イラク・クルド自治区の石油開発の状況

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Marathon Oil は7月31日、Totalとの間で、イラクのクルド自治区のHarir block とSafen blockの開発にTotalが参加する契約を締結したと発表した。

TotalはMarathonから43.75%の権益を買収する。(所有権は35%、クルド政府が20%保有)

MarathonはHarir blockのオペレーターとSafen blockの開発オペレーターを続け、TotalはSafen blockの生産開始後はこのオペレーターとなる。

  当初 改正
Working
Interest
(Ownership)
Paying
Interest
Working
Interest
(Ownership)
Paying
Interest
Operator
Marathon 80% 100% 45% 56.25% Harir block
Total - - 35% 43.75% Safen block
(開発はMarathon)
Government 20% - 20% -  


Total は中央政府の二次入札で
CNPC主導のHalfaya油田開発にPetronasとともに参加している。
CNPC 37.5%、Petronas 18.75%、Total 18.75%、イラン国有South Oil Company 25%)

クルド自治政府の石油開発を認めていないイラク中央政府は8月12日、Totalに対し、本件をやめるか、南部のHalfaya油田の権益を売却するか、との最後通告を行った。

Marathon Oil は2010年10月、クルド自治区で上記のHarir とSafen blockの2つの開発権を取得するとともに、Atrush とSarsang の2鉱区に参加した。

 ・Atrush Block  20% (General Exploration Partners, Inc. 80%)

2007年11月に認可を受けた。
Atrushを開発するGeneral Exploration は当初は
Aspect Energy LLCの100%子会社であったが、その後、Aspect Holdingsが2/3、カナダのShaMaran Petroleumが1/3のJVとなっている。

 ・Sarsang Block 25% (HKN Energy 75%)

2007年11月に認可を受けた。
Sarsangを開発するHKN Energyは米の
Hillwood International Energy(事業はこれのみ)の子会社であったが、2001年にA.P. Moller - Maersk Groupの子会社Maersk Oilが20%参加した。

今回のTotalのクルド自治区への進出は、ExxonMobil とChevronに次ぐ3社目のBig Oil の進出となる。(直後にGazpromが契約を締結した。)

ExxonMobil は2011年10月、クルド自治政府と6鉱区の単独開発で合意し、生産物分与契約を締結した。

下の地図のBlue line はクルド自治政府の境界線だが、Kirkuk市などを含む斜線部分(Disputed area)は帰属未定で、クルド政府は固有の領域とし、中央政府はそうでないと主張している。Exxon契約のうち3か所は紛争地域内で、問題となる。


 

ExxonMobil は中央政府の第一次入札でShellと共同で南部のWest Qurnaの開発権を得ている。


Chevron は2012年7月、インドのRelianceからRovi blockとSarta block の80%を買収する契約を締結した。買収額は約3億ドルと言われる。

これらのblockは2007年に契約を締結したが、2010年に自治政府が権益の20%をオーストリアのOMVに与えた。
OMVは今後も20%の権益を維持する。

これに引き続き、8月1日にはロシアの Gazprom Neft がクルド自治政府との2ブロックでの契約締結を発表した。

 ・Garmian blockの40%(カナダのWesternZagrosが40%、自治政府が20%)
 ・Shakal blockの80%(自治政府が20%)

Gazpromは中央政府の2次入札でBadrah油田の開発権を得ている。

ーーー

イラクは2009年6月30日にようやく、第一次開放対象の国際入札を実施した。その後、順次入札を行っている。

2009/11/12 イラク、第一次油田開放で進展

2009/12/14  イラクの石油第二次入札で石油資源開発が落札

2010/10/26  イラクでの天然ガス田開発、韓国連合が2ガス田を落札

2012/6/1  国際石油開発帝石、イラクの第4次公開入札で落札

開発の遅れは、イラク国会でイラクの石油・ガス田開発の権利を巡って行き詰り、海外資本を規制する石油・ガス法が通らないままとなっていたためである。

クルド地方政府はこれに苛立ち、独自に海外石油資本と多数の契約を締結した。

2004年にDNOとの間で、Tawke、Dohuk(北部)とErbilの3つの油田の開発契約を締結した。

その後、2007年後半以降、多数の契約を締結した。
この中には韓国のコンソーシアムによる5油田も含まれている。(その後、開発は失敗に終わった。)

   2008/2/20 韓国エネルギーコンソーシアム、イラク油田開発

   2011/9/20 韓国のイラク・クルド地区の石油開発は失敗 

2009年6月にはクルド自治区からの原油輸出が始まった。
Tawke油田とTaq Taq 油田からの日量10万バレル程度の原油を中央政府が管理する既存パイプラインを使ってトルコの地中海岸の積み出し港
ジェイハンに運び、そこから輸出する。

