政府の原子力災害対策本部は9月3日、東京電力福島第1原発で相次ぐ汚染水漏れ事故について、政府として主体的に取り組むことを明記した「基本方針」を了承した。
地下水が原子炉建屋に流入するのを防ぐ凍土遮水壁の建設費用や、汚染水処理装置の増設・改良計画に国費470億円を投入することが柱。
国費投入 凍土遮水壁 約320億円 (うち本年度予算予備費から140億円) 汚染水処理設備 約150億円 (同上 70億円)
但し、上記の2つとも技術的に確立しておらず、実際に効果があるかどうかは不明。
汚染水対策の概要は以下の通り。
現状 | 対策 |
1日約1,000トンの地下水が流入 | 地下水バイパスで海に放流し、流入量を減らす。 |
このうち約400トンが建屋に流入 | ・凍土方式遮水壁で建屋への流入を防止 ・既存の汚染水をサブドレンで汲み上げ |
残りのうちの1日300トンがトレンチ内の汚染源に触れて、 汚染水として海に流出 (他にH4エリアの汚染水タンクからも300トンが漏れて流出) |
・港湾内に海側遮水壁設置 ・建屋海側汚染エリア護岸に水ガラス壁設置 ・トレンチ内の高濃度汚染水を汲み上げ |
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回収汚染水はタンクに貯蔵 能力限界 汚染水漏れ |
・タンク増設 ・溶接型タンクへのリプレイス ・ALPSで汚染水浄化 ・より高効率の浄化装置を実現 (浄化後もトリチウムを含むが、薄めて海に放流) |
具体的対策は以下の通り。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku/dai32/siryou1.pdf
これまでに講じた対策 | 今後講じる対策 | |
1.汚染源を取り除く | 海際トレンチ内の高濃度汚染水汲み上げ、タービン建屋に移し、浄化 (2013/8/22~)
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ALPSで高濃度汚染水の浄化を加速化 (2013/9/中旬~)
より高効率の浄化装置を実現 |
2.汚染源に水を近づけない | 建屋山側で地下水を汲み上げ(地下水バイパス)、線量確認の上で、海洋に放流 (2013/3設置完了、稼働時期調整中)
建屋の周りを囲む凍土方式遮水壁 建屋地下滞留の汚染水の完全除去のため建屋の隙間等を塞ぐ等、 |
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3.汚染水を 漏らさない |
港湾内に海側遮水壁設置 (一部設置済、2014/9完成)
パトロール強化(1日2回→4回) タンクの全ての堰の排水弁を閉める |
汚染エリア地表のアスファルト舗装 (2013/101より順次)
溶接型タンク増設を最大加速化、 タンクに水位計、漏洩検出装置の設置 高レベル放射性廃棄物を保管する高性能容器などを覆う建屋を設置 高濃度汚染水貯留に関するリスクの洗い出しと対応 |
海側遮水壁
水ガラス壁鋼鉄製の板の壁で、海底から海面上まで幅800mにわたり約700本設置。
水あめ状の薬剤を土壌に注入。
地中1.8 x 16m しか効果がなく、壁の上を汚染水が通って海に漏れ出している。
地下水バイパス
建屋の山側に12本の井戸を設置し、流入前の地下水をくみ上げる。
くみ上げた水は、放射性セシウム濃度が1リットル当たり1ベクレル以下と低いことを確認して海に放出する。
流入量を1日100トン程度減らせると見込んでいる。この案に対する問題が9月5日に明らかになった。
「H4」エリアのタンクから約300トンの高濃度汚染水が漏れていたが、このタンクの南側で掘った井戸から放射性物質を含む地下水が検出された。汚染水が地下水バイパス用の井戸に混じれば、海への放出に問題が生じる。
凍土遮水壁
鹿島が提案したもの。
1〜4号機の原子炉建屋を囲むように200m x 500m(延長1.4km)の壁を設置する。
凍結管を1メートル間隔で地表から20〜30メートルの深さまで垂直に打ち込み、管の中に氷点下40度以下の冷却材を循環させて周囲の土を凍らせ、「土の壁」を造る。
冷却の電気代などに多額の維持費がかかる。
世界的にも前例のない工事になるため、実現可能かは不透明とされる。
凍土遮水壁の2015年度前半の完成を目指し、実際に導入可能か年内に結論を出す。
サブドレン(建屋近傍の井戸)
事故前からあったポンプ設備(津波で損壊)の復旧も進め、建屋にごく近い地中からも地下水をくみ上げる。
海側遮水壁
建屋内の汚染水や建屋を迂回した地下水が海に流れ出ることがないよう、1~4号機の海側に鋼管約600本を打ち込んで遮水壁とする。
汚染水処理設備
東電は汚染水から62種類の放射性物質を取り除く能力がある汚染水処理装置「ALPS」の稼働を目指す。
2013/8/30 福島第一原発、新型浄化装置ALPS を9月中旬に稼働へ
政府は今回の対策で処理能力の向上を目指す研究開発にも取り組む。
但し、この場合もトリチウムは処理できない。
原子力規制委員会の田中委員長は9月2日、日本外国特派員協会で講演し、ALPSで処理した汚染水を一定濃度に薄めて海洋に放出する必要性について言及した。
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汚染水問題は国際的に大きな注目を浴びており、五輪招致にも悪影響を与えている。
韓国政府は9月6日、福島第一原発の汚染水漏れを受け、福島、茨城、群馬、宮城、岩手、栃木、千葉、青森の8県の全水産物の輸入を9日から全面禁止すると発表した。放射能汚染の有無と関係なく韓国内での流通が全面的に禁止される。
8県以外の水産物についても、セシウムが微量でも検出されれば、他の放射性物質の検査証明書を追加で要求することを決定、微量でも放射性物質が検出された水産物は事実上、遮断される。
付記
安倍首相は9月7日、国際オリンピック委員会総会の最終プレゼンテーションで、汚染水問題について「まったく問題はない。汚染水の影響は、港湾内で完全にブロックされている」と強調した。
質疑応答でも、汚染水漏れは「全く問題ない。解決に向けたプログラムを決定し、既に着手した。責任を完全に果たす」と強調。「影響は同原発の港湾内0.3平方キロメートルの範囲内で完全にブロックされている」とするとともに、放射性物質の数値は最大でもWHOの飲料水水質ガイドラインの500分の1、日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しい基準だ」とアピールし、「健康問題には今までも、現在も、将来も問題ないと約束する」と述べた。
「港湾内で完全にブロックされている」というのは言い過ぎ。
東電も「港湾内と外洋を水が行き来していること」を認めている。
3か所にシルトフェンス(水中カーテン)を張り、遮断しているが、完全ではない。
菅官房長官は9月10日の記者会見で、福島第一原発の放射能汚染水漏れについて、同原発の港湾の内外で汚染水を含む海水が出入りしていることを認めた。
ただ、「港湾内でも大幅に基準値以下だ。汚染水の影響については完全にブロックされていると申し上げた」と強調した。
タンクから漏れた汚染水は排水溝から外洋に漏れた可能性が極めて高いとされる。
「健康問題には今までも、現在も、将来も問題ないと約束」したが、そんな約束をしても大丈夫だろうか?
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