TDKは4月26日、中国・広東省梅州市の梅州高新技術産業園区に希土類磁石の製造合弁会社を設立することを決めたと発表した。
同社は、自動車向けをはじめ、IT 機器などの各種エレクトロニクス機器、産業用機器向けに各種磁石を製造している。
特に、自動車、家電等、省エネ、環境対応が重要視されることに伴って「希土類磁石」の需要が世界的に急増すると見込まれる。
資源的にも限られている希土類材料の、より一層の安定供給を確保するため、中国に磁石製造の合弁会社を設立する。
社名 : 広東東電化広晟稀土高新材料有限公司 出資 : TDK 59% 広晟有色金属 37% 希土類、タングステン製品の製造、販売 東海貿易 4%
エコカーなどのモーターには、高性能なネオジム磁石が使われている。
ネオジム磁石は日立金属元社員が発明した。
佐川眞人氏:大同特殊鋼顧問
ネオジム磁石のアイデアを見出し研究中の1982年に富士通を退社、住友特殊金属(現、日立金属)に移籍し1982年5月ネオジム磁石を作り上げた。
同磁石の世界需要は年1万~1万3000トンで、日立金属、TDK、信越化学工業の3社でシェアを独占している。
現在は3社とも日本だけで生産している。
ネオジム磁石は高温になると磁力が落ちる弱点があり、ジスプロジウム(Dy)を添加する必要がある。
ジスプロは中国でしか産出せず、高価である。
また、ネオジム磁石の基本特許は 2014年7月に期限切れを迎える。
ジスプロシウムの価格高騰と特許期限切れのダブルパンチにより、このままではネオジム磁石の国際競争力を失うことは必至である。
TDKは、中国がレアアースの輸出制限を始めたため、中国での磁石製造に踏み切ったが、以下の経緯がある。
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2012年4月に、日本経済新聞はTDKと昭和電工が中国で高性能磁石の合弁事業を検討していると報道した。
第1段階として昭和電工が計画する中国で3カ所目のレアアース合金工場の建設運営にTDKと現地の資源会社を加えて、5月にJVを設立する。
昭和電工は磁石の原料のレアアース合金を製造している。
2002年12月、中国のレアアースメーカーとのJVの包頭昭和稀土高科新材料有限公司を設立した。
社名 : 包頭昭和稀土高科新材料有限公司 所在地 : 内蒙古自治区包頭稀土高新技術産業開発区 出資比率 : 昭和電工 60% 東海貿易 5% 内蒙古包鋼稀土高科技股イ分有限公司 30% 中国冶金進出口総公司 5% 能力 : 年産1,000トン
2006年8月、中国のレアアースメーカーとのJVで贛州昭日稀土新材料有限公司を設立した。
社名 : 贛州昭日稀土新材料有限公司 所在地 : 江西省贛州経済技術開発区 出資比率 : 昭和電工 80% 東海貿易 10% 贛州虔東実業集団有限公司 5% 贛県紅金稀土有限公司 5% 能力 : 年産2,000トン(2007/9)⇒3,000トン(2011/7)
後者の増設完了で、秩父事業所(5,000トン)を合わせ、年産9,000トン体制を確立した。
同社では、今後の需要動向を睨み、年産10,000トン体制の構築を検討するとしていた。
第二段階はTDKの主導で高性能磁石の新工場をレアアース合金 工場に併設し、原料から製品までの一貫生産体制を作る。
総投資額は100~200億円で、具体的な内容は年末までに詰めるとしていた。
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しかし、経済産業省が2012年8月1日に輸出貿易管理令を改正し(7月13日閣議決定)、高性能磁石とその製造装置、関連部品を規制対象に加え た。
輸出企業は磁石がミサイルなど大量破壊兵器に利用されないことを証明する必要がある。
外国為替及び外国貿易法の第48条は、
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
としている。今回、輸出貿易管理令別表第一の16(1)に、「焼結磁石等」を加えた。
なお、核兵器等の開発等のために用いられることがない場合は、許可が不要となる。
同省では、「国際的な合意を踏まえた安全保障上の見直しで、貿易制限が目的ではない」と説明する。
しかし、この時点での「焼結磁石等」の追加は、中国での合弁を止めさせるのが狙いである。
日本企業の動きに神経をとがらせ、中国企業との合弁は中国の「思うつぼ」であるとして、中国進出を思いとどまるよう、各社を説得したとされる。
それとともに、2012年3月13日に米国・EUとともに中国によるレアアースの輸出制限についてWTOに提訴した。
