米司法省は8月16日、米国内の自動車部品販売をめぐる価格カルテルで、矢崎総業の日本人幹部1人が新たに有罪を認め、1年2カ月の禁錮刑と罰金2万ドルの支払いに合意したと発表した。
この事件では、まず古河電工が2011年9月29日、米国司法省との間で、自動車用ワイヤーハーネスに係るカルテルに関して司法取引に合意し 、罰金200百万ドルを支払うとともに、社員3名が有罪を認め、罰金と禁固刑となった。
2011/10/4 古河電工、自動車用ワイヤーハーネス・カルテル問題で米国司法省と合意
次いで、本年1月30日に、矢崎総業とデンソーが米国での自動車用ワイヤーハーネス等のカルテルで有罪を認め、罰金を支払うことで合意した。
矢崎総業はワイヤーハーネス、インパネクラスター、ヒューエルセンサーの3件に係わった。
矢崎総業の罰金は470百万ドルで、これは米独禁法(Sherman Act)での2番目に大きい罰金となる。デンソーは電子制御ユニット(ECU)とヒーター操作パネル(HCP)の2件に係わった。
デンソーの罰金は78百万ドル。
別途、矢崎総業の4人が15か月から2年の禁固刑を受けた。2年は米独禁法で外国人の禁固刑では最長となる。
その後、デンソーの2名が禁固刑を受けている。
今回、矢崎から1名が追加されたが、更に1名が起訴されており、9月26日に量刑の合意書を締結することとなっている。
これにより、自動車部品関連で合計11名が禁固刑を受けることとなる。
なお、禁固刑に加え、各人が2万ドルの罰金を課せられている。
氏名 発表 or 合意書 禁固 罰金 古河電工 J. F. 2011/10/24 1年+1日 各人
2万ドルH. N. 2011/10/13 15か月 T. U. 2011/11/10 18か月 矢崎総業 T. H. 2012/1/30 2年 R. K. 2012/3/26 2年 S. O. 2012/3/26 15か月 H. T. 2012/3/26 15か月 T. S. 2012/8/16 14か月 K. K. 2012/9/26決定 付記 14か月 デンソー N. I. 2012/3/26 1年+1日 M. H. 2012/4/26 14か月
付記 司法省は2012年11月16日、12人目を発表した。
山下ゴム H.Y. 2012/11/16 12か月+1日 2万ドル 発表では「埼玉に本社を置く免震ゴムメーカーのオハイオにある子会社」としか発表していないが、現地紙は山下ゴムの子会社のYUSA Corporation の社員と報道している。
付記 朝日新聞は2013年3月25日に、「米で邦人社員12人収監 自動車部品カルテル、海外波及」として大きく報道している。
これにより、日本人で禁固刑に処せられるのは合計で13名となる。→14名
米国のカルテルでは、企業に罰金が課せられるだけでなく、従事した従業員も起訴される。
これまで非常に多くの日本人がカルテルで起訴されている。
但し、日本在住の場合は犯罪人引渡条約の対象(両国でいずれも処罰の対象となり両国の法律で死刑、無期懲役、1年以上の拘禁刑に当たる罪の場合)に該当しないため、米国での時効の中断状態となっている。
米国や欧州など引渡条約対象となる国に行った場合は逮捕され、米国で裁判を受けることとなる。
時効は中断状態のため、永久に外国に行けない。
第一号はダイセル社員のH. H.氏
防カビ剤のソルビン酸価格カルテルで起訴された。
同氏は当時は役員ではなく、担当者であったが、減免申請をしたチッソの提出資料に同氏の活動状況が詳しく書かれていたため、余りにも関与が大きいとして、例外的に起訴されたという。
まだ若く、海外に行けないのでは仕事にならないため、自ら渡米し、3ヶ月の禁固刑(と罰金2万ドル)に服した。
同時に起訴されたダイセル、上野製薬、日本合成の役員は日本から出ず、刑を避けている。2006/2/16 独禁法改正
もう一人はブリヂストンのM. H.氏
マリンホース国際カルテルで現場で逮捕された。有罪を認め、2年の禁固刑と8万ドルの罰金を課せられた。
2008/12/12 マリンホース国際カルテル事件で日本人に有罪判決
なお、罰金刑だけなら、他にもある。
リジンカルテルでは、味の素と協和発酵、及びSewonは司法取引に応じ、各社と各社の役員各1名が罰金を払った。
なお、味の素のM氏の個人の罰金を会社が支払った疑惑が問題となった。
2010/1/12 映画 The Informant
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これまで禁固刑がたった2名で、それも1名は現地逮捕である。他は全て日本から出ず、刑を避けている。
それが、3社で11人もが刑を受けるなど、過去の例からは考えられない。
今回の事件で、全員が米国で逮捕されたとは考えられない。
古河電工の司法取引について、司法省は企業への罰金と社員3名の禁固刑を同時に発表している。
もしかすると、社員を裁判にかけさせるのを条件に、企業への罰金の減額の取引をしたのかも分からない。
司法省は日本人が日本から出ず、裁判を受けないのを不満に思っているのは間違いない。
上記ダイセルの社員の場合は、第一号として大々的にPRする一方、禁固期間を短くし、禁固中も週末の帰宅を認めるなど、非常に寛大な措置をしている。
これが前例になると、今後は、日本から出ずに刑を避けるなどということが出来なくなる可能性がある。
付記
日本精機は8月29日、米国司法省との間で、自動車用計器に係る競合他社とのカルテル事件に関して、罰金100万米ドルを支払うこと等を内容とする、司法取引に合意したと発表した。
米司法省は、これを含め、8社と11名(上記)が罪を認めたと発表した。→9社と12名
企業については以下の通り。
罰金 | |||
古河電工 | 2011/9 | ワイヤーハーネス | 200 百万ドル |
矢崎総業 | 2012/1 | 同上 | 470百万ドル |
デンソー | 2012/1 | electronic control units (ECUs)
heater control panels (HCPs) |
78百万ドル |
ジーエスエレテック (デンソー関係会社) |
2012/4 | antilock brake systems | 2.75百万ドル |
フジクラ | 2012/4 | wire harnesses | 20百万ドル |
Autoliv Inc (Stockholm) |
2012/6 | seatbelts, airbags and steering wheels |
14.5百万ドル |
TRW Deutschland (米社独子会社) |
2012/7 | seatbelts, airbags and steering wheels |
5.1百万ドル |
日本精機 | 2012/8 | 自動車用計器 | 1百万ドル |
付記 司法省は2012年10月30日、東海理化がヒーターコントロールパネルでの価格カルテルで有罪を認め、1770万ドルの罰金支払いで合意したと発表した。
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