既報の通り、米エネルギー省は12月5日、LNGに関する2つの報告書を発表した。
1つは同省によるAnnual Energy Outlook 2013 の速報版(2040年までのエネルギーの予測)で、もう1つは、NERA Economic Consultingに委託したLNG輸出の影響に関する調査結果報告書である。
後者のNERA レポートでは、LNG輸出の米国経済への影響を、輸出の量、グローバルな市場状況、天然ガスコスト等々、いろいろな前提で検討したが、全てのシナリオで、LNG輸出は輸出をしない場合と比べ、ネットで経済的メリットがあるとしている。
2012/12/7 米エネルギー省、LNG輸出に向けての報告書を発表
これに対し、Dow
Chemical はその翌日にAndrew
N. Liveris CEOによる以下の反論を発表した。
LNGの輸出に関するレポートは、欠陥だらけの、ミスリーディングなもので、古くて不正確で不十分なデータに基づいている。
報告は、米国の経済に対する製造業の重要性を見ていない。
製造業は米国で最大の天然ガスのユーザーであり、天然ガスを使って、他のどのセクターよりも多くの雇用を生み、より多くの価値を生み出している。
製造業で使われたエネルギーの価値は、バリューチェーンを通じて多くの高付加価値の製品をつくることにより、20倍にも拡大される。これに対して、LNGとしてエネルギーを輸出すれば、その価値分しか得られない。
更に、工場で雇用が増えれば、経済全体では5~8倍の雇用がつくられることになる。
報告は更に、豊富な国内の天然ガスのとてつもない競争優位を見ていない。
報告は、製造業を通じて米国経済を強化し、安いエネルギーコストで消費者に利益を与える代わりに、米国の天然ガスの有利性を他国の成長と雇用のために使うことで米国がよくなるという不可解な結論を出している。米国産業界は豊富な天然ガスを使い、900億ドルを投資し、数百万の新しい雇用を作り出す100件以上の投資計画を発表しているが、報告ではなんら触れられていない。
Liveris CEOは3月8日、エネルギー関連の調査機関が主催する年次会合CERAweek でスピーチし、シェールガスからのLNGの輸出を制限するよう求めている。
Dowはこれまで安いエネルギーを求めてサウジなど海外で石化事業を拡大してきた。
しかし、米国の豊富で安いシェールガスの出現で、Dowは再び米国での投資を始めた。
10年ぶりに新しいエタンクラッカーを建設するとともに、米国の施設をリフレッシュする。安い原料による圧倒的な競争力の維持は、米国経済にとって絶好の機会となる。
しかし、アメリカのこの安く豊富なガスの産業での有利性は、首尾一貫した国のエネルギー政策をつくらなければ消えてしまう。これを失ってはならない。
天然ガスを輸出する代わりに、液体形態ではなく、これを加工した固体形態で輸出するべきだ。
天然ガスからプラスチック、肥料、その他化学製品に加工して輸出すれば、LNGで輸出するよりも8倍もの価値を生む。
米国では、天然ガスは戦略商品であり、輸出に対する反対論がある。
Dowの主張は説得力があり、今後も主張を続けると思われ、政府の決定に影響を与える可能性がある。
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Dowは2011年4月に、安価なシェールガスを利用するエチレンとプロピレンの能力増強を発表した。
2011/4/26 ダウ、エチレンとプロピレンの拡張計画を発表
このうち、プロピレンについては、2012年3月にテキサス州Freeportにプロパン脱水素により新しいプラントを建設することを発表した。
2012/3/12 Dow、ワールドスケールのプロピレン建設を決定
エチレンについては、メキシコ湾岸に新しいワールドスケールのエチレン設備の建設することを明らかにしていたが、同社はこのたび、テキサス州Freeport
に同社としては世界最大の年産150万トンのプラント建設を決定し、政府の認可を申請した。
投資額は17億ドルで、2014年に建設を開始し、2017年1月に操業開始の予定。
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Dow以外にも多くの企業がシェールガスの利用に動いている。
2011/6/14 Shell、アパラチア地方でエチレンクラッカー建設へ
2011/12/20 LyondellBasellの成長戦略
2011/12/29 Chevron Phillips Chemical、シェールガス利用で大規模石化計画
ExxonMobilもテキサス州Baytown に年産150万トンのエチレン工場を建設することを決め、認可手続きに入っている。
Dowを初めとして各社は、LNGの輸出により、原料の天然ガス価格が高騰することを懸念、輸出に反対している。
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