オバマ大統領は9月28日、「国の安全保障に関わる」として、中国系企業Ralls Corp. によるオレゴン州の米海軍施設近くの風力発電企業4社の買収と所有を禁止し、本年取得した所有権を放棄することを求めた。
Ralls Corp.
の買収行為がアメリカの安全を脅かす可能性があると認識し、買収の阻止を命じたとしている。
先ず、米国の外国投資委員会(CFIUS)がこの取引をやめるよう命じたため、Ralls
Corp.がこれを越権行為で違法であると訴えた。
このため、大統領がCFIUSの提言を基に命令した。
New York Timesは、22年ぶりに大統領が商取引を禁止したが、これは、オバマ大統領が北京に対して弱腰だというRomney大統領候補を含む共和党の批判に対して、最近頻繁に打ち出している強硬ラインの一つであるとしている。
米国は外国からの米国内直接投資を歓迎するが、国家安全保障を保護するための例外を設けている。
外国投資委員会(CFIUS)が審査を行い、投資内容が米安全保障にかかわるものと大統領が判断した場合には究極的には買収案件を拒否できる。まずCFIUSが外資による投資の予備審査をした後、同委員会が必要と認める案件についてのみ、本審査を行い、最終的に大統領の決定を仰ぐ。
財務省が議長となり、国土安全保障省、商務省、国防総省、国務省、司法省、エネルギー省、通商代表部、労働省、国家情報局がメンバーとなる。
これまで中国企業の買収阻止を命じたのは、1990年2 月にGeorge Bush大統領が行ったもので、China National Aero-Technology Import and Export Corp(中国宇宙航空技術輸出入公司)による航空機部品メーカーのMAMCO Manufacturing, Inc.の買収のみ。
付記
三一重工は10月18日、これを不服として、オバマ大統領と米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)を米コロンビア地区連邦地裁に提訴したと発表した。
「一枚の禁止令により、2000万ドル以上の直接的な損失が生じ(間接的な損失を含まず)、企業の対外的なイメージも損なわれる。提訴はやむなきことだった。誰も裁判を望んでおらず、当社は潔白を証明するため仕方なく訴訟措置を講じた」
「米国は何の説明もなく、中国の風力発電プロジェクトを無理やり中止させた。中国製の設備の使用を禁じた上、当社が米国人の経営する米国企業に譲渡するのを禁じ、補償すら行わなかった」
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デラウエア州法人のRalls Corp.は中国の重機械メーカーのSany Group (三一集団)の役員2名が共同所有している。
同社は本年3月に、オレゴン州の4つの風力発電企業(合計発電能力40百万ワット)を買収した。
買収目的は、Sany Group
の子会社の Sany Electric が製造する風力発電タービンで風力発電を行うこととされる。
Ralls
Corp.によると、買収してすぐに、米海軍が、風力発電の場所が軍用機の訓練の邪魔になるとの懸念を表し、設備を除去するよう求めた。
近くの米海軍施設(Naval
Weapons Systems Training Facility)では遠方から自動操縦する無人飛行機と、爆撃機に同行して敵のレーダーを邪魔するelectronic
warfare aircraftの訓練が行われている。
同社は6月末に、自発的に外国投資委員会(CFIUS)にこの取引を報告した。
CFIUS は安全保障を理由にRallの4つの風力発電の建設と操業を止めるよう命じ、すぐに設備を除去することを求めた。
これに対し、Rall側は土地と設備を売りたいと申し出たが、CFTUSは許可なしに売却することを禁じ、その土地でのSany社の製品の使用を禁止した。
Rallは年末までに工事を完成し、25百万ドルの投資税額控除を受ける予定であったが、これが不可能となったため、訴訟に踏み切った。
訴えでは、CFIUSは取引のどこが安全保障の問題になるのかについて証拠を示さず、説明も行っていないとしている。
米国法によれば、CFIUSは外国投資の禁止を大統領に提言できるが、自ら禁止することは出来ない。
今回は、大統領への提言をバイパスし、Sanyの製品の販売の禁止まで命じている。(越権、違法)
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新華社通信は、今回の措置は、米国の政治の偽善と、外国からの投資歓迎のダブルスタンダードを示すものだとしている。
中国紙は、米国市場を狙う中国企業はこれを教訓にし、安全保障を理由に買収に待ったがかかる可能性を考えるべきだとし、CNOOCによるカナダのNexen買収(150億ドル)についても、同じことが起こるかもしれないとしている。
Nexenは米国にもGulf of Mexico に資産を持ち、CFIUSの評価待ちとなっている。
2012/7/31 中国石油大手による買収 続く
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