提訴対象にはレアアースのほか、タングステンとモリブデンも含まれる。しかし、各社の動きが止まらないため、輸出貿易管理令に踏み切った。
磁石メーカーは、許可が得られない場合、「仮に装置を現地調達して工場をつくったとしても、顧客の開拓や設備の保守ができず操業できない」としている。
この結果、TDKと昭和電工は計画を断念した。
日立金属も別途検討していた計画を断念した。
輸出貿易管理令の改正に中国側は反発を強めているとされ、日本企業から中国への磁石半製品等の輸出が事実上のストップをうけていると報じられた。
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昭和電工の市川社長は2012年12月に開催した事業説明会で、レアアース合金事業のビジネスモデルを大きく見直す方針を示した。
中国磁石合弁工場は建設の見通しが立たず、日本向け輸出もままならないため、「2013年以降は中国で生産した合金は現地で販売したい」と語った。
日本経済新聞は、昭和電工のレアアース合金を使って高性能磁石を生産してきたTDKが、昭和電工に「それは裏切り行為だ」と食ってかかったと報じている。
これらの経緯を経て、TDKは今回、昭和電工とのJVではなく、独自での中国進出となる。
なお、同社は日中両国政府から合弁会社の設立、運営に必要な許認可が得られなければ「今回の合弁会社を解散する場合もある」としている。
これに対する経産省の対応が注目される。
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なお、高性能ネオジムは日立金属、信越化学、TDKの3社がシェアを独占しているが、この磁石の原料となる高品位のレアアース合金も、昭和電工、信越化学、三徳、中電レアアース の4 社が世界生産を独占している。
昭和電工は上記の通り、中国の2工場と秩父事業所(5,000トン)を合わせ、年産9,000トン体制を確立した。
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信越化学は合金と高性能磁石を武生工場で一貫生産している。
同社は2012年3月、中国福建省にレア・アースマグネットの中間原料であるマグネット用合金を製造する新会社、「信越(長汀)科技有限公司」を信越化学100%により設立した。投資額は15億円、生産能力は年産3,000トン。
生産する全量を日本に持ち込み、ハイブリッド車向けに需要が急増する高性能磁石の原料にする予定。
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三徳は早くも1948年にレア・アース分野に乗り出し、現在、原料から高純度化合物、各種合金まで一貫生産するレア・アース総合メーカーとして世界をリードする存在に成長した。
製造品目は、ネオジム磁石合金、サマリウム磁石合金、水素吸蔵合金、負極コイル、マグネシウム・リチウム合金、その他。
内蒙古・包頭市稀土高新技術産業開発区に包頭三徳電池材料、江西省ガン州市香港工業園に五鉱三徳ガン州希土材料有限公司を持っている。
2011年4月に米国アリゾナ州の子会社 Santoku America, Incを現金1750万ドルでMolycorpに売却した。
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中電レアアースは中央電気工業の100%子会社。
1990年に住友金属工業が米国のMolycorpとのJVで、住金モリコープを設立、Molycorpの日本のソールエージェントとなり、同社製品の輸入販売を開始した。
1992年に和歌山事業所を建設し、希土類磁石合金の製造、販売を開始した。
2007年に日立金属、アドバンスト マテリアル ジャパン及び中国の有研稀土新材料(66%)との合弁で、北京郊外にレアアース合金製造販売の廊坊関西磁性材料を設立。
2009年にはミクニ総業、エムアプリ他と合弁で(72%出資)、ハノイ近郊に Vietnam Rare Earth を設立した。
ベトナムでは、レアアース磁石製造工程で発生するスクラップから得た酸化物を電解してメタルとしている。
2009年12月に中央電気工業の100%子会社となり、中電レアアースに社名変更した。
同社は本年3月1日、Molycorpと磁石合金用レアアース酸化物の調達及び磁石合金用レアアースメタル委託製造に関する合意書に調印した。
Molycorpの酸化物をベトナムでレアアースメタルに加工する。一部はMolycorpからの受託となる。
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