米国経済の問題点

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米議会予算局(CBO)は10月5日、2012会計年度(2011年10月- 2012年9月)の財政赤字が4年連続で1兆ドルの大台を突破したとの見通しを明らかにした。前年の1兆2970億ドルからは2070億ドル減少した。

財政赤字のGDP比は2009年度10.1%、2010年度9%、2011年度8.7%に対し、約7%に改善した。

歳入が増加し、支出が減少した。

付記 米財務省は10月12日、2012会計年度の財政赤字が1兆893億5300万ドルとなったと発表した。


単位:10億ドル
    2011 2012 増減理由
歳入 個人所得税 1,091 1,129 38 給与所得増
社会保険料 819 850 31 所得増
法人所得税 181 242 61 減価償却ルール変更など
その 211 229 18  
合計 2,302 2,450 148  
歳出 軍事費 678 651 -27 アフガン、イランの費用減
Social Security 720 762 42  
Medicare 483 469 -14 政府負担計画の終了
Medicaid 275 250 -25  
失業保 126 96 -30 最近の対象者減
その予算 1,089 1,030 -59  
国債金利 266 258 -8  
TARP -38 24 62  
合計 3,599 3,540 -59  
赤字 -1,297 -1,090 207  
   * TARP:不良債権買取プログラム

2013年度がどうなるかは、減税失効と歳出の自動削減開始が重なる「財政の崖 (Fiscal Cliff)」問題の行方に左右される。
 

Fiscal Cliff 問題

米国では、年末に大型減税が期限切れを迎え、来年1月からは財政管理法に基づき、歳出の自動削減が開始され 、その影響は最大で6060億ドルに達し、赤字は減少するが、大規模な財政緊縮が起こる可能性がある。

バーナンキFRB議長が2012年2月の議会証言で「大規模な財政の崖」という表現で米景気の先行きに警鐘を鳴らし、注目を集めるようになった。

10月4日の日本経済新聞の景気討論会でも、米国経済については、米国の住宅バブル崩壊に伴う家計のバランスシート調整がほぼ終了した、シェールガス革命による産業界の活性化(三菱ケミカル小林社長)、という明るい点が指摘されたが、半面、米国経済の最大のリスク要因として「財政の崖」の問題が挙げられた。

今年の年末~来年1月にかけて起こる具体的な増税、特別措置の終了、そして歳出削減の内容 は、以下の通り。

増税関連
・ 医療改革に伴う増税 110億ドル
・ 医療保険税(Obama Care)増税 180億ドル

特別措置の終了
・ 失業手当金給付期間延長措置の終了 260億ドル
・ 投資減税延長期間の終了 650億ドル
・ 給与税減税の終了 950億ドル
・ ブッシュ減税(所得税率や配当・キャピタルゲイン税率の軽減)の終了 2,210億ドル

歳出削減
・ 2011年8月の財政管理法に基づく歳出の一律削減 650億ドル (後記)
 

財政管理法に基づく歳出の一律削減

問題の根源は連邦政府の債務上限で、それに対する対策案が民主党と共和党で全く異なることである。

昨年5月に連邦政府債務は当時の上限14.29兆ドルに達し、つなぎの資金繰り対策でしのいでいた。
8月2日までに上限が引き上げられなければ、米国は新たな借り入れができなくなり、米国史上初のデフォルトに陥るおそれがあった。

米与野党指導者は7月31日夜、連邦政府の債務上限を2.1兆ドル引き上げるとともに、その条件として今後10年間で2.5兆ドルの財政赤字を削減することで合意に達した。

11月23日までに1.2~1.5兆ドルの削減案決定(増税、福祉費、軍事費を含める) を採決しない場合、2013年1月から10年間1.2兆ドルの予算カット条項が発動される。この半分は国防・安全保障費で、メディケアも一部カットされる。但し、Social Security とMedicaidは除外。

しかし、米議会の超党派委員会が、11月23日の期限を前に、決裂した。

 民主党:2.3兆ドルの赤字削減、うち富裕層向けに1兆ドルの増税
 共和党:年金、医療保険の大幅縮減

2011/8/3  米国、債務上限引き上げ、デフォルト回避 


付記

米議会予算局(CBO)によると、「財政の崖」が現実になれば5000億ドル超の規模の財政緊縮となり、2013年の実質経済成長率は-0.5%、失業率は9.1%になる。

「財政の崖」と赤字削減に関連する主張の隔たり(2012/11/9 日本経済新聞)

  オバマ氏・民主 共和
政策の基本理念 公平な機会を実現するため
所得再配分機能を強化
徹底した小さな政府に向け
政府プログラム、税、歳出など縮小
ブッシュ減税
(崖の中心)
年収25万ドル以下のみ1年延長 現行の減税を全面的に延長
企業税制 法人税を35%から28%に下げ、
製造業を優遇し雇用拡大
法人税率を35%から25%に。
外国所得への追加課税廃止
歳入措置 富裕層を軸に実質増税し
財政赤字を削減.
表面税率は上げず、
各種控除や優遇措置を見直し歳入を積み上げ
歳出 非国防費と国防費を半々の割合でカット 国防費はGDP比4%を堅持。
年金などへの切り込み深く
医療改革法
(オバマケア)
国民の強制保険加入で皆保険に オバマケアは廃止。
民間保険の活用拡大


ーーー

Thomas Friedman と Michael Mandelbaum の"That used to be us --- How America fell behind in the world it invented and How we can come back" は、共和党の「減税」も民主党の「福祉」も行き過ぎているとし、米国は昔はこんなではなかったと嘆いている。
(右枠に本の紹介)

 

米国民の1%が収入の1/4、財産の40%を保有するという異常な格差があり、大幅な財政赤字があるのに、共和党は減税を主張する。

Reaganは赤字コントロールが目標 とし、必要なら増税も行うとした。
財政赤字がインフレを生み、より高い税率が適用されて実質増税になること、投資が抑制されることを恐れた。

その後、Volkerがインフレ を抑圧し、新世代は「赤字は問題でない」と考えるようになってしまった。

そもそもはニクソンのドルとの交換停止 による赤字増大が問題で、Friedmanの理論では 赤字増大に対し抑制が効くとした。しかし、中国の米国債購入で歯止めがかからなくなった。

福祉も行き過ぎで、Medicareではコストを理由に治療を止めることを法律で禁止しているため、患者の死の直前2か月のためだけ に使われる費用が550億ドル にも達しており、無意味な治療が20~30%もある。

 

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