インド政府は11月8日、日本政府との間で合意していた対日レアアース輸出について正式に承認した。
野田首相とシン首相が11月16日に東京都内で首脳会談し、正式合意する予定であったが、「16日衆院解散」発表を受け、両政府がシン首相の公式訪日の延期を決めた。
日本、インド両政府は16日、経済産業省内でレアアースの共同生産と日本向け輸入を始める覚書に署名した。
2013年度から最大4,100トンのレアアースを輸入する。
インドのIndian Rare Earths と豊田通商の間で協力し、合弁会社(下記)によってレアアースの共同生産・輸出を行う。
2010年10月25日、日・印首脳会談が開催され、レアアースとレアメタルの開発や再利用に向け、日・印両国が協力することで一致し、共同声明が出された。
「両首脳は、将来の産業にとってのレアアース及びレアメタルの重要性を認識し、レアアース及びレアメタルの開発、リサイクル及び再利用や代替品の研究及び開発における両国間の協力を追求することを決定した。」
日印両国は2012年4月にニューデリーで開かれた初の閣僚級経済対話で、8月にも輸出を始める方向で大筋合意したが、価格などの調整が難航し、インド政府側の承認が遅れていた。
これまでの両国間の交渉では、インドからの供給量は年間5,000トン前後とされ、日本の年間需要量の15~20%程度に相当する。
ランタン、セリウム、ネオジムの3種類のレアアースで、自動車のモーターや排ガス削減のために使用される重希土類。
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米地質調査所によるとインドのレアアースの埋蔵量は世界全体の3%にあたる310万トン。
生産を独占する国営Indian Rare Earths (IRE)は東部オリッサ州の主力鉱山が環境規制で採掘を停止したことに伴い、2004年以降は輸出を見送っている。
インドは外国企業にレアアースの採掘権を認めていない。
豊田通商は2010年12月、インド子会社のToyotsu Rare Earths Orissa (TREO)が、インド国営のIndian Rare Earths (IRE) と信越化学の協力のもとに、インド・オリッサ州でレアアース酸化物の製造工場を建設する計画を推進していることを明らかにした。
IREはインド原子力庁傘下企業で、原子力発電推進のため、海岸の漂砂鉱床より採掘・選鉱されたモナザイト鉱石から燃料(ウラン・トリ ウム)を抽出しているが、その抽出後に副産物として混合塩化希土も産出しており、今回のレアアース製造工場は、その混合塩化希土を原材料としてレアアースの酸化物を製造するもの。
信越化学は工場への技術支援および製品の引き取りを決定している。
また、信越化学、IRE、JOGMECは、TREOへの投資を検討している。
2010/12/14 豊田通商、インドでレアアース製造工場建設、住商は米マウンテン・パス鉱山に出資
外電によれば、この工場は2012年夏に完成し、12月から生産を開始する。
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日本のレアアースの年間輸入量は2~3万トンで、中国からの輸入が大きい。
2010年通年ベースで総輸入量 28,564トンのうち中国が 23,422トン、82%を占めていた。
しかし、2010年の尖閣諸島を巡る日中対立で中国当局がレアアースの対日輸出を止めたことから、日本企業の「脱レアアース」技術の開発が進んだことにより、需要が急減した。
2012年の1~6月のレアアースの輸入実績を2倍すると、2012年通年輸入状況(見込み)は12,204トン、うち中国が5,980トンとなり、中国の比率は49%にまで下がることとなる。
中国のレアアース輸出量は激減しており、2011年の実際の輸出量は輸出枠30,258トンの61%の18,600トンに止まっている。
2012年1-6月のレアアース輸出総量は、輸出枠21,226トンに対し、2011年同期比42.7%減の4,908トンとなった。
(中国側は密輸の影響が大きいとしている。)
枝野幸男経済産業相は11月12日の衆院予算委員会で「来年半ば以降、レアアースの国内需要量の5割程度を中国以外から確保できる」との見通しを示していた。
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カザフスタン北部アクモラ州 Stepnogorskで11月2日、住友商事が出資した合弁企業 Summit Atom Rare Earth Companyによるレアアースの分離精製プラントの開所式が行われた。
JVにはカザフスタン国営原子力公社Kazatompromが51%、住友商事49%出資する。
30百万ドルを投じたプラントで、年産1,500トンのレアアース酸化物を生産する。
ウラン残土からレアアースを回収するもので、ジスプロシウムなど、特に希少性が高い重レアアースを中心に生産する。
試験稼働を経て来年1月にも対日輸出が始まる。
2012/11/5 住商のレアアース合弁、カザフに精製工場完成
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豪州のレアアース開発会社のLynas Corp.と双日は2010年11月に、レアアースの日本向け供給、およびLynas のレアアース拡張プロジェクトに関して、戦略的提携を締結することに基本合意し、2011年3月に双日と石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、Lynasへ総額250百万米ドルを出融資することを決定し、10 年に亘って日本の消費量の約3 割にあたる年間約8,500 トン(±500 トン)以上のレアアース製品を長期供給する契約を締結している。
2010/11/25 双日、レアアースの供給・拡張プロジェクトで豪州Lynasと戦略的提携の基本合意
Lynasは西オーストラリア州のMt.Weld
鉱床でレアアースを採掘するが、マレーシア東海岸のPahang 州 Kuantan
のGebeng Industrial Area にプラントを建設することとした。
(当初、中国山東省にレアアース分離プラントの建設を計画したが、中国政府による締め付けが強くなったことから、中国を断念した)
しかし、マレーシアでは反対運動が起こった。
マレーシアでは1979年に当時の三菱化成が35%出資でAsian Rare Earth (ARE)を設立し、1982年にイットリウムなどレア・アースをスズの鉱石と一緒に出るモナザイト鉱などから抽出する事業を開始した。
能力は年産 4200 トンの軽希土類、550トンの重希土類、4400トンのリン酸三カルシウムで、希土類は全て日本に輸出され、日本で分離精製されが、工場はトリウムを含む残土の保管施設を持たず、工場の裏にあった池や地面に野積み状態にしていた。
工場の目の前には人口1万人が住むBukit Merah 村があった。住民たちの間に健康被害が現れ、住民はAREの操業停止を求めて抗議活動を展開した。
三菱化学は1994年1月、マレーシアからの撤退を決め、問題の工場も閉鎖されたが、廃棄物処理施設の設置工事の契約締結は2009年8月になってからである。
2009/11/14 三菱化学、マレーシアの撤退工場に廃棄物処理施設を設置
今回の抗議はこれが繰り返されるのを恐れた住民とグリーングループが行ったが、これに政治も絡んだ。
2011/7/7 豪州レアアース開発会社Lynas Corp. と三菱
Lynasは本年9月にようやく、工場の認可を得たが、住民は裁判に訴えた。
11月8日、マレーシアの裁判所は工場の操業を認めた。
双日は年間約8,500 トン(±500 トン)以上のレアアース製品を長期供給する契約を締結している。
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