読売新聞は10月11日、「iPS心筋移植、ハーバード大で ... 初の臨床応用」と報じた。
ハーバード大の森口尚史客員講師らが iPS細胞から心筋の細胞を作り、重症の心不全患者に細胞移植する治療を6人の患者に実施し 、成功したとしている。
iPS細胞を利用した世界初の臨床応用例で、最初の患者は退院し、約8か月たった現在も元気だという。
iPS細胞の作製方法は、4種類の遺伝子を注入する山中教授の手法とは異なるものだという。
報道によると、以下の手法をとった。
・患者の肝臓から肝臓の前駆細胞を採取
・2種類の化学物質を用いてiPS細胞を作製
Nature誌によると、森口論文記載では microRNA-145 inhibitor と TGF-β ligand
・心筋細胞に変化させた後、冷却装置を用いて大量増殖
森口氏の他の本では、冷却は単に保存のためとしている。
・重症心不全患者の心臓の約30カ所に注入
更に読売新聞は森口客員講師とのインタビューを掲載した。
・患者6人
いずれも米国籍で、日系の患者も1人。ハーバード傘下の同じ病院の患者。
最初の患者は肝臓移植を受けていたため、心臓が悪くなったのに次の移植の機会がなかなか得られなかった。心筋梗塞や狭心症、糖尿病も持ち、仮に心臓移植をやっても難しかっただろう。
ほかの5人も、慢性虚血性で重症の心不全。危険因子を多く抱えていた。
3人は何か治療しなければ死んでいただろう。他の3人も1か月くらいしかもたない状況だった。
患者たちの容体は安定し、1人は社会復帰して働いている。
・チーム構成
5人ほど。私が細胞を担当。
過冷却の担当者は生命工学や機械工学を専攻するハーバード大とマサチューセッツ工科大の大学院生ら。(手術した医師の名前が出てこないのがおかしい 。同氏は東京医科歯科大学医学部保健衛生学科卒業で、看護師の資格を持つが、医師の資格は持たない。)
・日本と米国の違い
日本なら規制が色々あってできなかっただろう。
・資金調達
大学院生らがボストンのベンチャーキャピタルに行って集めてくれた。
森口氏は、米ニューヨークのロックフェラー大学で10日から開かれていた 7th Annual Translational Stem Cell Research Conference (幹細胞学会)で、iPS細胞から心筋の細胞を作り、重症の心不全患者に細胞を移植する治療を実施したとポスターで展示した。
共著者には4人の名前が挙がっている。各氏の発言は以下の通り。
東京医科歯科大学の佐藤千史教授
「メールで研究の抄録を受け取り、内容の整合性を確認、名を連ねることを了承した。注意が不十分だった」
東京大学の井原茂男特任教授
「基礎的なデータ解析は頼まれたが、人の臨床に応用するとは聞いていなかった」
杏林大の上村隆元講師
「iPS細胞について、私は全くの専門外。事前に一切連絡はなく、なぜ私の名前が入っていたのか分からない」
慶応大医学部の興津太郎助教
(森口氏が本年9月に発表した「肝臓がんの細胞から作ったiPS細胞を使った新治療法」の共同執筆者とされた)
「掲載された研究に関与した事実は一切ない」
NHKの取材に対し森口氏は、細胞移植はことし2月以降、ボストンにあるハーバード大学の関連病院、マサチューセッツ総合病院で院内の倫理委員会の暫定承認を得たうえで実施した、と説明した。
NHKは読売の報道前に同氏にインタビューしたが、病院側の確認が取れないことや、 列挙されている著者が日本人ばかりで手術した医師などが入っていないなど、不審なことが多いため、放送しなかったという。
毎日新聞、朝日新聞、日本経済新聞も取材を依頼されたが、説明に不審な点があるため、記事化を見送ったとしている。
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読売新聞の
報道を受け、海外の記事を探したが、一切報道されていなかった。
ハーバード大学なども臨床応用実施の発表はしていない。
「1999〜2000年にかけてマサチューセッツ総合病院の客員研究員だったが、それ以来、同病院やハーバード大とは関係がない。森口氏の職務に関わる臨床試験は、同大学あるいは総合病院の審査委員会により承認されたものではない」
これを受けて国際学会を主催した財団も、「疑義が生じた」と指摘し、会場から発表内容を示したポスターを撤去する措置をと った。
ウェブで参加登録をした研究者は誰でもポスターを示して研究成果を説明することができるといい、審査などはないという。
これについて森口氏は、「きちんとした手続きにのっとって移植を実施した。私に医師の資格はないが、移植は医師の指示の下で行われたので問題はない。ハーバード大学が私が所属していないと否定するのはよく分からない」と話してい る。
森口氏が「論文を投稿する」と説明したNature
Protocolsの編集部は「該当する論文は受理されていない」としている。
