物質・材料研究機構は6月14日、癌の温熱療法と化学療法を同時に実現させることが可能なナノファイバーのメッシュを開発したと発表した。
上皮性の悪性腫瘍のひとつである扁平上皮癌は、例えば、食道癌の90%以上、子宮頚部癌の80%以上、肺癌の 30%以上を占めているといわれている。
「上皮性」とは外界と接触しているもので、皮膚、消化管の内側すべて(口・食道・胃・十二指腸・小腸・大腸・肛門)、肝臓や膵臓、肺・気管支、尿管・膀胱・腎臓、膣や子宮など。
扁平上皮はその表面を覆っている細胞。「非上皮性」とは体を支えている部分で、骨・脂肪・筋肉・血管・結合織・脳・神経など。
上皮由来の悪性腫瘍を「がん」、非上皮由来の悪性腫瘍を「肉腫」と呼ぶ。
扁平上皮癌の治療方法は、癌の進行度によって手術、放射線療法、化学療法が三本柱となっているが、これらに加え、温熱療法が注目されている。
これは癌細胞が正常な細胞と比べ熱に弱いことを利用し、がん細胞を死滅させるもの。
温熱療法は、化学療法などと併用することで抗癌剤の効果が向上するが、これまで併用は困難であった。
今回の研究では、上皮性悪性腫瘍に対して温熱療法と化学療法を同時に行う方法の開発に成功した。
開発したのは患部に直接貼れるメッシュ状の材料(直径500ナノメートルのナノファイバーをメッシュ状にしたもの)で、温度応答性高分子(温度が上がると縮む性質のある高分子)、磁性ナノ粒子、抗癌剤を組み合わせたハイブリッド材料。
ナノファイバーメッシュに含まれた磁性ナノ粒子に交流磁場をかけることでファイバーを加熱する。生じた熱(43〜45度)に応答し、温度応答性高分子が収縮することで、内部の抗癌剤を外部に放出させ る。
ファイバー内の磁性粒子は安定に存在するため体内への拡散も抑えられ、ドラッグデリバリー技術を応用して磁性粒子を直接投与する方法と比べて安全性は高い。
このナノファイバーメッシュはハンドリングしやすく、内視鏡手術などでも使える。
物質・材料研究機構では、このナノファイバーメッシュを用いることで、上皮性の癌細胞を効率的に自然死(アポトーシス)させることに成功した。
培養した皮膚がんの細胞の上にこの繊維を置き、磁場を2回(各5分間)かけて45度まで熱したところ、がん細胞は5日後に27%まで減少した。抗がん剤だけを加えた時は40%までしか減らず、何もしないと2.4倍に増殖した。
再発防止のためにがん細胞を切除した後に内臓や皮膚の表面に貼ると効果的という。
この研究成果は、科学雑誌「Advanced Functional Materials」のオンライン速報版で公開された。
今後、動物実験で安全性と有効性を確認し、臨床試験を実施する。
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