東京電力の福島第一原発事故を検証する国会の「事故調査委員会」(黒川清委員長)は7月5日、最終報告書を決定し、衆参両院議長に提出した。
報告書は、計641ページに及び、事故原因の分析のほか、「政府の危機管理体制の見直し」など7つの提言から構成されている。
英語版はExecutive summary のみが公開されている。本篇は現在翻訳中で、完成後に公開される。
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福島原発事故から9か月後に、国会は以下の目的で、憲政史上初の独立委員会を設置した。
①事故に係わる経緯・原因の究明
②今後の原発事故の防止及び事故被害の軽減のための施策または措置について提言
「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」は、2011年10月30日に施行され、委員長及び委員の10名は、国会の承認を得て同年12月8日、両議院の議長より任命された。
【委員長】黒川 清(政策研究大学院大学アカデミックフェロー、元日本学術会議会長)
【委員】
石橋 克彦(理学博士、地震学者、神戸大学名誉教授)
大島 賢三(独立行政法人国際協力機構顧問、元国際連合大使)
崎山 比早子(医学博士、元放射線医学総合研究所主任研究官)
櫻井 正史(弁護士、元名古屋高等検察庁検事長、元防衛省防衛監察監)
田中 耕一(分析化学者、株式会社島津製作所フェロー)
田中 三彦(科学ジャーナリスト)
野村 修也(中央大学法科大学院教授、弁護士)
蜂須賀 禮子(福島県大熊町商工会会長)
横山 禎徳(社会システム・デザイナー)
調査の概要は以下の通り。
●ヒアリング: 延べ1167人(900時間超)
●原発視察(福島第一および第二、女川、東海):9 回
●タウンミーティング:3回(合計400超)
●被災住民アンケート回答者数:住民10633人(自由回答コメント8066人)
●作業従業員アンケート回答者数:2415人
●東電、規制官庁および関係者に対する資料請求:2000件以上
資料と映像は全て公開されている。http://naiic.go.jp/resources/
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黒川委員長によると、委員会の使命を、
「国民による、国民のための事故調査」
「過ちから学ぶ未来に向けた提言」
「世界の中の日本という視点(日本の世界への責任)」
とした。
そして調査に当たり、以下の認識を共有化した。
事故は継続しており、被災後の「福島第一原発」の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務であると認識する。
この事故報告が提出されることで、事故が過去のものとされてしまうことに強い危惧を覚える。
日本全体、そして世界に大きな影響を与え、今なお続いているこの事故は、今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視、検証されるべきである。
事故の根源的原因:
本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について、「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となること(規制当局は電力事業者の「虜」となっていた)による原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた点に求められる」と認識する。
黒川委員長は以下の通り述べている。
そこには、ほぼ50 年にわたる一党支配と、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった官と財の際立った組織構造と、それを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」があった。経済成長に伴い、「自信」は次第に「おごり、慢心」に変わり始めた。入社や入省年次で上り詰める「単線路線のエリート」たちにとって、前例を踏襲すること、組織の利益を守ることは、重要な使命となった。この使命は、国民の命を守ることよりも優先され、世界の安全に対する動向を知りながらも、それらに目を向けず安全対策は先送りされた。そして、日本の原発は、いわば無防備のまま、3.11 の日を迎えることとなった。
何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば、今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である。
事故の直接的原因:
事故が実際にどのように進展していったかに関しては、重要な点において解明されいないことが多いのに、東電は、事故の主因を早々に津波とし、「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記している。
委員会は、事故の直接的原因について、「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」、特に「1号機においては小規模の小破口冷却材喪失事故が起きた可能性を否定できない」とし、これについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する。
このほか、
「運転上の問題の評価」:東電の組織的な問題である
「緊急時対応の問題」:危機管理体制が機能しなかった、事業者と政府の責任境界が曖昧
「被害拡大の要因」:危機管理体制が機能しなかった
「住民の被害状況」:被災地住民に事故の状況は継続。政府側の住民の健康と安全を守る意思の欠如、対策の遅れ・・・
「問題解決に向けて」:規制される側とする側の逆転関係の解決なしには再発防止は不可能
「事業者」:東電経営陣の姿勢は原子力を扱う事業者としての資格があるのか?
「規制当局」:内向きの態度を改め、国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要
「法規制」:抜本的見直しが必要。世界の最新の技術的知見等を反映、これを担保するための仕組みの構築
提言
1.規制当局に対する国会の監視
2.政府の危機管理体制の見直し
3.被災住民に対する政府の対応
4.電気事業者の監視
5.新しい規制組織の要件
6.原子力法規制の見直し
7.独立調査委員会の活用
「ここにある提言を一歩一歩着実に実行し、不断の改革の努力を尽くすことこそが、国民から未来を託された国会議員、国権の最高機関たる国会及び国民一人一人の使命であると当委員会は確信する。
福島原発事故はまだ終わっていない。被災された方々の将来もまだまだ見えない。国民の目から見た新しい安全対策が今、強く求められている。これはこの委員会の委員一同の一致した強い願いである。」
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