東京電力は9月27日未明に多核種除去装置「ALPS」の1基(C系列)の試験運転を再開した。今後、定期的に点検を実施し、対策の効果を確認する。
残りの2基も11月までに稼働させる。
東京電力は9月28日、「ALPS」で、ポンプの一部に不具合が生じたため、汚染水処理を停止したと発表した。
27日夜に廃液を送り出すポンプから、規定通りの流量が出ていないことが判明した。東電は9月29日、不具合の原因は、タンク内に置き忘れたゴム製シートが排水口をふさいだためと発表した。
30日に処理を再開した。付記 10月4日、ALPSで警報が鳴り、処理を中断。作業ミスと判明、夕刻再開。
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安倍首相は9月19日、福島第一原発を視察、東京電力に対して3点を要請、東電は同日、これへの対応を発表した。
首相要請 | 東電対応 |
廃炉に向けた予算確保 | これまでに手当てした約1兆円に加え、コストダウンや投資抑制により、今年度から10年間の総額として更に1兆円を確保。 |
期限を決めてタンク内の汚染水を浄化 | 多核種除去装置のさらなる増強も含め、2014年度中に全ての汚染水の浄化を完了で きるよう取り組む。 |
事故対処に集中するため 5、6号機を廃炉 | 年末までに取り扱いを判断 |
5、6号機は1ー4号機と離れている。
東日本大震災時に定期検査中であった。外部電源は失ったが、6号機のディーゼル発電機1基のみ津波被害を免れ、これを使って5号機の燃料も冷却、ともに炉心溶融などの事故に至らなかった。
東電の対応のうち、 「2014年度中に全ての汚染水の浄化を完了」というのには驚く。
9月26日付の毎日新聞(「3.11後のサイエンス」)は概要以下の通り報じている。
今月半ば、汚染水対策に追われる現場を視察した米原子力規制委員会(NRC)の元委員長デール・クラインは記者会見で 「福島第1原発の水管理には、少なくとも今後10年はかかるでしょう」 と述べた。
そんな困難な実情を聞いていただけに、広瀬直己社長の言葉「2014年度中に浄化を完了する」に驚いた。いったいどういう計算に基づいているのだろう。
東電広報に聞くと、「試算」の中身は以下の通り。▽多核種除去装置「ALPS」(250トン/日x3系統)を2013年9月末から順次稼働
▽ALPS増設(250トン/日x3系統) 2014年9月末から稼働
▽新設高性能の除去装置(政府が資金投入、500トン/日)を2014年9月末から稼働▽「地下水バイパス」と井戸からの地下水くみ上げにより2014年10月に流入量を1日当たり400トンから250トンに減らす。
これから地下水やトリチウム水の「海洋放出」が受け入れられるかどうか、という重要な課題に直面する。
これを「浄化完了」といった聞こえのいい言葉だけで乗り切れるとは思えない。
東電の前提で試算すると以下の通りとなる。
2013/10 ~2015/3の1年半
トン 要処理量 タンク内汚染水 350,000 現状 流入量 1年間 400t/d 146,000 半年間 250t/d 45,750 2014/10以降、地下水バイパス等で減少 合計 191,750 要処理量 合計 541,750 処理 可能量 ALPS Ⅰ 750t/d 371,250 年間330日稼働(仮定)、1年半 ALPS Ⅱ 750t/d 123,750 半年稼働 (小計) (495,000) 新型除去装置 500t/d 82,500 半年稼働 合計処理可能量 577,500
この通りなら、2014年度中(2015年3月末まで)に「全ての汚染水の浄化」が完了することとなる。
但し、実際には以下の問題がある。
1) ALPSが計画通り動くのか、年間稼働日数は?
設備は2012年10月に完成したが、原子力規制委員会による安全審査や追加の安全対策に約5カ月間を要し、3系統のうち、A系で2013年3月下旬から試運転が行われた。
設備や運用面で大きな問題がなかったため、残る2つの系統についても、6月中旬以降、順次、試運転を行う予定であったが、6月15日に、試験運転していたA系でタンクの腐食による水漏れトラブルが発生、3系列ともに停止した。試運転中の実績は報告されていないが、修理その他も考慮して、実際に年間でどの程度の処理が出来るのだろうか。
東電幹部によると、 「当初、本店はALPSを使えば、汚染水の放射性物質を除去して海に放出できるので、『タンクは必要なくなる』と豪語していた」という。
過信は禁物である。
2)新型除去装置 は具体案はこれからであり、この通り運用できるかどうかは全く分からない。
3)要処理汚染水の量はもっと多い。
1日約1,000トンの地下水が流入 地下水バイパスで海に放流し、流入量を減らす。 このうち約400トンが建屋に流入 ・凍土方式遮水壁で建屋への流入を防止
・既存の汚染水をサブドレンで汲み上げ残りのうちの1日300トンがトレンチ内の汚染源に触れて、
汚染水として海に流出(これの処理については東電は触れず)
現在、要処理としているのは建屋に流入する日量400トンである。
地下水バイパス等で減らそうとしている日量150トンは、日量 1,000トンの地下水であり、汲上分がそのまま建屋への流入減につながるとは思えない。また、これ以外に汚染水として海に流出しているのが日量 300トンあり、本来はこれも処理する必要がある。
社民党によると、2011年4月に2号機の東側から基準値の2000万倍という超高濃度汚染水約520トンが海に流れ出た際に、ガラス固化材などで流出を止めた原子炉建屋と海をつなぐトレンチ(排水溝)にも約 5,000トンの超高濃度の汚染水が残されていると推測されている。
4)さらに湾内のシルトフェンスで囲った汚染水の処理 がある。
政府は、(完全ではないが)シルトフェンスで汚染水の流出は遮断されているとしている。
現在、遮水壁をつくって、埋め立てる工事を行っているが、この部分の汚染水の処理も必要である。
5)ALPS処理水
参考 2013/9/7 福島原発 汚染水対策ALPSでは汚染水に含まれる63種類の放射性物質のうち、62種類を基準値以下まで除去できるとしているが、トリチウムは除去できない。
政府と東電はこれを地下水で薄めて海に放出する方針だが、国内外の了承を取り付けられるのか?
以上を考えると、要処理量はもっと増える可能性があり、処理量はもっと減る可能性がある。
処理水の海洋放出がもたつけば、処理水そのものを保管することが必要となる。
この状況で、「2014年度中に全ての汚染水の浄化を完了」などというのは無責任である。
首相の五輪招致時の発言と合わせ、国際公約と見なされては大変である。
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経産省は9月20日、国内外から汚染水対策に関する技術提案を募集した。
9月10日に開催された第1回廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議において、汚染水問題への具体的な対応を図るため、国内外の叡智を結集するためのチームを立ち上げ、広く対応策を募集し、寄せられた対応策について「汚染水処理対策委員会」を中心に精査していくことを決定した。
汚染水問題への対応として、以下の6分野について技術提案を募集する。
1. 汚染水貯留
2. 汚染水処理
3. 港湾内の海水の浄化
4. 建屋内の汚染水管理
5. 地下水流入抑制の敷地管理
6. 地下水等の挙動把握
もっと早く周知をあつめるべきであった。
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