 2009/6/9 イラクのクルド自治区の原油輸出開始 

これに対し、イラク政府は外国企業がクルド地方政府と石油関連の合意を結ぶことは違法であると主張している。

上記の韓国コンソーシアムによるクルド地区での石油開発参加に対し、イラクの石油相は、「韓国石油公社やSKエナジーなどの韓国企業がクルド自治政府と締結した油田開発事業は、中央政府との協議を経ずに行われた違法なものだ。そのため両社は今後、イラクでの油田開発に関する入札に参加できない」と通知した。

イラク政府は第1回油田開発入札資格審査で両社を排除、第2回審査でもSKエナジーを排除した。
また、SKエナジーに対する日量 9万バレルの輸出を一時停止した。オーストリアの
OMVに対しても石油輸出の停止処分を行なっている。

2011年10月のExxonMobil のクルド政府との契約締結に対し、イラク中央政府はExxonに対してクルドか南部で契約済のWest Qurnaかを選択するよう要求(最終的にWest Qurnaの権利は維持)、また契約を解除しないと第4次入札から締め出すと通告した。

2009/4/7 イラクの油田開放、クルド人自治政府と契約の韓国企業を除外

クルド地方政府はこの契約は憲法の権利に基づくもので、イラクの基本法に反するものではないと主張している。

ーーー

クルド人は国を持たない民族で、トルコ、イラン、イラク、シリアにまたがり住んでいる。推定人口は2000万~3000万人。

第一次世界大戦後、連合国と敗戦したオスマントルコ帝国との間でクルド人の独立が認められたが、条約は破棄され、英仏によるオスマントルコ分割でクルド人に配慮せず国境線を引いた。

今回のシリア内戦ではシリア北東部の各都市をクルド人勢力が掌握した。
トルコ政府は国内のクルド人の独立運動の高まりに苦慮している。

イラクでは1991年の湾岸戦争でのイラク敗北後、多国籍軍が設定した保護区でクルド人自治が実現。フセイン政権崩壊後、イラク政府は2006年に正式にクルド自治政府を承認した。

域内の石油埋蔵量は450億バレルでイラク国内全体の埋蔵量の約3割を占めるが、自治政府はイラクの石油収入の17%しか受け取れず、自治政府はこれを不満としている。

クルド自治区での石油開発に関し、クルド自治政府は、イラク国内で産出し、輸出される石油や天然ガスはイラクのものであり、収入の17%以外はイラク中央政府に渡すとしている。

本年に入り、クルド自治政府はトルコへ100万バレルの石油を運ぶパイプラインを建設すると発表、これに対し中央政府は、イラク国土内のエネルギーに関する全ての決定、全ての方針について「中央政府の支配下」にあるとし、この動きを「違法」だとしている。

ーーー

クルド自治政府が認可した案件は以下の通り。(他に北部の自治区境界にExxon 2鉱区

 

相手 鉱区  
DNO Tawke
Dohuk
Erbil
2009/6 Tawke から初出荷
Addax Petroleum Taq Taq
(製油所も)
その後、トルコのGenel Enerjiが参加
2009年、SinopecがAddaxを買収

2009/6 Taq Taq から初出荷
Hunt Oil /
Impulse Energy
Duhok  
Heritage Oil and Gas Miran
(製油所も)
 
Perenco S.A. of France Sindi
Amedi
 
OMV Mala Omar
Shorish
 
MOL Hungarian Oil and Gas /
Gulf Keystone
Akre-Bijeel
Shaikan
 
Reliance Rovi
Sarta
当初 Reliance 100%。
2010年にOMV が20%取得。
2012年7月、ChevronがReliance持分を買収
Norbest Limited
(TNK-BP)
Khabat
Dimir Dagh
Zab
Hawler
 
KNOC (韓国) Bazian
Sangaw North
Sangaw South
Qush Tappa
Hawler
失敗

Sangaw NorthはSterling Energyも、
HawlerはTNK-BPも。
HKN Energy Ltd
(Hillwood International Energy)
Sarsang Marathonが参加
Sterling Energy Sangaw North   
General Exploration Partners
(Aspect Energy)
Atrush Marathonが参加
Talisman Energy Kalar-Bawanoor
Block K39
 
Marathon Oil Harir
Safen
今回、Totalが参加
ExxonMobil 6 blocks  
Gazprom Neft Garmian block Gazprom 40%
WesternZagros 40%
自治政府 20%
Shakal block Gazprom 80%
自治政府 20%




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