丸紅は6月10日、100%取得の契約を締結しているGavilon について、持分譲渡契約を変更するための契約を締結したと発表した。
当初、穀物・肥料・エネルギー3事業を運営する同社の持分100%を36億米ドルで買収することとしていたが、穀物・肥料の2事業を26億米ドルで買収することとし、エネルギー事業は現持分保有者が継続して保有する。
なお、買収について、中国は4月22日に条件付き認可を行ったが、丸紅はその条件履行の施策について当局と協議中であるとしている。
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丸紅は2012年5月29日、北米で穀物・肥料・エネルギーのトレーディング事業を展開するGavilon
Holdings の持分すべてを取得すると発表した。
買収価額は36億ドルだが借入金が20億ドル程度あり、合計で56億ドル程度となる。
丸紅の輸出の99%が中国向けであり、Gavilonは北米の大豆の集荷、保管、輸送の巨大能力を持つため、両社の統合で中国への輸出で大きな強みを持つことになるとしていた。
しかし、中国商務部は2013年4月22日、丸紅による米穀物大手Gavilonの買収の承認に厳しい条件を付けた。
2社の合併は「中国の大豆輸入市場への支配力を強め、競争を排除あるいは抑制する」可能性があるとし、
(1)中国向け輸出・販売業務を分離独立すること
(2)例外を除き、丸紅はGavilonから大豆を買い付けてはならない
(3)市場情報を交換してはならない――といった義務を課した。
これにより丸紅は、中国への輸出にGavilonの大規模な米国のネットワークを利用できず、高額での買収の意義が失われることにもなる。
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今回、エネルギー事業を除外し、買収金額が10億ドル減少することとなったが、これの解釈は難しい。
Gavilonの事業は以下の通り。(売上高は2011年)
売上高
(百万$)従業員 当初の
契約今回の
契約穀物事業 14,555 1,326 〇
〇
肥料事業 2,907 311 〇
〇
エネルギー事業 390 124 〇
ー
合計 17,852 1,934 36億ドル 26億ドル
Gavilonは原油・天然ガス等を中心にエネルギー事業も展開しており、北米において約8百万バレルの原油在庫施設、約100億立方フィートに及ぶ天然ガス在庫施設および約50万バレルの石油製品在庫施設などの物流ネットワークを活用し、トレーディング事業を行っている。
丸紅としては、この事業買収の意義として、北米における原油・石油製品・天然ガスのトレードの拡充と、保有アセットからの手数料収入等安定収益の増大を挙げているが、年間売上高が390百万ドルの事業に10億ドル分の価値があるとは考えられない。
このため、穀物や肥料事業の買収金額が減額になったのではないかとも推定される。
上述の通り、今回の中国政府による条件付き承認で、買収の意義が失われかねないこととなった。
米大豆協会では、丸紅とGavilonの連合が中国のような大規模な市場で供給を管理したり、価格操作を行うことは不可能であり、中国が課した条件は驚きだとしている。
丸紅としても中国がここまで厳しい条件を付けてくるとは考えていなかったと思われるが、相手が中国であり、どんな条件が付くか分からないため、ケースごとに買収条件を変えるような工夫をしていたことも考えられる。
(当初の発表時に、「取得価格は36億ドルから持分取得の実行時における譲渡契約に定める調整を実施した金額」としている。)
当初契約では丸紅は36億ドルでの買収に加え、Gavilonの借入金 約20億ドル程度を引き継ぐこととなっているが、今回のエネルギー事業の除外で、債務の引き継ぎ額も変わるのかどうかは明らかにされていない。
このほか、エネルギー事業を放棄したことについては、丸紅がGavilonのエネルギー事業に余り魅力を感じていなかったとか、当初の契約時から円が19%も下がり、円換算での買収金額が増えたなどの報道もされている。
丸紅は現在、中国当局との間で買収の条件履行の施策について協議中であり、それが確定した時点で恐らく詳細についての説明があると思われ、それまではこの見直し後の買収の評価をすることは難しい。
なお、エネルギー事業は現持分保有者が継続して保有することとなる。
現在の保有者はOspraie、General
Atlantic、Quantum Strategicの3ファンドと経営者・従業員。
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