水銀規制条約で合意、「水俣条約」と命名

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水銀に関する条約の制定に向けた議論のため、1月13-18日にスイスのジュネーブで「水銀条約政府間交渉委員会第5回会合」が開催され、水銀の使用や貿易、排出を国際的に規制する条約の条文案に合意するとともに、日本の提案を受け、条約の名称を「水銀に関する水俣条約」(Minamata Convention on Mercury)とすることを決めた。

本年10月9日-11日に熊本市及び水俣市で条約の採択・署名のための外交会議が開催される。
発効は50カ国の批准が必要で、国連環境計画は2016年をめざしている。

水俣条約については 2011/1/18 水銀条約とPVC  

国連環境計画(UNEP)によると、人の活動で大気中に排出された水銀は2010年で推定1,960トン。途上国を多く含む東アジア・東南アジアが40%を占めるほか、サハラ砂漠以南のアフリカ16%、南米13%となっている。EUは5%、北米は3%、日本は1.5%程度。

会議では、中国やインドなど途上国からは「自分たちだけが発展し、有毒性が分かったから、強い排出規制を押しつけるのは横暴だ」との声が続いた。また、途上国からは「貧しい人々は鉱石や砂金か金を抽出する際、水銀がなければ生活できない」「健康に有害でも発展には必要」との声も聞かれた。

合意された条約案の内容は以下の通り。

1)前文

「水俣病を教訓にして水銀を適正に管理し、将来同じ問題を引き起こさない」と明記。

2)鉱山からの水銀産出

条約発効後の水銀一次鉱出(水銀を鉱出することを一義的な目的とする鉱出活動)は禁止。
既存の水銀一次鉱山は条約発効後15年内に廃止。

3)水銀の貿易

金属水銀の輸出は、条約上で認められた用途や、環境上適正な保管に限って許可。
水銀の輸出にあたっては輸入国の事前同意が必要。

4)水銀添加製品

電池(水銀含有量が重量比2%未満のボタン電池は対象外)、スイッチ・リレー、電球型蛍光灯、石鹸、化粧品、殺虫剤、局所消毒剤、非電化の計測機器(血圧計、体温計、気圧計など)などについては、2020年までに、製造、輸出、輸入を禁止。
(研究用、校正用、標準用などの用途は除外、一部は補修用や特殊用途、
チメロサール含有ワクチン保存剤等 は適用除外)

歯科用アマルガムについて、使用等の制限のための措置を講ずる。


5)水銀使用製造プロセス

苛性ソーダ製造は2025年、アセトアルデヒド製造は2018年までに水銀利用を禁止。

水銀法電解
 陰極(水銀)でナトリウムアマルガム(Naと水銀の合金)を生成、これを解汞塔で加水分解し苛性ソーダを得る。
 陽極で塩素ガス(Cl
2)が発生

アセトアルデヒド(エチレン法以前)
 水銀触媒を使ってアセチレンを水和

PVC、ポリウレタン等の製造工程において使用する水銀量の削減等の制限措置を実施。

アセチレン法PVC
 
アセチレンと塩酸を塩化水銀(HgCl2触媒下で反応させ、VCMを製造

ポリウレタン製造で水銀を触媒に使うケースがある。


新規施設のプロセスにおける水銀利用の抑制。
(日本ではこれら工程で水銀は使用されていない)

6)人力小規模金採掘

小規模金採掘が実施されている締約国はその使用や環境中への放出を削減、可能であれば廃絶するための行動を行う。

砂金の採掘では金を含む砂に水銀を通し、砂中の金を溶け込ませた後に水銀を回収・蒸発させて金を回収するという手法がとられる。

7)大気への排出

石炭火力発電所、セメント製造設備、非鉄精錬設備等、5つのカテゴリーを対象に、5年以内に以下の排出削減対策を実施。

石炭中に水銀が含まれる。セメント製造では飛灰や残土・汚泥を使用するため水銀が含まれる。

・新規施設:利用可能な最善の技術、環境のための最善の慣行、排出限度値の設定等。
・既存施設:排出管理目標設定、排出限度値設定、利用可能な最善の技術/環境のための最善の慣行、
       他の有害物質の制御の活用等

8)水・土壌への放出

放出限度値の設定、利用可能な最善の技術/環境のための最善の慣行等

9)保管、廃棄物対策、汚染地対策

10)途上国への資金援助、途上国の能力強化・技術支援・技術移転

ノルウェーが100万ドル、スイスが100万スイスフランの拠出をそれぞれ表明。日本政府 も100万ドル規模の貢献を表明した。

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日本と世界の水銀の状況は下記の通り。
  ソース:http://www.env.go.jp/chemi/tmms/seminar/20110626/mat01.pdf

 
 


日本への影響については、毎日新聞が以下の通り報じている。

日本では、水銀を使わない血圧計や体温計が普及しており、照明器具も蛍光灯から発光ダイオードへの転換が進んでいる。

一方、金属製錬の過程で副産物として発生した水銀や、蛍光管、乾電池のリサイクルで出る水銀を、インドやシンガポールなどに輸出しており、輸出量は年間平均約100トンに上っている。 (2006年には250トンを輸出)

条約が採択されれば、輸出できなくなった水銀を国内で安全に保管する技術の開発が急務となる。
保管費用を誰が負担するかも検討課題だ。




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