日本ゼオンは11月6日、スーパーグロース法で得られる高品位なカーボンナノチューブのサンプル提供を実施すべく、産業技術総合研究所(産総研)の量産実証プラントを活用し、カーボンナノチューブのサンプル製造を開始したと発表した。
2013年1月を目処に、サンプル提供を計画している。
カーボンナノチューブは電気、熱伝導性、機械強度に優れており、高性能キャパシタ、高機能ゴム材料、高熱導電材料等の革新的材料、デバイスの可能性が示唆されつつあり、産業への応用が期待されている。
しかし、現状では1グラム当たりの生産コストは数万~数十万円で、実際の製品に使うのは難しかった。
量産実証プラントの装置規模は日産600~800グラムだが、従来品に比べるとコストは各段に安く、「将来的には電子材料向けに、1キロ当たり数万円、グラム数百円で提供できるようになるのでは」としている。
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産総研は2004年に単層カーボンナノチューブ(CNT)生産技術のスーパーグロース法を開発した。
単層CNTの合成手法の一種の化学気相成長法では、触媒下でメタンやアセチレンなどのガスを500~1200℃の比較的低温で反応させて、CNTを得る。
スーパーグロース法は、水分を極微量添加することにより、通常は数秒の触媒寿命が数十分にもなり、極微量の触媒から、大量の単層CNTを合成することができる。
CNTの量産は、気相流動、もしくは担持触媒を用いたロータリーキルンなどで行うというのが業界の常識であったが、量産を行うため、基板の上で大量に単層CNTを成長させるという方法を考案した。
当初、量産のパートナーを求め、何社にも話を持ちかけたが、各社ともこれまでの製造法を捨ててスーパーグロース法に鞍替えすることに躊躇した。
その中でまったく CNTの経験がないものの、情熱と事業化への真剣さが感じられた日本ゼオンをパートナーに選定した。
産総研は2007年2月、日本ゼオンと共同で、スーパーグロース法を用いて、初めて大面積金属板上に直接大量の単層CNTを合成する技術を開発、2009年度の経済産業省の補正事業により、大量生産設備(実証プラント)を建設した。
従来の実験室レベルの合成装置はバッチ式のため、生産量は一日あたり1グラム程度にとどまっていたが、実証プラントの核となる全長12メートルの大面積対応型連続CVD(化学気相成長)合成炉では、幅の広い金属基板を用いて連続合成を行うことができる。
金属薄基板上に触媒層をコーティングし、これを連続CVD合成炉に送り込むことで、単層カーボンナノチューブを連続的に成長させる。
種々の合成条件を最適化することで、50cm×50cmの金属基板全面に、スーパーグロースCNTフォレストを均一かつ緻密に成長させることができた。
成長したカーボンナノチューブは、剥離装置により自動で根元から切断することで基板から分離・回収する。スーパーグロース法で合成される単層カーボンナノチューブは他の方法による試料と比べ、はるかに高純度なため、特に精製する必要がなく、そのまま多くのアプリケーションに提供することができる。
2011年2月には、1日あたり600gの生産能力を実現した。
2011/2/18 産総研、単層カーボンナノチューブの大量生産技術を確立
今回、日本ゼオンは、産総研の量産実証プラントを活用し、スーパーグロース法で得られる高品位なカーボンナノチューブのサンプル製造を実施する。
スーパーグロース法で得られるカーボンナノチューブは、他のカーボンナノチューブと比較して、高いアスペクト比、高純度、高比表面積といった特長を有するため、従来にない機能や特徴を持つ新機能性材料、次世代デバイス等への応用が期待される材料であり、今後需要が急拡大すると予想される。
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日本ゼオンは産総研との共同開発でCNTの用途開発も進めている。
2010年5月に産総研と日本ゼオン、東レ、日本電気、帝人、住友精密工業は技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構を設立、単層カーボンナノチューブとグラフェンの実用化に向けて研究開発を進めているが、理事長には日本ゼオンの古河直純社長が就任している。
なお、単層CNT融合新材料研究開発機構にはCNT事業部のほかにグラフェン事業部もあり、炭素原子のシートであるグラフェンの開発を行っている。
これには、東レ、大日本印刷、カネカ、尾池工業が参加している。
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