経済産業省は2010年7月5日、通称「エネルギー供給構造高度化法」に基づき、告示を出した。
日本の重質油分解装置の装備率を2013年度までに10%から13%程度まで引き上げることを目標に基準を定めた。
重質油分解装置の装備率 改善率 10%未満の企業 45%以上 10%以上13%未満の企業 30%以上 13%以上の企業 15%以上 重質油分解装置の装備率=重質油分解装置の処理能力÷常圧蒸留装置(トッパー)の処理能力 2010/7/7 エネルギー供給構造高度化法で重質油利用促す新基準、石油業界の再編圧力に
重質油分解装置の新設には500億円以上かかるとされ、内需が縮小する中で新増設は非現実的で、実質的にはトッパー能力削減しかないとされた。
本ブログでは、以下の理由で「官製の設備カルテル」ではないかとして批判してきた。
どういう原料を使って、どういう製品をつくるかは、企業の判断であり、重質油分解能力の向上を各社に義務付けるのはおかしい。
「重質油分解能力の向上」を「重質油分解装置の装備率」にすり替えており、単なる告示で、違法に設備処理を強制している。各社ともこれに対応していることから、「官民の設備カルテル」とみられる。
2010/7/21 エネルギー供給構造高度化法は第二の産構法か?
各社とも順次、設備処理案を発表してきた。
2012/11/6 JX日鉱日石エネルギー、室蘭製油所の原油処理を停止
これまで削減計画が未達なのは大手ではコスモ石油と東燃ゼネラル石油であった。
社名 | 製油所 | トッパー 処理能力 (万bbl/d) |
重質油分解装置 | 改善達成 のための トッパー 能力 (万bbl/d) |
トッパー 能力 削減 義務量 (万bbl/d) |
トッパー能力 削減計画発表 |
|||
分解能力 (万bbl/d) |
現状 装備率 (%) a |
改善 目標率 (%) b |
改善後 装備率(%) a x b |
||||||
コスモ石油
|
千葉 | 24.0 | ー | 2013/7 坂出製油所閉鎖 14万バレル |
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四日市 | 17.5 | ー | |||||||
堺 | 8.0 | 31.3 | |||||||
坂出 | 14.0 | ー | |||||||
合計 | 63.5 | 2.5 | 3.9 | 45 | 5.66 | 43.8 | 19.7 | ||
東燃ゼネラル石油
|
川崎 | 33.5 | 8.4 | ||||||
堺 | 15.6 | ー | |||||||
和歌山 | 17.0 | ー | |||||||
合計 | 66.1 | 2.8 | 4.2 | 45 | 6.09 | 45.6 | 20.5 |
コスモは坂出閉鎖を決めたが、まだ5.7万トンが未達で、2013年度中に追加の一部設備の廃棄か分解装置の増強を検討し基準を満たす方針とされる。
東燃ゼネラルの場合、堺も和歌山も存在意義があり、仮にどちらかを止めても、まだ不足する。和歌山県知事は影響が大きいとして和歌山工場廃止に反対した。
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2012年7月、ExxonMobilは東燃ゼネラル持株の一部を売却し、持株比率を22%に落とした。
本年1月には東燃化学とDow子会社Union Carbide (UCC)
との50/50JVである日本ユニカーのUCCの全持株を取得することで合意したと発表した。
2013/2/6
Dow、日本ユニカー持株を売却
2012年6月以前 |
2012年7月以降(日本ユニカー100%化は2013年第3四半期) |
東燃ゼネラルは2013年2月15日、新体制下での中期経営計画を発表したが、このなかで、エネルギー供給構造高度化法への対応策を公表した。
3工場体制は維持し、川崎と和歌山の小規模トッパー各1基を廃棄するとともに、川崎の残油水素化分解装置を増強することにより対応する。
製油所 | トッパー 処理能力 (千bbl/d) |
重質油分解装置 | 改善達成 のための トッパー 能力 (千bbl/d) |
トッパー 能力 削減 義務量 (千bbl/d) |
対応策 |
||||
分解能力 (千bbl/d) |
現状 装備率 (%) a |
改善 目標率 (%) b |
改善後 装備率(%) a x b |
トッパー 能力 (千bbl/d) |
分解能力 (千bbl/d) |
||||
川崎 | 3基 335 | 28 | 8.4 | 1基 -67 | +34.5 | ||||
堺 | 1基 156 | ー | |||||||
和歌山 | 2期 170 | ー | 1基 -38 | ||||||
合計 | 6基 661 | 28 | 4.2 | 45 | 6.09 | 456 | 205 | ||
対策 | 2基 -105 | +34.5 | ↓ | -105 | +34.5 | ||||
対策後 | 4基 556 | 62.5 | 11.24 |
トッパー能力削減は105千トンで、現状重質油分解能力での義務量の205千トンの半分程度だが、残油水素化分解能力増により、重質油分解装置率を目標の6.09%から11.24%に引き上げる。
トッパー能力削減は計算上の義務量を下回り、
経産省と業界の「狙い」は未達となるが、経産省告知ではあくまで「重質油分解装備率の45%以上の改善」であり、これを満足する。
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