米国の天然ガス輸出規制はGATT違反?

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既報の通り、米国の天然ガス(LNG)輸出を巡って、Dow Chemical と ExxonMobileが米国の産業界を2分して争っている。

Peterson Institute for International Economics のシニアフェローのGary Clyde Hufbauer が2013年1月24日付の論文で「米国がLNG輸出を規制する一方、国内で天然ガスの自由な消費を認めるのは偽善であり、WTOルール違反だ」と述べ、話題になっている。LNG Exports: An Opportunity for America

米国はGATTなどのルールに従うべきだ。米国の法律を修正すべきだ。

LNGの輸出制限で国内の天然ガス価格を下げた場合、天然ガス利用者への補助金となる。

これまで米国はカナダの木材輸出制限を非難し、最近では中国のレアアースなどの輸出制限を非難している。
1989年にはカナダとのFTA協定に、カナダから米国へのエネルギーの輸出で、カナダ国内と異なる税金を課すことを禁じ、供給を制限する場合には国内と輸出市場で同じ比率で制限するという規定を押し込んだ。

これは偽善である。

こんなことをしていると、非FTA締結国から同様の輸出制限を受けるかも分からない。またそれらの国からWTOに提訴されるかも分からない。


GATTは輸入と同じく、輸出についても原則として数量制限を禁止している。

第11条 数量制限の一般的廃止

「締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入について、又は他の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出若しくは輸出のための販売について、割当によると、輸入又は輸出の許可によると、その他の措置によるとを問わず、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない。」
同条では、「食糧その他の危機的な不足を防止し、又は緩和するための一時的なもの」など、例外について記載している。

第20条 一般的例外
例として、
有限天然資源の保存に関する措置。ただし、この措置が国内の生産又は消費に対する制限と関連して実施される場合に限る。

中国はレアアースの輸出枠設定について、上記の「有限天然資源の保存」を理由にしたが、日本や米国は、但書を引用し、輸出だけを制限する理由にはならないとしてWTO協定に基づく協議を要請した。
WTO上級委員会報告は、「環境保護や資源保護は、国内の環境規制や生産数量制限で対応することが基本」としている。

ーーー

米国ではNatural Gas Act of 1938 により、天然ガス輸出入にはエネルギー省の許可 が必要とされており、輸出許可の判断基準には①公共の利益に反するか否か、②輸出先国で内国民待遇が与えられるかどうかがある。

①の公共の利益については、国内供給を脅かさないことと、自由競争を阻害しないことが要件となる。

輸出許可申請には、以下の点の記載が必要である。

国内の天然ガスの需給
国内ガス価格への影響
米国および地元経済(生産活動と雇用、税収)への影響
貿易収支と国家安全保障上の影響

輸出許可を得ても、輸出契約は長期契約が中心のため、途中で状況が変化すれば、許可取り消しも有り得ると記載されている。

②についてはGATT加盟国は内国民待遇を約束しているため、原則として問題はない。

米国とFTAを締結している国のなかで、イスラエルとコスタリカは天然ガスに関する内国民待遇の合意がなく、LNGの輸出対象国から外れている。

判断基準としては「米国との間に内国民待遇を含む有効な自由貿易協定を結ぶ国に対する天然ガスの輸出は、公共の利益に適うと判断された場合、修正及び遅滞なくその申請は許可される」となっており、これまで全て認められた。

非締結国向けについては個別審査となっており、これまで認められたのは、Cheniere EnergyのSabine Pass プロジェクトのみである。 

詳細は  米国・カナダ産LNG輸入構想に関する通商法面からの考察 (2012年3月 IEEJ)

唯一の事例としてCheniere Energyが非締結国向けに認められたのには経緯がある。

Cheniere Energy が海外からのLNG受入基地に天然ガスのLNG化設備を建設してLNGを輸出する計画に関しては、2010年9月に米国がFTAを締結している国(将来締結した国も含む)に限定して輸出許可が出された。

これに対し、同社は2010年9月7日付で、非締結国向けの輸出を認めないのはGATTに違反するという長文の申請書を提出した。
GATTでは輸出制限を禁じているとし、天然ガス輸出はGATTの例外規定には該当しないとして、個別に詳細に論じている。
       
http://www.cheniereenergypartners.com/lng_documents/application_exhibits.pdf

これを受け、エネルギー省は2011年5月、CheniereのSabine Pass プロジェクトに条件付きですべての貿易相手国への輸出を認めた。

Cheniereは申請に当たり、「公益面の検討」として投資や雇用面のメリットに加え、以下を挙げた。(上記のIEEJレポート)
 ①国際的な天然ガス貿易の自由化を推進:市場メカニズムに基づく取引が浸透
                           (石油価格連動からのデカップリング推進)
 ②天然ガス供給源の分散化:同盟国のenergy security強化
 ③中南米等との通商関係の深化

当然、他の業者も同様の申請を行っていると見られるが、これ以外は一切認められていない。

なお、Cheniere Energy のGATT違反との主張に対し、「裁判所がGATTの規定は既存の法律に優先しないとの判断を示した」との記載を見付けたが、事実かどうか確認できていない。

1947年のGATTではGrandfather Clause(成立前に既に認められていた既得権を認める条項)があったが、WTO設立協定の1994年GATTの下ではこの規定が撤廃されたため、既存の国内法令を理由としてGATTを適用する義務を免れることはできない。
GATTに違反するこの法律は撤廃又は改正することが必要である。

ーーー

野田前首相は2012年4月30日のオバマ米大統領との首脳会談で、LNGの対日輸出拡大などエネルギー面での協力を求めた。

オバマ大統領は首相の輸出要請に対し、「日本のエネルギー安全保障は米国にとっても重要」と理解を示す一方、「(対日輸出は)政策決定プロセスにある」として、明言は避けた。

日本政府は中国のレアアース輸出規制についてはGATT違反として是正を要求している。

米国のLNG輸出規制については、なぜ、要請ではなく、GATT違反であるとして是正を要求しないのであろうか。




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