名古屋大学は7月12日、大学院理学研究科の研究グループが、ベンゼンを簡単にフェノールに変換することができるバイオ触媒を開発したと発表した。
現在使われているクメン法は、ベンゼンとプロピレンを 200-250℃ で反応させてクメンを得 、これを酸素酸化してクメンハイドロパーオキサイドとし、パーオキサイドを硫酸で分解し、フェノールとアセトンとしている。
C6H6 + CH2=CHCH3 → C6H5CH(CH3)2 (クメン )
- C6H5CH(CH3)2 + O2 → C6H5C(OOH)(CH3)2 (クメンハイドロパーオキサイド)
- C6H5C(OOH)(CH3)2 → C6H5OH (フェノール) + (CH3)2C=O (アセトン)
この手法は危険な反応条件で行う必要がある上、多量の副産物を生成してしまうという問題を抱えている。
一段目では、原料ベンゼンを過剰に用いるため、その回収再利用が必須。
二段目の生成物は爆発性のパーオキサイドのため、生成物の濃度を低く抑える必要があり、未反応のクメンの回収再利用が必要。
三段目ではアセトンのほか、多種多様の副生成物が少量ずつ生成。廃酸の処理問題もある。
研究グループは、特定の化合物が入ってきた時にだけ働く酵素に着目し、特定の化合物に構造のよく似たダミーの化合物(デコイ分子)を酵素に取り込ませた。
食用油に含まれる飽和脂肪酸を選択的に水酸化するシトクロムP450BM3と呼ばれる細菌の持つ酸化酵素を取り上げた。
ダミー化合物としてパルミチン酸に似たパーフルオロノナン酸を使い、酵素に結合させると、酵素が誤作動し、通常酵素とは反応しないベンゼンを常温・常圧下で直接フェノールに変換することに成功した。
ポイントは下記の通り。
1)常温常圧の条件でベンゼンを直接的にフェノールの変換
副産物は生成されない。
2)生成物のフェノールが更に酸化される過剰酸化反応を抑制
3)デコイ分子使用で、天然に存在する酵素をそのまま利用
遺伝子操作による酵素変換にかかる時間とコストを大幅に削減
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産業技術総合研究所は2002年1月、丸善石油化学(当時)、NOKと共同でフェノールの一段階反応法の開発に成功したと発表している。
反応器にパラジウム薄膜で被覆した多孔質アルミナ細管を用い、150-250℃で、管の外側と内側の一方に水素を流し、他方にベンゼンと酸素を流すことによって、フェノールを得るもの。
酸素のベンゼン環への導入は、パラジウム膜上に吸着した水素が解離活性化し、このままの状態で反対側へ透過し、酸素分子を捕まえ、活性化した酸素を放出し、これがベンゼン環の二重結合に付加することによって起こる。
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これらの技術については、大量生産ができるのか、既存法と比べて競争力のあるコストで生産できるのかが問題である。
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