EUのユー口圏17カ国とIMFは11月26日夕から27日未明にかけて財務相会合を開き、凍結していたギリシャヘの支援融資の再開で合意した。
ギリシャ国会が
、EUなどが求める公務員給与や年金のカットなど計94億ユーロの歳出削減策を盛り込んだ2013年緊縮予算案を可決し、支援受け入れの条件をクリアしたことを受けた。
ギリシャの公的債務については、2020年までGDP比120%に圧縮する目標だった。
しかし、経済状況の深刻化で目標は大きく外れ、現状では財政緊縮策などを進めても、2014年に190%、2020年になっても144%までしか減らせない見込みだった。
今回、当初目標を修正し、2020年までにGDP比124%に圧縮することとした。
凍結中の次回分315億ユーロだけでなく、年内に予定されていた残る2回分も含め、計437億ユーロを実施する方針で、12月13日までに正式決定する。
付記
ユーロ圏財務相会合は12月13日、来年3月末までに491億ユーロの対ギリシャ融資を行うことで合意した。向こう数日中に343億ユーロが支払われ、残りも2013年第1四半期に支払われるという。
「ギリシャの債務の対GDP比率を大幅に引き下げる国債買い戻しの結果を歓迎する」とし、「この国債買い戻しが、11月27日に合意された構想、および調整プログラムの完全な実施と共に、ギリシャの債務の対GDP比率を2020年に124%に引き下げることに貢献することを再確認した」としている。
支援計画の骨子は次の通り。
・凍結していた融資再開を決定
・中期の財政再建目標
(財政赤字をGDP比3%以下にする)の達成期限を、2014年から16年に延期
・2020年時点の債務残高の対GDP比目標を当初の120%から124%に修正
・新たに2022年に110%以下にする目標を設定
・過去に実施したユーロ圏諸国からのギリシャ向け融資の金利を1%ポイント軽減(支援を受けている国からの融資は除く)
・過去に実施した各国及びEFSFからの融資の返済期限を15年間延期、EFSFローンの金利支払いの10年間延期
・ECBはギリシャ債からの利益110億ユーロを放棄
・ギリシャ国債を発行価格より安い価格で市場から買い戻し、債務残高を圧縮
目標見直しでは、IMFが目標の現状維持とユーロ圏諸国によるギリシャ債権の一部放棄を求めたのに対し、ドイツなどユーロ圏はこれを拒否した上、目標達成時期の2022年への先送りを主張、対立が鮮明化していたが、双方が歩み寄った。
今回の計画そのものの実現性がはっきりしない。
財政赤字をGDP比3%以下にする財政再建目標の達成期限を2014年から16年に延期すると、330億ユーロが追加で必要となる。
更に、債務残高比率縮減にも資金が必要。ギリシャ国債を発行価格より安い価格で市場から買い戻す (報道では300億ユーロの国債を100億ユーロで買い戻す案)というが、投資家が応じるかどうか不明である。
付記
ギリシャ政府は12月3日、最大100億ユーロを投じて民間投資家から国債を買い戻すと発表した。
対象となる20のギリシャ国債の買い戻し価格は償還期間によって異なり、最低で元本の30.2-38.1%、最高で32.2-40.1%と、市場の予想を上回った。付記
ギリシャ公債管理機構は12月12日、応募額が額面で319億ユーロ、買い取り額113億ユーロと発表。差額の206億ユーロ相当の債務が削減される。
2012年の経済成長見通しは前年比マイナス6.5%で、GDPが減少すると、GDP比の赤字の率は減らない。
今回、融資再開が決まったが、再開の条件となる緊縮策に対しては、年金受給開始年齢の引き上げや公務員削減への反発からギリシャ国内で数万人規模のストライキが発生しており、ギリシャ政府は連立政権の合意で「レイオフはしない」と表明している。
ユーロ圏にとどまったまま(通貨切り下げが出来ない状況で)ギリシャ経済が大きく改善する可能性はないため、緊縮策と支援だけがGDP比債務削減の手段となる。
しかし、先の見込みのないままの緊縮策には国民が同意する筈はなく、今回の新計画が実行される保証はない。
支援国側にも、際限のないギリシャ支援への支持はない。
今回も、オランダなど一部の国は「新規の資金投入は認めない」との立場を崩さず、公的債務の減免は見送られた。
最終的にはギリシャがユーロから離脱するしか、方法はないのではないか。
付記格付け大手S&Pは12月5日、ギリシャの長期債務格付けについて、投機的水準のCCCから部分的なデフォルト(債務不履行)を意味するSDに再び引き下げたと発表した。
民間銀行などから額面の3分の1程度で国債を買い戻す計画について、「投資家は当初の約束を下回る価値を受け取る」と指摘、「デフォルト同然」と判断した。
買い戻しが実施されれば、格付けをCCCに戻す公算が大きいという。
これまでの経緯は以下の通り。
2009/10 |
総選拳で全ギリシャ社会主義運動が新民主主義党を破り、パパンドレウ政権発足。 前政権の財政赤字粉飾が発覚、危機表面化 |
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2010/5 | EUとIMFによるギリシャに対する支援策(2010~2012年で1,100億ユーロの協調融資) | ||||
欧州金融安定化メカニズム(European
Stabilization Mechanism)創設 2010/5/10 統一通貨ユーロの危機 |
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2010/11 | アイルランド支援(850億ユーロ) | ||||
2011/5 | ポルトガル支援(780億ユーロ) | ||||
2011/6 | EFSF拡充決定(2011/10 最後のスロバキアが一旦反対した後、賛成し、成立) | ||||
2011/7 | ギリシャ向け第二次金融支援 公的支援 1090億ユーロ、 民間金融機関による支援 370億ユーロ(21%の損失負担) |
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2011/10 | 欧州債務危機克服に向けた「包括戦略」で合意。 ギリシャ問題については
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2011/11 |
ギリシャ首相は、国民の反対を受け、一度は国民投票実施の意向。 EUとの協議の後、首相は11月3日、緊急閣議を開き、国民投票を撤回
G20首脳会議は11月4日、首脳宣言を採択。
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その後 | EU・IMFの試算では、当初予定していた第2次支援を実施しても、2020年時点でギリシャの政府債務の対GDP比率は129%までしか低下せず、目標の120%を実現するための追加策が残された大きな論点となった。 ギリシャ政府の追加緊縮策が整わないことなどを理由に正式決定が先延ばしされてきた。 EUは第二次支援を1300億ユーロとするとともに、民間銀行のギリシャ国債元本削減幅を従来の50%から更に拡大することとし、ギリシャにそのための条件を科した。 |
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2012/2 | ギリシャ、3条件をようやく達成 1)「財政緊縮関連法案の議会承認」 2012年で33億ユーロ分の 賃金、年金、公務員削減による節減策を議決
2)「財政緊縮策実行の誓約書」 3)「歳出削減策の具体化」(これが難航した。) |
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2012/2 |
ユーロ圏17カ国、ギリシャへの総額1300億ユーロの第2次支援を決定
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2012/3 | ギリシャ、債務削減に成功 | ||||
2012/5 | 総選挙で財政緊縮派の全ギリシャと新民主の連立2与党が過半数割れ | ||||
2012/6 | EUとIMFが支援凍結 | ||||
2012/6 | ギリシャ、連立政権発足 | ||||
2012/11 |
国会が13年緊縮予算案を可決。支援受け入れの条件クリア ユーロ圏財務相会合がギリシャ財政再建の目標期限を16年まで2年延長することを基本承認 |
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2012/11 | 凍結していたギリシャヘの融資実施でEUとIMF合意 |
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