米国の天然ガス輸出論争、激化

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米国の天然ガス輸出を巡って、Dow Chemical と ExxonMobileが米国の産業界を2分して争っている。

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米エネルギー省は2012年12月、LNGに関する報告書を発表したが、そのうち、NERA レポートでは、LNG輸出の米国経済への影響を、輸出の量、グローバルな市場状況、天然ガスコスト等々、いろいろな前提で検討したが、全てのシナリオで、LNG輸出は輸出をしない場合と比べ、ネットで経済的メリットがあるとしている。

2012/12/7 米エネルギー省、LNG輸出に向けての報告書を発表

これに対し、Dow Chemical はその翌日にAndrew N. Liveris CEOによる反論を発表した。

製造業は米国で最大の天然ガスのユーザーであり、天然ガスを使って、他のどのセクターよりも多くの雇用を生み、より多くの価値を生み出している。


製造業で使われたエネルギーの価値は、バリューチェーンを通じて多くの高付加価値の製品をつくることにより、20倍にも拡大される。

これに対して、LNGとしてエネルギーを輸出すれば、その価値分しか得られない。

2012/12/12  Dow、エネルギー省のLNG輸出に関する報告に反論

ダウのLiveris CEOは2010年6月の論文で、製造業のルネサンスが必要と主張、そのための一つとして「業界の競争力維持のための豊富なエネルギーの必要性」を挙げている。

2010/6/25 ダウCEOの論文「米国製造業のルネサンスを」 

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エネルギー省は現在、日本など米国とFTAを締結していない国への輸出用の16のターミナル建設申請をレビューしている。

Exxon は、天然ガス輸出は雇用を創出し、生産を増やし、米国の貿易赤字減らしに役立つと主張する。

輸出により、需要が増え、投資が増え、生産量が増える。

少数の企業が自社の利益のために米国の豊富なエネルギーの自由貿易を制限するよう政府に求めているとし、ExxonMobilはエネルギーを含むすべての製品の自由貿易を支持するとしている。

なお、ExxonMobil自身、天然ガスを使ってテキサス州Baytown に年産150万トンのエチレン工場を建設することを決め、認可手続きに入っている。

全米製造業者協会(National Association of Manufacturers:NAM)と米国化学工業協会(American Chemical Council:ACC)は、自由貿易により米国経済が拡大するとして、天然ガス輸出を支持した。

これに対しDowは1月18日、NAMとACCは石油・ガス業界の影響を受けているとし、全米製造業者協会(NAM)を脱退した。
DowはNAM会長に手紙を送り、会員会社間で意見が分かれる問題では中立の立場を取るべきなのに、天然ガス業界に味方したと批判した。

Dowは本年、天然ガスの輸出に反対するAmerica's Energy Advantage (AEA)というグループをつくった。

メンバーは以下の通りで、Huntsmanは1月22日に新しく加盟した。
  石油化学:Dow Chemical、Celanese、Eastman、Huntsman
  アルミ精錬:Alcoa
  鉄鋼:Nucor
  団体:American Public Gas Association

AEAは、米国の天然ガスが米国の製造業のルネサンスに役立つと主張、輸出により、国内の天然ガス価格が上昇し、米国の製造業の投資を傷つけるとしている。

・価格の安さ:電力コスト低減につながる。
  米国:3.34ドル
  英国:9.73ドル、ドイツ:10.48ドル、インド:10.75ドル、ブラジル:11.95ドル、中国:12.75ドル

・雇用
  競争力ある天然ガスのおかげで、2010年以降、53万の職が追加された。
  ガス価格が同水準で止まれば、2020年までに500万の職が追加される。

・影響
  製造業で1の雇用が生まれると、周辺で5の雇用が生まれる。
  製造業で最終的に1ドルの売り上げが増えると、他のセクターで1.34ドルの収入が生じる。

・逆に天然ガスが輸出されると、
  天然ガス価格は14.54%上昇する。

AEAは、2012年12月に行った世論調査で、「天然ガスを他国に輸出するよりも、雇用を生み、経済を成長させるために国内で使用すべきだ」との説に87%が賛成したと主張している。

一方、ShellはAppalachia地方でエチレンクラッカーと誘導品プラントの建設を検討しているが、1月28日、LNG輸出のため天然ガスの液化設備の建設を発表した。(別記事)

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大阪ガスと中部電力は2012年7月31日、米国のFreeport LNG Development との間で、天然ガス液化加工契約に関する契約を締結した。

Freeport LNGはFreeport LNG受入基地に、液化設備を新たに3系列(1系列あたり年間約440万トン)を建設することを計画しており、2017年に液化事業を開始することを目指している。

このFreeport LNGは4社のパートナーシップだが、パートナーの1社がDow の子会社のTexas LNG である。元々がLNGの輸入基地であり、そのために参加していた。

DowはFreeport LNGによる輸出計画には反対してきたが、このたび、この65億ドルの投資計画に参加しないことを発表した。
計画自体には影響はないだろうと見られている。

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AEAのメンバーのNucorはルイジアナ州St. James Parishで直接還元鉄(direct  reduced iron)の工場建設を行っている。
高炉に依らない新世代型の製鉄法で、コークスを使用せず、天然ガスを使って鉄鉱石を還元するもの。

神戸製鋼所の100%子会社のMidrex Technologies, Inc.のプロセスは、世界の約6割のシェアを持つ。

US Steel も建設を検討しているとされる。

 


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