患者のiPS細胞でALSの病態解明・治療薬シーズ発見

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京都大学の研究グループは8月1日、山中伸弥iPS細胞研究所長らの研究グループと協力し、ALS(筋萎縮性側索硬化症:ルー・ゲーリッグ病)の患者から作成したiPS細胞を用いて、ALSのこれまで知られていなかった病態を解明し、ALSに対する新規治療薬シーズを発見したと発表した。

この研究成果は米国科学誌 Science Translational Medicine に発表された。
http://stm.sciencemag.org/content/4/145/145ra104

ALSは運動ニューロン(神経細胞)が変性することで次第に全身が動かなくなり死に至る疾患。

これまではALS患者から運動ニューロンを取り出すことができなかったために、患者の病態をそのまま反映するモデルを作ることが難しく、ALS治療に有効な治療薬開発は進んでいなかった。

今回、TDP-43というタンパク質をコードする遺伝子に変異を持つ家族性ALS患者から作成したiPS細胞を用いて、運動ニューロンを分化誘導した。

このALS運動ニューロンには、ALS病理組織の運動ニューロン内で見られるものと類似のTDP-43の凝集体が観察された。

さらに、ALSに罹患していない運動ニューロンと比較して、突起が短く、ストレスに対して脆弱になっていた。

このタンパク質は、ALSでは自己調節が異常をきたして、運動ニューロン内でTDP-43の発現量が増加し、神経細胞骨格の遺伝子発現や、RNA代謝に関連する分子の遺伝子発現に異常が生じていることが分かった。

そこで、RNA代謝を調節することが知られている化合物をALS運動ニューロンに作用させたところ、アナカルジン酸(anacardic acid)と呼ばれる化合物によって、TDP-43の発現量が低下し、ALS運動ニューロンのストレスに対する脆弱性が改善され、神経突起の長さが回復することを発見した。

TDP-43の異常を制御する本研究の治療薬シーズは、患者の大半を占める孤発性ALSにも効果があることが期待される。

ALS患者の1割程度は、血縁者のなかに発症者がみられ(家族性ALS)、 残る9割にはみられない(孤発性ALS)。

京大では今後は、患者のiPS細胞を用いて、病態の更なる解明を進めるとともに、治療薬シーズ探索基盤を進化させて、多くの治療薬候補を得る必要があるとしている。

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ALS患者には、クイズダービーの人気回答者であった篠沢教授がいる。

山中iPS細胞研究所長は講演でよく、iPSの研究を始めたきっかけを話している。

当初は整形外科医であったが、ALSのような治療不可能な病気に直面して外科医としての限界を感じ、これらの病気の原因を追究するため研究者に転じた。

講演では、ALSで苦しむ篠沢教授の現況を画像で見せている。

所長はまた、iPSの研究の目的として、iPSからの組織再生による直接の治療もあるが、ALSなどの場合は全身の神経細胞のため不可能であり、それらに対してはiPS細胞で病気を再現し、それを使って病気の原因 究明と治療薬の開発をするのが目的であるとしている。

今回、所長のiPS研究のきっかけとなったALSの治療薬の開発に一歩進んだこととなる。

山中所長は、「研究所は 10年間の目標の一つとして患者由来のiPS細胞を使った難病の治療薬開発を掲げており、一歩前進した。ALSや他の難病の新しい治療薬開発を実現するために、さらに研究を進めたい」と述べている。


 

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付記

岐阜薬科大の原英彰教授(薬効解析学)らの研究グループがALSの進行を制御する新たなたんぱく質を特定し、8月13日、英科学誌 Scientific Reports 電子版に発表した。

研究グループは、マウスを用いた実験や患者の血清などの調査から、ALSの要因に膜貫通糖たんぱく質(GPNMB)と呼ばれる遺伝子が大きく関わっていることを発見した。

遺伝性ALSの原因の一つSOD1の変異型遺伝子を組み込んだマウスにGPNMBを過剰に増やした場合、増やしていないマウスに比べて発症時期が遅れ、生存期間が延びた。

また運動神経細胞に変異SOD1を増やすと、細胞中のGPNMBの量が減少し、細胞死が引き起こされる一方、運動神経細胞にGPNMBを加えると、細胞の障害が改善され、ALSの進行を遅らせることを突き止めた。



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