の企業とホテルで会合を持ったと認め、パネルを使用するメーカーに17百万ドル、最終製品を購入した消費者に70百万ドル、合計87百万ドルの損害を認定した。
原告側は、共謀による損害は867百万ドルと主張した。陪審員は、グレイな部分が多く、決定的な証拠がないため、原告側の言うような多額の損害は認められないと述べている。
米独禁法は損害認定額の3倍(今回の場合は261百万ドル)の
賠償額を認めている。
しかし東芝では、無罪を主張、あらゆる法的手段を用いて対応を進めるとしている。
ホテルでの同業者との会合は合法的なものであり、ホテルの会合で価格について話し合われたというタイプの製品は生産していないとしている。
「米国における液晶パネル事業について一切の違法行為はないと主張しており、違法性および損害を認定した今回の陪審による評決は不当であると考えています。今後、当社の主張が認められるよう、あらゆる法的手段を用いて対応を進めます」。
「東芝が罰金を支払う必要がない」点について、東芝では次のように述べている。
「今回の評決で認定された損害額は、当社がかかわったと認定された共謀行為全体によって、原告である液晶パネル関連製品等の直接購入者が被った損害の額とされています。」
即ち、パネルを使用するメーカーに17百万ドル、最終製品を購入した消費者に70百万ドル、合計87百万ドルの損害という認定は、東芝単独のものではなく、昨年12月に和解したシャープ等を含めた全体のものという。
「3倍賠償」となっても合計で261百万ドルに過ぎない。(陪審員の意見から見ると、悪質ではないとして3倍賠償が適用されない可能性もある。)
昨年12月には液晶ディスプレーの直接需要家に対し合計388百万ドル 、消費者に対し総額538百万ドルの和解金で和解しているため、完全に支払い済みとなる。
和解の場合は、各社の判断でしたものであり、裁判の結果の如何にかかわらず返還しないとの条項が入っている筈で、各社は払い損となるが、東芝にとっては原告に対しこれ以上の支払い不要となる。
これは、シャープ等、既に和解した企業にとっては、新たな問題を抱える。
和解に当たっては、米国での裁判は陪審員裁判のため、企業対消費者の裁判では企業に不利となり、また3倍賠償の制度があるということを前提に、「自社は違法行為はしていないが、裁判になると時間も費用もかかるため、和解した」というコメントが多い。
しかし、今回、東芝は和解に応じず、裁判に持ち込み、グレイな部分が多いとして、損害は極めて少ないという評決を得た。
各社は結果として、評決額よりもはるかに高い和解金を払ったこととなる。
もし、違法行為がないなら、何故、堂々と争わなかったかとの批判が出る。
付記
東芝は9月11日、原告との間で和解し、和解金30百万ドルを支払うと発表した。
7月の87百万ドルの損害認定の評決を不服として対応を進めてきたが、訴訟の長期化の影響等を総合的に勘案したとしている。
「東芝が罰金を支払う必要はない」としながら、何故払うのか、これも不思議な話である。
(本当に払う必要がないなら、裁判をすぐに決着させればよい。)
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液晶ディスプレイカルテルでは、2008年にLG Display、 中華映管(台湾)とシャープの3社が国際カルテルを認め、罰金支払いで司法省と合意して以来、日本・韓国・台湾のメーカーは司法省に罰金を払うほか、役員22人が起訴された(そのうち多くが禁固刑と罰金刑を受けた)。
Samsung Electronics はLeniencyで 法的には免責となった。
東芝は司法省による訴追は受けていない。
これに加え、直接の需要家からの集団訴訟と、最終消費者を代表する各州からの集団訴訟が行われた。
2011年12月に、Samsungを含む8社が液晶ディスプレーの直接需要家に対し、合計388百万ドルの和解金の支払いで合意した。
また、7社が、消費者に対し総額538百万ドルの和解金の支払いで合意した。(他に罰金支払い)
残る韓国のLG Displayは5月1日に消費者との間で和解、更に新しく台湾のAU Optronics も4月に消費者との間で和解した。いずれも金額は非公開。
2012/1/6 米国の液晶ディスプレイ価格カルテル、民事訴訟でも多額の和解金
最後に残ったのが東芝で、今回の陪審による評決となった。
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シャープは7月9日、TFT液晶事業に関し、北米・欧州において提起されている損害賠償を求める民事訴訟のうち、Dell, Inc.ほか2社からの民事訴訟について、総額198.5百万米ドルの和解金で和解することに合意したと発表した。
同社は上記の通り、多額の和解金で和解したが
、これは別の訴訟である。
「カルテルに関する欧州委員会の調査が続いているほか、民事訴訟もまだ残っている」としている。
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