日銀総裁の変心?

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12月26日付の毎日新聞のコラム(水説)に「日銀総裁の変心」 が出ている。

これまで金融緩和のためのインフレターゲット(物価目標)に反対していた日銀白川総裁が、1月の金融政策決定会合で導入に踏み切る考えを表明した。記者会見で、政策変更は次の首相になる安倍さんの強い要請に応えるためだ、と説明した。

総裁の変心(乱心という人もいる)に対し、筆者の潮田道夫・専門編集委員は以下のように述べている。

「変心の理由は明白で、ここで白川さんが突っぱれば、安倍さんは日銀法改正に動く。面目にかけてもそうせざるをえない。政府提案でなく議員提案になるかもしれないが、これは成立する。素案通りなら先進国とは思えない異常な中央銀行法になる。

白川さんはそれを回避するために、安倍提言を受け入れた。法改正が行われれば、国民の共有財産である中央銀行の価値を損なう。恒久的な損失につながる。政策変更は白川さんのメンツを傷つけるに過ぎない。副作用も制御不能というわけではないだろう。

日銀法改正を唱えてきた政治家たちは作戦成功と喜んでいる。あきれて声も出ない。日銀は日本国を形成するさまざまな集団の中で、いまだに信用を保持している希少な存在だ。政治家のなすべきことは政治不信の解消であって、日銀不信を作り出すことではないはずだ。」

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自民党は2012年4月の財務金融部会で、日銀法の一部改正案を取りまとめた。(2012/12/4 毎日新聞

 ・金融政策の目的に「雇用の安定」を追加
          「物価の安定を通じ、雇用の安定を含む国民経済の健全な発展に資すること」
 ・物価目標を定める協定を政府と結ぶ
 ・日銀は物価目標の達成状況を定期的に説明
 ・目標未達成の時は、達成できなかった理由、達成に向けた方針、政府の経済政策との整合性、
    達成に必要な時間−−を説明
  ・目標と現実の数値が著しく異なる場合、内閣は両院の同意を得て総裁、副総裁、審議委員を解任できる
  ・日銀は必要に応じ、自ら外国為替の売買を行うことができる
           現在は、政府の指示に従うだけ

   みんなの党も2012年04月10日、日銀法改正案を提出した。

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白川総裁は2012年11月12日に「物価安定のもとでの持続的成長に向けて」という講演を行い、日銀の考え方を分かり易く説明している。
これは辛口の評論家も激賞しているものである。

  1.はじめに
  2.海外経済の動向
  3.日本経済の動向
  4.日本銀行による金融政策運営
  5.デフレ脱却を巡る論点
   デフレ脱却と物価上昇率の関係
   インフレ予想の実像
   需給ギャップの意味
   成長力強化の重要性
  6.日本銀行の金融政策を巡る論点
   金融緩和は不足か十分か
   資産買入れを「無制限」に行うと宣言すべきか
   マネーの増加は問題を解決するか
   外債を買うべきか
  7.おわりに

「切迫感を持ちつつも悲観論には陥らず、日本全体の力を結集して、成長力の強化に真剣に取り組んでいくことが重要です。日本銀行としても、引き続き、デフレから早期に脱却し物価安定のもとでの持続的な経済成長の実現に向けて、中央銀行として最大限の努力を続けていきたいと考えています。」

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  この中で、特に「需給ギャップの意味」が示唆に富む。

需給ギャップは、一般に「需要不足額」として認識されているため、これを埋めるだけの需要を政策的に付ければ、ギャップが直ちに解消してデフレから脱却できるはずだ、という議論がなされることがあります。

注意しなければならないのは、需給ギャップというのは、あくまで現存する供給構造を前提に、それらに対応する需要不足を捉えたものに過ぎない、という点です。

日本でも、高齢化や女性の社会進出、価値観の多様化などによって、新しいタイプの需要が潜在的にはどんどん生まれていると考えられます。例えば、医療・福祉産業では、高齢化により潜在需要が急拡大しているにもかかわらず、各種の規制や現場の人手不足などから、需要に見合うサービスが提供できていないとの声が多く聞かれています。また最近注目が集まっている高齢者の消費についても、所得、健康状態、嗜好の違いなどから若年層の消費よりも個別性が強く、供給者サイドの工夫如何でさらに拡大する余地があることが指摘されています。

いずれにせよ、こうした未充足の需要、すなわち成長分野における「供給不足」は、需給ギャップにカウントされていません。
本来「需給のミスマッチ」と認識すべき部分まで、「需要不足」という形で示されているということです。

持続的に需給ギャップを改善していくためには、潜在需要を顕在化させるように、経済の変化に合わせて供給構造を作り変えていくことが必要です。



12月29日の日本経済新聞は白川総裁のインタビューを掲載した。

白川総裁は物価目標について「金融政策の柔軟性が確保できれば『めど』か『目標』かという議論に意味はない」と述べ、安倍首相が求める物価目標の導入に前向きに応じる姿勢を示した。

インタビューでは総裁は上記の講演で述べたのと同じ趣旨で説明しており、「変心」は見られない。 

4つの論点

 ・「物価安定」や「デフレ脱却」の意味を正確に共有する必要
   単なる物価上昇ではなく、景気が良くなり、それから物価が上がるということが必要。
   賃金が上昇し、雇用が確保され、企業の収益も増えていく状況が望まれる。   

 ・物価上昇を達成するには、成長力の強化と金融面からの後押しの両方が必要 
   上場企業の43%が実質無借金で、手元現預金だけをみても47兆円ある。
   魅力的な投資機会がなければ、お金は有効に使われない。成長力強化の取り組みが不可欠。

 ・金融政策の柔軟性と金融システムの安定の確保

 ・政府の果たす役割
   マクロ経済政策、規制緩和をはじめとする成長力の強化、財政規律


日銀の独立性について
 ・中央銀行は、政府の財政赤字を穴埋めするために国債を引き受ける財政ファイナンスを行ってはいけない。

 ・ゼロ金利環境のもとでのデフレ脱却達成には、中央銀行と政府が力を合わせることが必要
   金融面の後押しと成長力強化の推進が欠かせない。

 ・中央銀行が採用する政策の性格を十分認識することも重要
   中央銀行が採用する非伝統的政策は、財政政策の要素を帯び始めており、損失発生の可能性がある。

注)中央銀行の非伝統的政策:
   マネタリーベースを拡大して市中に潤沢な資金を供給する量的緩和や、
   CPや社債などのリスク資産を従来の範囲を超えて購入する信用緩和など。
    社債などが大きく値下がりした場合、損失が発生し、国民の税負担となる。


 

付記

日本銀行は1月22日の政策委員会・金融政策決定会合において、金融緩和を思い切って前進させることとし、①「物価安定の目標」を導入すること、②資産買入等の基金について「期限を定めない資産買入れ方式」を導入することを決定した。
  http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/k130122a.pdf

①については、民間出身で2012年7月に就任した木内登英氏(野村証券出身)と佐藤健裕氏(モルガン・スタンレーMUFG証券出身)が、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とすることに反対した。

また、政府との共同声明「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」を発表した。
  http://www.boj.or.jp/announcements/release_2013/k130122c.pdf


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