米国商務省は10月10日、中国製の太陽電池およびモジュールにダンピングおよび補助金の行為が存在するとする最終判決を下した。
米国際貿易委員会(ITC)が11月下旬の会合で米企業の被害を最終的に認定すれば、納税命令を出す。
ITCは2011年12月2日に、中国から輸入されたソラーパネルが米市場で不当に安く販売されており国内業界に損害を与えているとの仮決定を下している。米国メーカーの倒産が相次いでいることから、被害認定はほぼ確かとみられる。
米国ではダンピングの存在は商務省が、被害の存在はITCが認定する。
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米商務省は3月20日、中国のソラーパネルメーカーが中国政府から不当な補助金を受けているとして、相殺関税を課す仮決定を下した。
相殺関税の対象となるのは中国製の結晶シリコン型ソラーパネルで、中国製の太陽電池セル(発電素子)を使ったパネルやモジュールであれば、第三国から輸入する製品にも適用される。
米商務省は5月17日、中国製太陽電池を対象に反ダンピング関税を課す仮決定を下した。
2012/3/24 米商務省、中国製ソラーパネルに相殺関税
米商務省は10月10日、反ダンピング関税と相殺関税を課す最終決定を下した。
今回の決定の内容は以下の通り。
単位:% AD:反ダンピング、CVD:相殺関税
仮決定 最終決定 AD CVD 合計 AD 輸出
補助金調整後
ADCVD 合計 Wuxi Suntech 31.22 2.90 34.12 31.73 -10.54 21.19 14.78 35.97 Trina Solar 31.14 4.73 35.87 18.32 -10.54 7.78 15.97 23.75 他の59社 31.18 3.61 34.79 25.96 -10.54 15.42 15.24 30.66 他の全て 249.96 3.61 253.57 249.96 -10.54 239.42 15.24 254.66
相殺関税が大幅にアップとなっているが、逆に反ダンピング関税から輸出補助金相当分が控除されるため、合計ではあまり変わらない。
合計では中国最大手の尚徳電力(Suntech) が引き上げられ、Trina Solar (天合光能) は引き下げとなった。
EUも本年9月6日、中国製太陽電池に対する反ダンピング調査を発動すると発表した。
中国は2011年に約358億ドルの太陽光発電製品を輸出したが、そのうち6割以上はEU向けで、EUに輸出された製品の価値は210億ユーロに達した。EUの中国太陽光発電企業に対する影響は、米国を大きく上回る。
米国商務部のデータによると、米国は2011年、中国から31億ドル相当の太陽電池およびモジュールを輸入した。
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米国では中国製の安い太陽電池の輸入が急増した結果、太陽電池パネルの価格が急落。米メーカーの経営破綻や工場閉鎖などが相次いでいる。
2009年に環境・エネルギー分野で雇用創出を目指すオバマ大統領の「Green New Deal」政策の一環として535百万ドルの融資保証を受け、2011年5月にはObama大統領も訪問した太陽電池メーカーのSolyndraが2011年9月6日に破産法(Chapter 11)を申請した。
本年6月28日には米太陽光発電パネルメーカーのAbound
Solarが米連邦破産法の適用を来週申請する方針を発表した。
同社も「Green New
Deal」政策の一環として、米エネルギー省から受けた4億ドルの融資保証枠のうち7000万ドルを利用していたが、中国メーカーの低価格攻勢などで事業継続が困難となった。
米商務省は2011年10月にドイツの太陽電池大手SolarWorld の米国子会社など7社から、「中国メーカーは政府支援を受けて生産・販売コストより安くパネルを販売している」として、関連調査と100%超の関税適用をするよう請願を受けた。
SolarWorldは太陽電池パネルの大幅値下がりによりカリフォルニアの工場を閉鎖しており、中国の輸出業者のダンピングで米国のメーカーは根こそぎにされると批判している。
米商務省によると、中国からの太陽電池パネルの輸入は2009年の640百万ドルから2010年に1,500百万ドルに急増した。
他方、中国からの安い輸入パネルで太陽発電を推進している米国のメーカー25社(The Coalition for Affordable Solar Energy)はこれに反対し、太陽電池の価格上昇で米国の需要は減少し、10万人の職が失われるとしている。
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米商務部の決定を受け、中国商務省の瀋丹陽報道官は10月11日に談話を発表した。
「米商務省が中国政府および企業の合理的な反論を無視し、中国製太陽電池製品に税徴収措置をとったことに対し、強く不満の意を示す」
「アメリカは新エネルギー分野で貿易摩擦を引き起こし、全世界に保護貿易主義および新エネルギーの発展を阻止しようとするシグナルを発信した。これは気候変動への全世界対応とエネルギーの安全保障という大きな流れに背くものである。また、G20首脳会合で可決された確約にも違反している」
「中米両国の企業間では、協力や共通利益が日増しに緊密になっている。アメリカが誤ったやり方を是正し、ともに新エネルギーおよびグリーン経済の発展を促していくよう希望する」
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米国の動きに対し、中国も対抗している。
中国商務省は7月20日、米国製の太陽光発電パネル向け多結晶シリコンについて反ダンピング調査、反補助金調査を開始したと発表した。合わせて韓国製の多結晶シリコンについても反ダンピング調査を開始した。
中国が輸入している多結晶シリコンの約4割が米国製で、2割は韓国製とされる。
2012/7/24 中国商務部、米の太陽発電向けポリシリコンに反ダンピング、反補助金調査開始
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中国が米国とEUのダンピング調査で問題にしている点に、米国とEUが中国を非市場経済国待遇をしていることがある。
WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国ですべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能の価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める。」と規定している。
但し、「非市場経済国」の定義はなされておらず、どのような場合に輸出国を「非市場経済国」として認めるかについては各国の裁量にゆだねられている。
「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。
実際には中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。
今回、米国は代替国としてタイを選んだが、EUは米国を代替国に選んだとされる。
EUの場合も、ダンピング認定がされるのは必至とみられている。
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