米最高裁、人の遺伝子の特許を認めず

| コメント(0) | トラックバック(0)

米最高裁判所は6月13日、人の遺伝子は特許の対象にならないとの判決を全員一致で言い渡した。遺伝子に特許を与えた場合、科学的な研究や医療行為を妨げると主張した医師や患者のグループが勝訴したことになる。ただし、人工的に合成された遺伝子については特許の取得が可能とした。

この裁判は、米バイオ医薬品会社
Myriad Geneticsが乳がんと卵巣がんに関連した2つの遺伝子(BRCA1とBRCA2)の特許を取得したことに、医療研究者らが反対し、争われていた。

BRCA1,2 (breast cancer susceptibility gene 1,2 ) は、がん抑制遺伝子の一種であり、その変異により遺伝子不安定性を生じ、最終的に乳癌や卵巣癌を引き起こす。

今回、最高裁は人の遺伝子は特許の対象にならないとした。

Clarence Thomas判事は、Myriad が重要で有用な遺伝子を見つけたのは確かだが、遺伝子の分離は発明行為ではなく、同社は何も創造していないとした。

一方、 単離されたDNA分子や人工的に合成された遺伝子(cDNA) については「自然に発生はしない」とし、特許で保護されるとした。

オバマ政権は、自然に形成された遺伝子の抽出は特許対象とはならないが、人工的に合成された遺伝子はそうなるとの立場を取っており、最高裁はこれを受け入れた。

Myriad Geneticsでは判決を受け、最高裁はDNAに関する特許は否定したが、相補的DNA (cDNA)の特許を認めたとし、BRACAnalysis テストに関する24の特許(有効なクレイムは500以上)が維持されると述べた。

ーーー

Myriad Geneticsは1994年に特許を出願した。

同社は特許に基づき乳がんと卵巣がんの発症しやすさを調べる遺伝子検査の市場を支配してきた。

同社のBRACAnalysisテストで陽性になった女性は生涯で乳がんになる確率が82%高く、卵巣がんになる確率が44%高い。

女優のAngelina Jolieが最近、がんに関連した遺伝子変異が見つかったため予防措置として両乳房の乳腺切除手術を受けたことを明らかにして、こうした遺伝子検査が注目を浴びた。

2009年に研究者や患者らを代表するアメリカ自由人権協会(SCLU) が乳がんと卵巣がんの発症における遺伝子特許無効の訴えを行った。

同特許の対象範囲があまりに広いため、BRCA1やBRCA2に関する研究者の調査や比較を阻害すると主張。
あらゆる人間が持つ最も基本的な要素を知的財産として認めることの合法性・合憲性を問うものである

この特許が Myriad Genetics に対し乳がんや卵巣がんに関連する検査への独占的権利を与えるもので、該当する遺伝子の検査におけるすべての新しい科学的方法論なども、権利保護の対象にしており、同社が乳がんや卵巣がんの遺伝子検査のタイプや種類を決めるとともに、他の研究所の研究を阻害している。

この特許のもとでは、BRCA1やBRCA2の検査や分析を
Myriad Geneticsに依頼すると、テスト1回ごとに3,000ドル以上の支払いが課され、これらの遺伝子検査を求める女性の障害になっているという。 他の企業が安価な検査法を開発しようとしても、特許を盾に認められない。)

2010年3月29日、ニューヨーク州南部地区米連邦地裁が特許無効の判決を下した。

Myriad特許の「身体から取り出した遺伝子」は「ヒトの細胞の自然産物としての遺伝子」とは目立って違いもなく、取り出し精製することでその遺伝子の本質的特性が自然産物としての遺伝子の特性から変化したわけでもない。

検査方法も遺伝子情報集め以上のものではなく数学的アルゴリズムといえる。

Myriadは控訴した。

2011年7月29日、米連邦巡回控訴裁判所はMyriadの BRCA1とBRCA2の特許を認めた。

身体の中に自然にある遺伝子ではなく、遺伝子の特定の化学形態をテストするものとした。
但し、DNAの塩基配列を分析する方法は特許を認めなかった。

2012年3月、米最高裁は、別件のPrometheus社の投薬方法に関する特許について、特許適格性が無いとする判決を下した。 

同特許は、自己免疫疾患を治療するためのチオプリンが投与された患者の血中の代謝物量を測定し、それに合わせて投与量を増減させる方法に関するもの。

連邦巡回控訴裁判所の判決では、同特許は、薬物が人体内で代謝されることで物質として変化すること、そして、対象クレームでは人体内から血液を抽出し測定することを必然的に伴うから「トランスフォーメーション」があるとし、特許対象であるとしていた。

しかし最高裁は判事の全員一致でこれを覆し、特許適格性無しとしたもの。

「自然法則」あるいは「自然現象」は特許可能ではないが、それが公知の構造や方法に対する応用である場合には特許可能となる。
しかし、そのためには、クレームに具体的な応用に関する記載がなければならない。

本件のクレームは、投薬後の血中の代謝物の量と、当該薬剤による予想される効果、危険度との相関性を記載しているが、これは自然法則そのものである。
自然法則の応用を確実に具現化する追加的特徴を記載しない限り、特許適格性を満たさない。

工程を組み合わせたところで、自然法則以上のものを何ら付加するものとはいえない。

最高裁はPrometheus判決をもとに、米連邦巡回控訴裁判所に対し、2011年の判決の再検討を指示した。

2012年8月、米連邦巡回控訴裁判所は再度、Myriad のBRCA1 とBRCA2の特許を2:1で認めた。
しかし、DNA 塩基配列を「比較」したり、「分析」したりする特許は否定した。

原告は遺伝子は自然の産物と主張したが、判決では、
「全てのもの、全ての人間は自然の産物ではあるが、このBRCA1とBRCA2は自然の法則に従ってはいるが、自然物ではなく、人間のつくったものである」とした。

裁判では Dr. James Watsonが特許化に反対し、裁判所が人間の遺伝子の非常にユニークな性質を認めないのかと恐れると証言した。
「遺伝子は化学物質ではあるが、人間を創る指令を暗号化して伝えるもので、生命の指令を法律上の独占で支配するべきものではない」とした。

しかし判決は、特許はイノベーションを促進するとして特許を認めた。

今回の訴訟は、米国自由人権協会や15万人以上の研究者、医師、患者らが、特許対象の遺伝子を使用した今後の研究・調査の妨げになるとして、先の控訴審判決を覆すよう最高裁に申し立てたもの。

2013年6月13日、米最高裁判所は上記の判決を下した。

 


トラックバック(0)

トラックバックURL: https://blog.knak.jp/knak-mt/mt-tb.cgi/2218

コメントする

月別 アーカイブ