iPS細胞から卵子作成・マウス出産に成功

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京都大の研究チームはこのたび、マウスのiPS細胞とES細胞(受精卵をもとにした胚性幹細胞)から卵子をつくることにが成功した。その卵子を体外受精させ、子どもや孫も生まれた。iPS細胞から生殖能力のある卵子ができたのは初という。

京大発表 多能性幹細胞から機能的な卵子を作製することに成功
  http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2012/121005_2.htm

米科学誌サイエンスの10月4日の速報電子版で発表、解説記事も掲載した。

Offspring from Oocytes Derived from in Vitro Primordial Germ Cell-Like Cells in Mice
   http://www.sciencemag.org/content/early/2012/10/03/science.1226889.abstract

解説記事 Sperm and Eggs Created in Dish Produce Mouse Pups
   http://news.sciencemag.org/sciencenow/2012/10/oocytes-normal-mice.html

京大の斎藤通紀・医学研究科教授や林克彦准教授らの研究チームが下記の手法で卵子をつくり、この卵子計163個を、マウスが自然につくった精子と体外受精させて、雄雌3匹の子どもが生まれた。
いずれも正常で、別のマウスとの間に孫をつくることもできた。

同チームは昨年、iPS細胞とES細胞から精子を作る同様の実験にも成功している。

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チームは、メスのマウスの細胞から作ったiPS細胞とES細胞に2種類のたんぱく質などを加えて培養し、 卵子や精子を作る元となる「始原生殖細胞」に極めて似た細胞を作った。

始原生殖細胞は生殖細胞のもとになる未分化の細胞で、発生の初期に出現し、将来の卵原細胞あるいは精原細胞になる。

昨年の精子の場合は、この始原生殖細胞を雄の精巣に移植して精子を作った。

しかし、卵子はそのままでは分化しにくい。
このため、始原生殖細胞をマウス胎仔の中から取り出した将来の卵巣になる体細胞と共に培養した後に、雌マウスの卵巣に移植することで未成熟卵子を得た。

それらの未成熟卵子を体外培養により受精可能な卵子にまで成熟させた後に、自然につくった精子と体外受精させることにより健常なマウスを得た。

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本成果は基礎および応用面の双方において大きな効果が期待できる。

基礎面においては、始原生殖細胞の発生メカニズムの解明や卵子形成の初期段階の解析が可能になる。

応用面においては、不妊症の原因究明に効果が期待できる。

ES/iPS細胞を起点として、始原生殖細胞から卵子形成の初期段階までの一連の分化過程を追えることから、この培養系を発生モデルとして用いて、始原生殖細胞の発生や卵子の分化・成熟に必要な遺伝子の単離に貢献すると考えられる。

これらの遺伝子はヒトの不妊症の原因遺伝子となっている可能性があるが、iPS細胞からも卵子を作製できることから、不妊症患者からのiPS細胞を用いることにより、疾患原因遺伝子の同定を行うことが可能になると考えられる。

しかし、本研究はマウスを用いた試験段階であり、マウスとヒトの相違点を考慮すると、応用面での貢献のためには、さらなる基礎研究が必要である。

人とマウスのiPS細胞は性質が違い、人で同様に始原生殖細胞をつくるのはかなり難しいという。

また、卵子は生命の根源となる細胞であり、倫理的な課題を慎重に検討する必要がある。

ES細胞とiPS細胞の取り扱いを定めた国の指針では ヒトについて「できた卵子や精子を受精させない」としている。
政府の総合科学技術会議は昨秋、研究のため人工的に作った生殖細胞の受精の是非について、ようやく検討を始めた。

チームの斎藤通紀教授:

つくった卵子の機能に問題がなく、倫理上の問題も解決されて社会的にも認められることが前提だが、成果が不妊治療に役立てばいいと強く思う。

現時点の技術をヒトで応用することは非常に難しい。

山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長:

精子に続き、わずか1年で卵子作製に成功したことに敬意を表したい。体の中で精子や卵子がどうできるのか、緻密な研究を積み重ねてきたチームだからこそと思 う。不妊症の原因解明や創薬につながる大きな一歩。

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慶応大の岡野栄之教授らが、人間の皮膚の細胞から作ったiPS細胞を培養し、「始原生殖細胞」に成長させることにが成功した。10月6日の各紙が報じた。

始原生殖細胞に特徴的に現れる遺伝子が確認できた。

海外では既に作製例が報告されているが、国内では初とみられる。


 

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