既報の通り、中国の大気汚染が悪化している。
中国の周生賢環境保護相は1月に開かれた全国会議で、1月の大気汚染は中国全土の4分の1、全人口の半数近い6億人に影響が出たと述べた。 スモッグは17の省や自治区、直轄市に及んだとしている。
環境保護相はまた、1年間に車が約1500万台増える状況が続く中で汚染物質の排出量も増え、7割前後の都市で大気が環境基準を満たしていないことも明らかにした。
さらに、呼吸器や循環器の疾患を引き起こす微小粒子状物質「PM2.5」に対する国民の関心が高まっていることを認め、2015年までに濃度を5%下げる目標の達成に取り組む姿勢を強調した。
中国科学アカデミーの研究員によると、北京市街地 (750平方キロメートル) の上空の浮遊粒子状物質は4千トンに達し、北京の空気汚染はすでに非常に顕著な状態 となっている。
国務院は2012年末に、北京・天津・河北省地域、長江デルタ、珠江デルタなど大気汚染の深刻な地域への思い切った対策を旨とする「重点区域大気汚染対策第12次五カ年計画」を了承した。
これらの地域は汚染物質の排出が高度に集中し、単位面積当たりの汚染物質排出度は全国平均の2.9-3.6倍に上る。
これらの地域は経済規模で全国の71%、石炭消費量で全国の 52%を占める。
国土面積の14%を占めるこれらの地域は二酸化硫黄排出量で全国の48%、窒素酸化物排出量で全国の51%を占める。
重点地域内の82%の都市が2011年改定の大気の質の評価基準の国家2級基準に達していない。
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米国自然資源保護委員会北京代表部によると、石炭消費量は北京で2000万トン、天津で7000万トンに達し、河北省は3億トン、山東省は4億トンにおよぶ。華北地域全体では毎年10億トンの石炭を燃やしている計算になる。
1月30日の国務院常務会議では、中国のエネルギー総消費量を2015年までに標準石炭換算で40億トンに抑制する方針が打ち出された。
2011年の一次エネルギー消費量は石炭換算で34億8000万トンで、前年から約7.1%増加した。
2012年から2015年の平均伸び率を約3.5%に抑える必要がある。
今後石炭消費量の伸びは厳格に規制されるが、この結果、エネルギーを大量に消費する重化学工業もエネルギーのボトルネックに直面する
こととなる。
(このスキームの裏には大手国有企業などとの駆け引きがあり、長い間遅れが生じていたという。)
また、全体のエネルギー消費に占める石炭の割合を約65%に低下させ、天然ガスのシェアを7.5%に高めることが打ち出された。
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大気汚染の原因として、自動車のガソリンも槍玉にあがっている。
中国にはガソリン中の硫黄分について国としての基準はなく、地域ごとに異なっている。
北京市のみがEURO-5に相当する「京5」を本年2月1日から施行した。
2月1日から第5段階基準を施行し、自動車メーカーからの第4段階基準の軽量ガソリン車の届出の受理を停止し、第5段階排出基準を満たさないバスなど大型ディーゼル車の販売、登録を停止する。
3月1日から第5段階排出基準を満たさない軽量ガソリン車の販売、登録も停止する。
また、「京5」を満たす車両には青色環境マークを発行するという。
北京市以外では、上海、広州、南京がEURO-4相当の「国4」の基準を採用しており、2013年1月からは江蘇省、浙江省、広東省などの10以上の地域も「国4」を採用した。
しかし、その他の地域はEURO-3相当の「国3」に止まっている。
EUの自動車排ガス規制(硫黄分規制値)
欧州での
導入時期ガソリン 中国での適用 EURO-3 2000年 150ppm 以下 一般 EURO-4 2005年 50ppm以下 上海、広州、南京等 EURO-5 2009年 10ppm以下 北京
日本では2008年から10ppm以下となっている。米国では80ppm以下。
シノペックの傅成玉董事長は1月末、「汚染の原因は燃料の品質が悪いせいではない。政府の品質規制の基準が低いためだ」と責任は政府にあるとの考えを示した。
これに対し、インターネット上で、「国の基準は国有企業が決めているのではないのか」、「責任感がまったくない」、「国有企業の道徳感が低すぎる」などの批判が噴出した。
環境問題の専門家は規制が進まないことは「石油業界が反対したためだ」と批判する。排ガス規制の基準作りに関与する公的組織のメンバーの7割が石油業界関係者で、環境問題の専門家は1割未満 に過ぎない。
関係者の間では、「国内で広範囲にわたる石油製品の基準引き上げが難しいのは価格面に問題があるため」と見ている。
グレードアップによるコストが市場に転嫁出来ない場合、業界の損益は激減する。中国の業界筋によると「国4」へのアップグレードにSinopec, CNPC、CNOOCの精製3社で500億人民元(7500億円)が必要という。
高品質のガソリンについては税金を低くするべきだとの声も出ている。
インターネット上での非難を受け、Sinopec は2月1日、2013年末までに300億人民元を投じて 12の製油所に最新の脱硫装置を建設し、2014年から「国4」の基準(50ppm以下)に合格する石油製品を販売すると発表した。
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