帝人は4月5日、キョーリン製薬ホールディングスの10.17%を4月2日付でキョーリンの大株主から取得したと発表した。取得価額は1株2439円で約185億円。(4月2日終値は2155円)
同時に大株主との間で、合計22%の持株について、共同で議決権を保有する契約を締結した。
帝人グループはヘルスケアを高機能繊維・複合材料事業とならぶ重点戦略事業としているが、株式取得を契機として、両社が研究開発、生産、販売・物流の各分野において共に効率向上を図れるよう、キョーリンとの間に戦略的提携関係が構築できることを期待している。
帝人は2003年1月に当時の杏林製薬との間で医療医薬品事業の統合を発表したが、わずか3カ月後に破談を発表しており、今回の取得は帝人にとって、この計画を再度実現するための第一歩と思われる。
同社では「キョーリンとの提携はスタートラインについたばかりで、これから話し合うところです」としている。
キョーリン側は「株式取得について事前に相談はなかった」とし、提携協議については「その可能性について協議する用意はある」という。
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帝人では「株式の取得先は非公開」としているが、実際は杏林製薬創業家の荻原一族である。
キョーリン製薬ホールディングスの有価証券報告書では大株主は下記の通り。 (2012/3/31)
株式会社アプリコット 6.67% (杏林の初期の社名もアプリコット) ケーエム合同会社 4.82% 沢井製薬子会社(下記) 荻原 淑子 3.90% 株式会社鶴亀 3.86% 株式会社マイカム 3.66% 日本マスタートラスト信託 3.36% 信託口 日本トラスティ・サービス信託 3.17% 信託口 荻原 弘子 3.00% 荻原 年 2.97% 株式会社バンリーナ 2.60% 株式会社アーチァンズ 2.60%
青字は荻原一族と関係会社。
荻原弘子氏は杏林の元会長、荻原年氏も元会長で弘子氏の叔父
2010年に沢井製薬による経営統合提案の際に、一族は持株を一定期間売却しない覚書を締結し、届け出ているが、当事者は以下の通り。荻原年、荻原弘子、アプリコット、荻原淑子、荻原正子、荻原桃子、荻原優子、マイカム、荻原明、
荻原豊、荻原万里子、荻原和子、(追加) 鶴亀、アーチャンズ、バンリーナ今回帝人が共同で議決権を保有する契約を締結した相手は、荻原弘子、荻原正子、荻原優子、荻原桃子の各氏とアプリコットの5株主。アプリコットの代表者は荻原弘子氏。 (他に鶴亀も弘子氏が代表者)
別途、荻原年、和子両氏とマイカム、アーチャンズ、バンリーナの5株主は合計13.32%を共同所有しており、他にも株主がいる。
一族が出資していた登山用品の「好日山荘」を経営するコージツの投資ファンドによるTOBでは、一族が2つに分かれて対立したとされており、今回も別行動を取っている模様。
上記の覚書は2013年3月31日付で終了したとの報告書が出ている。
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帝人と杏林製薬は2003年1月、同年10月1日に帝人の医薬医療事業グループを会社分割によって杏林に事業統合し、帝人が杏林株式の50%超を保有し、今後帝人グループの中核をなす連結子会社として発展させていくことについて基本合意に達したと発表した。統合新会社は、上場会社として独立した経営を維持する。
しかし、両社は3か月後の2003年4月に、医薬医療事業の統合を断念すると発表した。
杏林の主力製品の合成抗菌剤「ガチフロ錠」について厚生労働省が副作用の危険性を指摘したことで、杏林の株価が大幅に下落し、統合比率など条件を巡って両社の見解が食い違った。
創業家一族から「もうからない」と統合反対の声が上がり、白紙に戻ったのが真相だといわれている。
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沢井製薬は2010年12月2日、キョーリン製薬ホールディングスに対し経営統合の提案を行った。
両社を傘下に持つ持株会社方式を念頭に置いている。
沢井製薬はキョーリンの株式の約4.8%を取得し、資本提携を通じた戦略的経営統合について打診したが、キョーリンからは前向きな回答は得られず、正式提案を行った。
沢井製薬によるTOBの噂も流れ、株価は急騰したが、2010年9月に創業家一族は上記の覚書を締結している。
キョーリンはこの提案を12月7日に拒否した。賛同しない理由も含め、一切明らかにしなかった。
キョーリンの拒否は業界筋によると、「キョーリンの株式を4.8%も集めての経営統合提案に激怒した」ことに加え、「新薬メーカーとしてのプライドが後発医薬品メーカーとの統合を許さなかったから」で、創業家一族の意向によるものであろうとされた。
この結果、沢井製薬は2011年3月、交渉打ち切りを発表した。
上表記載の通り、沢井製薬はその後もキョーリンの株式4.82%を保有していたが、2012年10月に60億円で市場で全て売却した。
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