英科学誌 Natureは10月12日、森口氏の主張におかしな点が多数あることを指摘し、更に、iPS細胞に関する本で森口氏が執筆を担当した部分に、山中伸弥・京都大教授の論文と同じ表現があることが分かったとの記事を電子版に掲載した。
http://www.nature.com/news/stem-cell-transplant-claims-debunked-1.11584
読売新聞は10月12日、以下の通り報じた。
「iPS心筋移植」報道、事実関係を調査します
本紙記者は、事前に森口氏から論文草稿や細胞移植手術の動画とされる資料などの提供を受け、数時間に及ぶ直接取材を行った上で記事にしました。
森口氏は本紙記者のその後の取材に対し、「(取材に)話したことは真実だ」としていますが、報道した内容に間違いがあれば、正さなければなりません。
現在、森口氏との取材経過を詳しく見直すとともに、関連する調査も実施しています。読者の皆様には、事実を正確に把握した上で、その結果をお知らせいたします。
同紙は13日、森口氏の説明は、「虚偽と判断」し、「今回の事態を招いたことに対し、読者の皆さまに深くお詫びいたします」とし、以下の通り述べた。
「事実だ」と主張し続ける森口氏の説明は客観的な根拠がなく、説明もまったく要領を得ません。
私たちはそれを見抜けなかった取材の甘さを率直に反省し、記者の専門知識をさらに高める努力をしていきます。
本紙は過去にも森口氏の記事を取り上げています。そのうちの2010年5月の記事について東京医科歯科大が12日、同大での実験や研究を否定しました。ゆゆしき事態であると認識しています。
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読売新聞は2010年5月1日、「iPS活用 初の創薬...C型肝炎 副作用少なく 東京医科歯科大など成功」の記事を掲載した。
ヒトのiPS細胞などを使って、C型肝炎を治療する効果的で副作用も少ない薬の組み合わせを見つけ出すことに、森口尚史・米ハーバード大学研究員らと東京医科歯科大のグループが成功した。
難治性C型肝炎の治療はインターフェロンと抗ウイルス薬リバビリンの同時投与が一般的だが、インターフェロンには発熱やうつ症状、リバビリンには重い貧血などの副作用があった。
森口研究員らは既存の治療薬など10種類から2~3種類を選択。C型肝炎ウイルスに感染した肝臓の培養細胞に同時投与して薬の効果を調べる一方、ヒトiPS細胞から作った心筋や肝臓の細胞にも同様に加えて薬の副作用を調べた。
その結果、量を4分の1に減らしたインターフェロンと、高脂血症治療薬、臨床試験中の肝がんの新薬の計3種類を組み合わせて使うと、ウイルスは10%以下まで急減。iPS細胞由来の心筋の拍動や肝臓細胞へのダメージも少なかった。
東京医科歯科大は10月12日記者会見を開き、森口氏が同大と、iPS細胞を使ってC型肝炎の新しい治療法を開発したとする読売新聞の2010年の報道について、「同大で研究実験を行った事実はない」と発表した。
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東京大学のホームページには、森口氏について以下の記載がある。
東大 先端科学技術研究センター知的財産分野 寄付研究部門
先端医療・知的財産政策(第一製薬)
客員助教授 森口尚史
1995年 東京医科歯科大学大学院医学系研究科卒業後、(財)医療経済研究機構 調査部長及び主任研究員として活動し、1999年度7月より現職。現在、ハーバ ード大学医学部マサチューセッツ総合病院 消化器内科教室リサーチフェロー及び東京医科歯科大学医学部非常勤講師を兼務。
先端研ニュース(2002/4/1)では、2002年3月31日退職となっている。
2007年9月に東大で博士号(学術)を取得した。
博士論文題目は「ファーマコゲノミクス利用の難治性C型慢性肝炎治療の最適化」
現在は東京大学医学部附属病院形成外科・美容外科で有期契約の特任研究員をしているという。
東京大学医学部附属病院は10月12日以下のコメントを出した。
本日現在、本人とは連絡がとれておりません。
東京大学医学部附属病院では、事実関係の確認を急いで行っているところです。
付記
東京大学は10月19日、同大病院の森口尚史・特任研究員について、懲戒解雇処分にしたと発表した。
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森口氏は10月13日、記者会見し、iPS細胞を使った手術について、時期や回数などに虚偽が含まれていたことを認めた。
手術は昨年6月に1件行ったとしたが、詳細は明らかにしなかった。
なぜ直ぐにバレルことをやったのだろうか。
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