政府、原爆症認定訴訟で控訴せず

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広島、長崎での被爆者を原爆症と認めない国の処分を取り消した8月2日の大阪地裁の判決をめぐり、安倍首相は8月9日、控訴しない方針を表明した。

大阪地裁の判決について認定制度を否定する判決ではないと結論づけ、高齢化が進む被爆者の救済を加速する必要があると判断した。
首相は長崎市での平和祈念式典で、認定制度のさらなる見直し作業を加速させる考えを改めて示した。

大阪地裁が国の処分を取り消したのは、原爆投下時に広島や長崎にいたり、投下後に被爆地に入ったりした8人で、2008年に導入された新たな審査基準に基づき、国に申請を却下されていた。

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被爆者の救済策としては、1957年に健康診断と治療を目的にした原爆医療法が、1968年には健康管理手当など各種手当の支給を定めた原爆特別措置法が施行された。2つの法律は現在、被爆者援護法に一本化されている。

被爆者手帳の所持者で一定の疾病にかかっている人は健康管理手当(2013年4月時点で月額 33,570円)が支給されるが、厚生労働相により原爆症に認定されると、医療特別手当(2013年4月時点で月額136,480円)が支給される。

原爆症認定は、被爆時の放射線が原因で発病するか、治癒能力が低下し治療が必要な人が対象となり、対象となる病気やけがは、がん、骨髄性白血病、脳卒中、被爆の外傷で治療が遅れたことによる運動機能障害などで、熱線や爆風などに起因する被害は対象にならなかった。

2007年3月末時点で、被爆者健康手帳の交付を受けたのは251,834人で、このうち、原爆症認定者は2,242人で、1%に満たなかった。

原爆症の認定は、一定以上の放射線量を被爆しなければ病気や障害は発症しないとの放射線防護学の学説を根拠とした。

放射線量推定方式では、例えば、爆心地から2km地点の被爆線量は1km地点のわずか数%に激減する。
このため、遠距離被爆者などはほとんど認定されていない。

2001年からは年齢、性別、各種疾病と、被爆の因果関係を疫学調査に基づいて計算する「原因確率方式」も加味して適否判断をした。
白血病、胃がん、甲状腺がんなど疾病別に原因確率表が作成されており、50%以上ならほぼ認定するが、確率10%未満では原則却下した。

残留放射線や、降雨時の放射性降下物による被爆線量の算定も十分に評価されておらず、原爆投下の翌日以降、被爆地に足を踏み入れた「入市被爆者」などが認定されるケースも少なかった。

認定基準見直しを求める訴訟が行われ、大阪、広島、東京など6地裁で、国は認定方法の不備を指摘され敗訴を続けたが、いずれも控訴した。

最高裁は2000年7月、原爆症認定審査をめぐる放射線量推定方式の機械的な適用を「健康被害を十分説明できない」として不当との初判断を示し、国に被爆者援護行政の再考を迫った。

これに対し厚労省は、放射線量推定方式は放射線防護の世界基準の基礎となっていることもあり、認定審査について「科学的知見に基づいて公平、公正でなければならず、現行の審査は科学的、客観的で医学的な合理性がある」と正当性を主張した。

北海道新聞 もっと知りたい 原爆症認定基準 (2007/09/15)


2007年8月5日の広島原爆の日の前日、辞任直前の当時の安倍晋三首相は原爆症の認定基準を緩和に向けて見直す意向を表明した。

これを受け、 2008年3月、厚生労働省の「原子爆弾被爆者医療分科会」は認定条件を大幅に緩和した新基準を決定した。

新基準では以下のケースについて、格段に反対すべき事由がない限り、当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定するものとした

対象者
(1)被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者
(2)原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2km以内に入市した者
(3)原爆投下より約100時間経過後から、原爆投下より約2週間以内の期間に、爆心地がら約2km以内の地点に1週間程度以上滞在した者

対象疾病
(1)悪性腫瘍(固形がんなど)
(2)白血病
(3)副甲状腺機能亢進症
(4)放射線白内障(加齢性白内障を除く)
(5)放射線起因性が認められる心筋梗塞

客観的な資料が無い場合にも、申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。

これ以外の申請についても、申請者に係る被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案して、個別にその起因性を総合的に判断する 。

しかし、実際には、発病時期のずれや急性症状がないことなど、典型症例から外れた場合は不認定となるケースがあり、さらなる緩和を求める声が出た。

原告側の要求
 ・従来の認定行政を反省し、「疑わしきは認定」を明確にする
 ・少なくとも、がん、白血病は時間、距離の制限なし
 ・甲状腺機能低下症、肝機能障害なども加える

2008年の新審査基準導入後も却下が相次ぎ、取り消し訴訟が続いた。

2013年3月末時点の状況は以下の通りで、医療特別手当受給者は健康管理手当受給者の5%に過ぎない。

被爆者健康手帳保持者  約 20万2千人
健康管理手当受給者    約 17万1千人
医療特別手当受給者      8,552人

大阪地裁は2012年3月、広島で被爆した2名が原爆症と認めなかった国の処分の取り消しを求めた訴訟の判決で、国の処分を取り消したほか、行政事件訴訟法に基づいて原爆症認定の義務づけを求めた男性の訴えも認めた。

原爆症認定をめぐり、国に対して認定を義務づける判決は初めて。

今回の裁判は大阪、兵庫、京都の3府県の被爆者9人(うち1人死亡)が却下処分の取り消し と、国の審査の遅れで精神的苦痛を受けたとして、慰謝料など1人123万〜300万円を求めた集団訴訟。

裁判長は、既に国の認定を受けている1人を除く8人について被爆と疾病の因果関係を認め、却下処分の取り消しと原爆症認定の義務付けを国に命じた。 国家賠償請求は退けた。

原告は72~87歳の男女9人で、被爆の影響で心筋梗塞や甲状腺機能低下症を患ったとして原爆症の認定を申請したが、8人は却下された。

大阪地裁は心筋梗塞と放射線との関連性を認め、甲状腺機能低下症と放射線との関連性について低線領域の因果関係を肯定した。

8人の症状について「放射線の起因性が認められ...申請を却下する処分は違法」と明確に判断。

新基準での被ばく線量の算定方法は「地理的範囲及び線量評価の両方において過小評価の疑いが強い」「あくまでも一応の目安とするにとどめるのが相当」とし、「さまざまな形態での外部被ばく及び内部被ばくの可能性がないかどうかを十分に検討する必要がある」と した。



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