東ソーは11月1日、南陽事業所 第三塩化ビニルモノマー(VCM)製造設備の生産能力増強(年間20万トン増)を決定したと発表した。
南陽事業所では2011年11月13日、第二VCMプラント(年産能力55万トン)で爆発・火災が発生、社員1人が死亡した。
2011/11/17 東ソー・南陽事業所の第二VCMプラントで爆発事故
2011/4/11 東ソー、南陽事業所爆発事故の調査報告書を発表
この事故で事業所内の塩ビモノマー設備 1-3号機すべてが停止した。
このうち、第一プラント(年産能力:25万トン)は2012年5月8日から、第三プラント(年産能力:40万トン)は7月8日から稼働を再開した。
事故が起きた第二プラント(年産能力:55万トン)は、撤去して新設となれば運転再開に1年以上かかるとされた。
東ソーの宇田川社長は7月に、「再建するが、生産能力は元に戻さず、年20~30万トンにする」と述べた。(日本経済新聞)
同社では、VCM生産能力の復旧について複数の選択肢を検討してきたが、投資採算性や工期などを勘案し、今回、第三VCM製造設備の増強を決定したもの。
投資額は約50億円で、完工予定は2014年10月。
同社のVCM能力は以下の通り。(千トン)
事故前 | 事故後 | 増設後 | ||
南陽事業所 | 第一VCM | 250 | 250 | 250 |
第二VCM | 550 | - | - | |
第三VCM | 400 | 400 | 600 | |
小計 | 1,200 | 650 | 850 | |
四日市事業所 | 250 | 250 | 250 | |
合計 | 1,450 | 900 | 1,100 |
VCM増産分は、グループ会社の国内外のPVC製造販売会社(下記)への安定供給を図ると共に、アジア市場へも外販する。
また、VCM増産により、事故後生産余力が生じている電解製造設備の稼働率が上昇し、生産増となる苛性ソーダは拡販を図る。
ーーー
同社グループの国内PVC能力は下記の通り。
大洋塩ビ |
千葉 |
90 |
: |
四日市 |
310 |
: |
|
大阪 |
158 |
||
合計 |
(558) |
||
東ソー |
南陽 |
28 |
ペースト |
徳山積水工業 |
徳山 |
117 |
積水化学 70% 東ソー 30% |
合計 | 703 |
海外のPVC子会社は次の通りで、原則として日本からVCMを供給。
社名 | 株主 | PVC能力 (千トン) |
||
フィリッピン | Philippine Resins Industries | 東ソー 80% 三菱商事 20% |
100 | |
インドネシア | StandardToyo Polymer | 東ソー 60% 三井物産 40% |
86 | |
中国 | 東曹(広州)化工 | 東ソー67% 三菱商事、 三井物産、丸紅 |
220 | |
常州新東化工 | 常州新東化工 東ソー 14.9% 丸紅 14.9% |
100 | 東ソー VCM 年間50千トンの供給権 |
南陽の事故後、東ソーはVCM輸出を大幅にカットした。
他社も含めた日本全体のVCMの輸出数量の推移は下記の通り。
ーーー
東ソーはこの計画を収益力向上に役立つとしているが、どうであろうか。
この計画は、増分で見ると、全原料を輸入し、全製品を輸出するものである。(苛性ソーダは主に豪州のアルミ用)
まるで輸送業者を儲けさせるための計画のように見える。
付加価値の少ない汎用品の輸出用に50億円も投資するのが妥当だろうか。
東ソー南陽の場合は電力は石炭火力による自家発電で、大規模で、かつ石炭灰のセメント工場への有効利用を図るなど、コストは安いとみられている。
VCM増設を行わない場合は、これを売電に回すと、他社が燃料を輸入して発電する分が減る。
米国の場合、原料の塩は工場周辺の地下の膨大な岩塩層から低コストで入手でき、電力やエチレンは現在でも日本と比べて低価格なのが、今後はシェールガス利用で更に大幅に安くなると見られている。
米国からVCMと苛性ソーダを大量に輸出されると、大変なことになる。
付記
中国の苛性ソーダの今年の輸出量は150万トン程度と日本の4倍に達するとみられ、今後も増加していく勢い。
コメントする