中国の大増産により、米国やEUの企業で倒産が相次いでいる。
中国企業も経営難に落ち込んでおり、中央・地方政府による救済が行われている。
中国の太陽光パネルを巡る貿易戦争が激化してきた。
1-1 米国(対中国)
米国商務省は10月10日、中国製の太陽電池およびモジュールにダンピングおよび補助金の行為が存在するとする最終判決を下した。
米国際貿易委員会(ITC) は11月7日、上記による被害を最終認定した。(米国ではダンピングの存在は商務省が、被害の存在はITCが認定する。)
この最終決定により、商務省は10月10日に発表した関税率に基づき、対象製品に反ダンピング関税と相殺関税の5年間の適用命令を出すことができる。
単位:% AD:反ダンピング、CVD:相殺関税
最終決定 AD 輸出
補助金調整後
ADCVD 合計 Wuxi Suntech 31.73 -10.54 21.19 14.78 35.97 Trina Solar 18.32 -10.54 7.78 15.97 23.75 他の59社 25.96 -10.54 15.42 15.24 30.66 他の全て 249.96 -10.54 239.42 15.24 254.66
2012/10/13 米国商務省、中国製太陽電池のダンピングを最終認定
米国商務部のデータによると、米国は2011年、中国から31億ドル相当の太陽電池およびモジュールを輸入した。
中国からの安い輸入パネルで太陽発電を推進している米国のメーカー25社(The Coalition for Affordable Solar Energy)は反ダンピング課税・相殺関税に反対し、太陽電池の価格上昇で米国の需要は減少し、10万人の職が失われるとしている。
このほか、2011年9月に倒産した米国の太陽電池メーカーのSolyndra
が、中国太陽電池企業の尚徳電力(Suntech Power)、天合光能(Trina Solar)、英利緑色能源(Yingli
Green Energy)の3社を相手取り、独禁法違反を理由に15億ドルの賠償を求め、 San Franciscoの連邦裁判所に訴えた。
2012/10/19 倒産した米太陽電池メーカーSolyndra、中国の太陽電池企業を独禁法違反で訴え
1-2 中国(対米国)
中国商務省は7月20日、米国製の太陽光発電パネル向け多結晶シリコンについて反ダンピング調査、反補助金調査を開始したと発表した。合わせて韓国製の多結晶シリコンについても反ダンピング調査を開始した。
中国が輸入している多結晶シリコンの約4割が米国製で、2割は韓国製とされる。
中国メディアは安価な製品の流入で多結晶シリコンを生産する中国企業は生産停止や倒産に追い込まれ、多数の失業者が出たと報じている。
米紙は「中国のジレンマ」と報じている。
実際に反ダンピング課税が行われると、中国のソラーパネルメーカーのコストが上がる。更に米国(と恐らくEU)からのソラーパネルに対する反ダンピング、反補助金課税も受ける可能性があり、下流と上流からダブルでコストアップとなる。
2012/7/24 中国商務部、米の太陽発電向けポリシリコンに反ダンピング、反補助金調査開始
ーーー
2-1 EU(対中国)
EUは9月6日、中国製の太陽光パネルと主要部品(solar
cells、solar wafers)の反ダンピング調査開始を発表した。
続いて11月8日には反補助金調査を開始した。
中国は2011年に約358億ドルの太陽光発電製品を輸出したが、そのうちEUに輸出された製品の価値は210億ユーロ(270億ドル)に達した。EUの中国太陽光発電企業に対する影響は、米国を大きく上回る。
米国商務部のデータによると、米国は2011年、中国から相当の太陽電池およびモジュールを輸入した。
2-2 中国(対EU)
中国商務部は11月1日、欧州から輸入される多結晶シリコンに対するダンピング・補助金調査を開始することを発表した。
中国商務部は11月5日、EU加盟国のイタリアとギリシャの"feed-in tariffs" (固定価格買い取り制度)で現地の部品を中心に使っている電力会社を価格面で優遇しているのは協定違反だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。
ギリシャでは太陽光発電による電気をドイツに送るという壮大な太陽光計画(Helios)を打ち出している。しかし長距離送電には問題があることなどから、今のところうまくいっていない。
EU内部でも加盟各国の再生可能エネルギー計画には国際的なルール上で問題となるものがあるとして、内々に警告していた。
これと同様の問題がカナダのオンタリオ州の制度にあり、EUと日本が2011年7月にWTOパネル設置要請を行い、パネルが設置されている。
カナダ・オンタリオ州の再生可能エネルギー発電(太陽光・風力発電)分野の支援制度 "feed-in tariffs" プログラムにおいて、同支援制度を受ける条件として発電事業者に一定比率の同州産品の使用を課されている(ローカルコンテント)ことについて、WTO協定との整合性が問題にされた。
これについては、WTOパネル(委員会)の予備判定がメディアにリークされた。
報道によれば、WTOパネルはオンタリオ州のグリーンエネルギー由来の電力の「固定価格買い取り制度」のローカルコンテント要求がWTO協定と整合しないとする日本・欧州の主張を正しいと結論付けた。判定は後日公式発表され、3か月後にはWTOの上告機関の最終決定を申請することになる。
ーーー
中国が米国とEUのダンピング調査で問題にしている点に、米国とEUが中国を非市場経済国待遇をしていることがある。
WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国ですべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能の価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める。」と規定している。
但し、「非市場経済国」の定義はなされておらず、どのような場合に輸出国を「非市場経済国」として認めるかについては各国の裁量にゆだねられている。
「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。
実際には中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。
今回、米国は代替国としてタイを選んだが、EUは米国を代替国に選んだとされる。
EUの場合も、ダンピング認定がされるのは必至とみられている。
コメントする